第40話 最後の対決へ

 どうやら先程の宴は、婚礼の儀式だったらしい。


 就寝時、オレはメルティと個室で二人きりにされる。


 メルティは、やたら扇情的な衣装に着替えさせられていた。もう下着に近い。


「眠れませんね」


 肝心のメルティが、すっかり萎縮してしまっている。


「ドンギオとは、いつも一緒に寝ているのに。ちょっと照れくさいですね」


「お前が照れると、オレも眠りにくいよ」


「いつもはエムさんも一緒なので、とくに意識していなかったんですけど」


 ただ、朝まで起きているわけにもいかない。明日には、もう出発しないと。


「ですよね。困っちゃいますよね。結婚しろだなんて」


「いや。婚約自体は、うれしいんだ。そう思ってもらえたらだけど」


 ボッと火がついたように、メルティが赤面する。


「そうですか。実はドンギオを慕っていました。こんなポンコツでも、大事にしてくださって」


「最初は、仲間だからと考えていた。でも旅をしているうちに、オレも意識するようになってきた。使命あるから、ずっと黙っていたけど」


 生きられるのは、もう最後かもしれない。そう考えると、悔いを残したくなかった。


「けどさ。結婚するのは、今じゃないよな」


「ですよね。全部終わってからにしましょう」


 今、幸せを手に入れるのは、違う気がする。


 まだ、幸せになれない人だっているのだ。


 ダークドラゴンを倒して、世界を平和にする。


 個人的な事情は、それからだ。


「裸だけでも見ますか?」


 メルティが、最後の服すら脱ぎ始める。


「いい! いいから!」


 オレはメルティに背を向けて、横になった。


 ホントは今すぐにでも、メルティを抱きしめたい。


 でも、そんな気分にはなれなかった。


「エムさんも心配してくれているはずですから、最後までがんばりましょう」


「うん。だからメルティも寝ようぜ」


「はい。おやすみなさい」


 ようやく落ち着いたのか、メルティの寝息が聞こえてくる。




 翌朝、商人のトマーゾと別れることにした。コレ以上は危険すぎて、連れていけない。


 トマ―ゾは、エルフから仕入れた薬草やマジックアイテムを船に積んでいる。代わりに食糧や衣類など、大量の救援物資をエルフの島に。


「ありがとうございます。トマーゾさん」


「いいんだ。これくらいしかできないからな」


 メルティと、トマーゾが握手をかわす。


「ドンギオさん、一緒に旅ができなくて残念だ。ダークドラゴンを倒したら、また店に商品を卸してくれるか?」


「もちろんだ」


「死ぬんじゃねえぞ」


「簡単にはくたばらないよ。メルティと結婚したからな」


「夫婦で、王都の店を切り盛りしていくんだな。夫婦間で悩むことがあったら言ってくれ」


「ありがとう、トマーゾ。元気で」


 トマーゾが帰りの船に乗ったところで、オレも巨人に乗り込んだ。


 エムがいない今、この巨人はもう戦力にはならない。ラストダンジョンに入ると、乗り捨てになる。


 決戦の地は、魔法少女の洞窟へ向けて、巨人を飛ばした。


 オレが、力を手に入れた場所である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る