第39話 竜化

 エムの身体が、ドラゴンへと変わった。その姿は、ダークドラゴンの色違いにも見える。


「があああ!」


 銀色の竜が、魔王の横っ面にシッポを叩きつけた。


 火山に、魔王の身体がめり込む。


 魔王に向けて、エムがブレスを吐く。


「ぐおおおおお!」


 魔王も、漆黒のブレスを放射した。


 しかし、エムの威力のほうが強い。あっという間に、魔王のブレスを打ち消す。


 ブレスを吐ききって、エムが肩で息をはじめた。


 そのスキを突き、魔王がエムの足に触手を絡ませる。


 エムが、転倒した。


「貴様を殺せずとも、魔法少女さえ倒せば、我が野望は達成させる!」


 魔王が、オレの乗っている巨人に向かって歩いてくる。


 だが、オレは動かない。エムの作戦通りに。


「ドンギオ、行け!」


 オレはエムの合図とともに、杖に全力を注ぐ。


「ハート・オブ・ファイアーッ!」


 杖からハート型の火球を展開し、魔王に叩き込んだ。


「フン。その技は我には……バカな!」


 手で防ごうとした魔王の身体が、砕けていく。


「なぜだ? ここまでのパワーは、ドラゴンの力でも供給されなければ!」


「巨人の足元を見てみな」


「なにを……ぐっ!?」


 魔王が、巨人の足にある異変に気づいたらしい。


 巨人の足に、エムのシッポが絡みついている。


 エムは魔王と戦うフリをして、巨人に魔力を注ぎ込み続けていた。最初のシッポ攻撃で、そのままシッポの先を地面に突き刺して。


「おのれえええ!?」


 なすすべなく、魔王が灰になっていく。最後は、ハート型のクレーターが残った。


「やりましたよ、ドンギオ! 勝ちました!」


「魔王を、どうにか討ち取ったな」


 そこまでで、巨人が起動しなくなる。


 ドラゴンだったエムの、変身が解け始めた。


 オレとメルティが、巨人から脱出する。


 エムは、元の人間サイズへと戻っていった。


「おっと!」


 オレは慌てて、後ろを向く。エムが、全裸だったからだ。


「大丈夫です。マントをかけたので」


 メルティが機転を利かせて、エムの身体を隠す。


 親族である王都の国王や、エムの両親が島に。


「エムは、大丈夫なのか?」


「息はしている。だが、力を使い果たしてしまったようだ」


 これ以上旅をしても、足手まといになるほどだという。


「しばらく、我が国で療養しよう」


 その方がいい。


「連れて帰ってくれ。コレ以上は、巻き込めない」


「うむ。責任を持って王都へ帰そう」


 マントにくるまったエムを、国王に任せた。


「最終決戦の場だが、北にあるミロトスの丘に、魔法少女の最後の領域がある。そこへ行くがよい」


 オレの旅の終着点じゃないか。


「ちょうど、向かうところだった」


「ならばよし。その巨人に乗れば、すぐに到着するだろう。そこへ行くまでのパワーは、注いでおいた」


「ありがとう。助かる」


「エミーリアは、数日もすれば目を覚まそう。お主らの旅に間に合うかは、わからんが」


 いいさ。エムはよくがんばってくれた。


「とはいえ、もうエミーリアの力がなくても、おそらくお主たちだけでも魔法少女の封印を解けるだろう。だが、心せよ。ダークドラゴンは手強いぞ」


「気をつけるよ。では」


「うむ」


 竜人族たちは、王都へと帰っていく。


 入れ替わる形で、エルフの長老たちがオレたちを歓迎した。


「魔王をやっつけちゃうなんて、すごいや!」


 エルフ族の子どもたちが、歓喜の声を上げる。


「いやあ。無事でよかった」


 彼らが大事なければ、それだけでいい。




 最後の旅へ出発する前、ささやかな歓迎の宴を開いてもらった。


「ああ、どうも」


 料理こそ薄味だが、もてなしを受けてオレはうれしく思う。


 それにしても、メルティがやたら艶っぽいのは気のせいだろうか? いや、気のせいだろう。


「よかったな、アメンティ。こんなにも慕っていらっしゃる殿方がいなさって」


「……ん?」


 長老が、妙なことを言い出したぞ。


「ドンギオ殿、この娘をヨメとして迎え入れてくださって、感謝致す」


 ん!?

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