第43話 魔法少女、覚醒

 オレは、魔法少女に手を伸ばす。


「お前はオレだ。またオレも、お前なんだな」


 そう。おそらくオレたちは、合わせ鏡みたいな存在だ。


 どっちも自分で、理想で、憧れで。


 自在に魔法を操れる自分を思い描き、形になった。


 それが、目の前にいる魔法少女なんだろう。


 魔法を使いたいという思いの結晶が、コイツなんだ。


 だが、違う。魔法少女はずっと、オレの中にいた。


 その気になれば、オレはいつだって魔法が使えたんだ。


 オレは魔法が不器用なドワーフだが、魔法使いで、魔法少女である。


 この事実は、揺るがない。


 コイツの力は、初めからオレに備わっていたんだ。


 コレは試練じゃない。一連のことだって。


 この儀式は、「チュートリアル」! オレに魔法が使えるって、確認させるための!


『よくぞ見破りました。ドンギオ・ティアーニ。お見事です』


 モグラの声で、魔法少女が語りだす。


『おっしゃるとおり、我はあなたの中に最初から眠っていた、魔法少女としての存在。あなたの中に、魔法を隠していました。その力が、今あなたの中で完全に覚醒します』


 魔法少女の方から、オレに近づいてきた。


「ドンギオ?」


 そばにいるメルティが、心配そうにオレに声をかけてくる。


「大丈夫だメルティ。見てろ」


 オレは、伸びてきた魔法少女の手を取った。


 わかる。オレの中で、魔法少女の力が覚醒していくのが。


『我ら精霊は、数々の段階を経て、あなたを魔法少女へ導いていました。最初からあなたは、大きな力を秘めていたのです。試練達成は、その力をアンロックしていたに過ぎません』


 つまり、いつでも最大魔力を発動できたわけだ。


 とはいえ、「人格・肉体まで少女化してしまう」デメリットも。そのため、少しずつアンロックしていくしかなかった。今ならわかる。魔法習いたての頃に覚醒していたら、オレは魔法少女の力に飲み込まれていた。


 眩しくて、オレは目をつむる。


『これにて、魔法少女として覚醒しました』


 オレは、恐る恐る目を開けた。


 信じたくはなかったが、やはり魔法少女の服装を着ている。


 ただ、男性らしさを考慮したデザインになっていた。中性的なファッションというべきか。変態的な、見苦しいルックスにはなっていない。 


『ですが、お気をつけください。ダークドラゴンの目的は、あなたの完全覚醒です。魔法少女としての力をフルに発揮することは、魔法少女としての魂をむき出しにすることなのです』


「そのとおりだ!」


 メルティの後ろから、声がする。


 ヨランダが、姿を表す。ローブから伸びた腕が膨張し、ドラゴンの前足となった。


「危ない、ドンギオ!?」


「エルフ風情がっ!」


 ドラゴンの爪を、ヨランダはメルティに振り下ろす。


 メルティが即座に反応して、盾でヨランダの攻撃を受け止めた。


「ハート・オブ・ファイアー!」


 特大のハート型火球を、ヨランダに撃ち込む。


「くうう!」


 ヨランダを炎に巻き込むことは、さすがにできない。だが、圧力で外へ押し出すことには成功した。


「どうして、覚醒しきらないうちに殺さなかった?」


 ダンジョンの外へ出て、オレは身構える。


「覚醒していない魔法少女は、殺しきれぬ!」


 ダークドラゴンの狙いは、魔法少女の根絶だ。たとえ弱い状態の宿主を殺害しても、覚醒していなければ、拡散してまた姿を隠してしまう。そうやって、魔法少女の力は生き延びてきた。


 なので、一箇所に集まった状態で殺す必要があったらしい。


「ほこらに閉じ込めておくのではなく、魔術を受け付けぬドワーフの肉体に隠し、ひっそりと眠らせるとは。考えたな」


 魔法少女側の狙いは、力を安全な場所に隠すことだった。


 だがオレは、それをムリヤリ起こしてしまっている。


 オレが魔法使いになろうなんて思わなかったら、魔法少女は永遠に隠されていた。


 しかし、オレが旅をしなければ、ダークドラゴンを止められなかっただろう。


 だから、全部オレが落とし前をつける!

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