第42話 最終試練

 魔法少女が、無表情な顔でオレを見ている。


 オレは魔法少女に試練で負けると、魂がヤツの肉体に吸収されるという。


「マジか」


『大マジです。それが、魔法少女の試練なのです』


 資格のないものは、取り込まれる。それが、魔法少女の掟だと。


 ダークドラゴン戦の前に、とんでもない試練が待っていた。



「どうあっても、勝たないといけないのね?」



「ドンギオ! 精神が侵食されています!」


 メルティが、オレに警告してきた。


「え!?」


 やべえ。言葉遣いが女っぽく。


 身体が、少女になることを受け入れてやがる。ちょっと興味があるのか?


「わたしとの結婚が控えているので、女体化されると困ります!」


「そうね。パパッと片付けてしまうわ」


「だから言葉遣いが」


「いっけね!」


 気を抜いたら、また心が少女化してしまっていた。精神攻撃が半端ねえ。足も気がつけば内股になっていたし。身体が、女性になることを受け入れてしまっている。


 冗談じゃねえ。オレは女体化になんか負けない。


「ドンギオ、来ますよ!」


 メルティから声がかかった瞬間、魔法少女が飛んできた。無表情のまま。


「おっと!」


 オレはハンマーを構えて迎え撃つ。


 だが、相手もオレと同じハンマーを振り下ろしてきた。


「なにい!」


 互いのハンマーが、火花を散らす。


『お気をつけください。あの魔法少女は、あなたの完全体です。不完全なあなたでは、魔力を使いこなせません』


 あの魔法少女をねじ伏せない限り、ダークドラゴンに勝ち目はないってわけか。


「やってやらあ!」


 魔力を乗せた攻撃に、力業で合わせる。


「トルネード!」


 コマのように身体を旋回させて、ハンマーを振り回す。


「ちいいい!」


 魔法少女が、トルネードを返してきた。力押しにも対応するかよ!?


 互いの魔力が反発しあって、オレたちは離される。


 こっちは両手で目一杯殴っているのに対し、魔法少女は片手でハンマーを操っている。それこそ、魔法少女のバトンのように。


「がっは!」


 オレは、ハンマーで盛大に顔を殴られた。自分でやられると、こうも痛いものなのか。


 壁に激突して、オレは意識を喪いそうになる。


 こうしている間にも、魔法少女はオレにとどめを刺そうと迫っていた。


「ドンギオ!」


「来るな!」


 まだ、オレは負けていない。


「それより、メルティ、ダークドラゴンの気配は?」


「ありません。ここは竜族にとって聖域みたいで、触れられないのかも」


 だから、今まで攻めて来られなかったのか。


 とはいえ、悠長に魔法少女と力比べをしている場合じゃない。


 一瞬、この女に取り込まれてやろう、とも考えた。勝率を上げるなら、それが一番効率がいい。もっとも勝ち目のある、冴えたやり方だと。


 けど……。


「お前の力を、いただくぜ。正々堂々とな」


 オレは、真っ向勝負する覚悟を決めた。


 他人に世界を委ねる考えは、すぐに振り払う。


 それは、オレが負けたのも同然だから。


 心が折れてしまっては、ダークドラゴンにだって勝てない。

 勝てたとしても、心中エンドになるだろう。

 ドラゴンもろとも、自爆しか手はなくなる。

 使命感でしか動いていないやつの、考えそうなことだ。


 オレがさっきまで女言葉になっていたのは、他人に運命を委ねようとしていたから。

 魔法少女に平和を託すなんて、日和ったアイデアを思いついてしまったことが原因だ。


 知らず知らずのうちに、楽をしようとしたいた。

 それが最適解だと、錯覚して。


 違う!


 そんな勝ち方は、勝ったとはいえない。



 メルティもひとりぼっちにしてしまう。



 そんなのは、イヤだ。


 だから……。


「堂々とお前に勝って、お前の力を使って、オレは、ダークドラゴンを仕留めに行く! だから、オレに力を貸せ。魔法少女! 二人で、やつを倒すぞ!」


 痛めつけられたって、かまわない。圧倒されたって、もう折れるものか。


 オレの身体は、オレのものだ。誰にもやるもんか。


「ぬう!?」


 どういうわけか、体中から活力がみなぎってきた。


「身体が、光ってやがる!?」


 それだけじゃない。今まで取り込まれそうだった精神が、安定を取り戻す。


「これが、本当の魔法少女の力なんだな?」


 今までオレは、魔力こそ魔法少女の本質だと誤解していた。


 そうじゃない。

 不思議な力とは、肉体や精神すべて合わさって、初めて引き出されるものなのだろう。

 いわば、魂を燃焼させて作り出す力なんだ。


「わかったぞ。ずっと誤解していたんだな、オレは!」

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