第37話 タマネギ頭の巨人 機動

 オレたちは、巨人の内部に乗り込んでみる。胸までよじ登って、持ち上げ式のドアを開けた。


 中は、制御室になっているらしい。


「どうやって動かすんだ? エルフでないと動かせないのか?」


「魔力さえあれば、誰でも起動は可能じゃ。悪しき心があるものには、動かせぬ」


 やたらとアバウトなセーフティが、かかっているようだ。


「では、さっそくといいたいが」


 両手をこすり合わせていざ出陣という直前で、考えを変える。


「メルティ、来てくれ!」


 オレは、メルティもこの巨人に乗せることにした。


「いいんですか、ドンギオ?」


「お前が一番、狙われているんだ」


 メルティが巨人に乗るのが、一番安全かと思える。


「そうですね。エネルギータンクとしても、わたしが適任ですし」


「だろ?」


 オレが駆動系を、エムが火器管制、メルティがエネルギー制御を担当することにした。


「お気をつけて。本来なら、多数のエルフで動かす代物ゆえ、少人数で動かす設計ではない」


 長老は言うが、ここは気心の知れた少数精鋭で行かせてもらおう。


「いくぜ!」


 思考を巨人に読み取らせ、立たせた。地下洞窟から海にダイブして、クラーケンのいる海域へ。


 突然現れたタマネギ頭に、クラーケンも驚いている様子である。


 せいぜい、見た目をバカにしているがいい。そのうち動けなくなる。


 クラーケンが、身体を支えていた触手を伸ばす。


 巨人に指示を送って、触手をすべて掴んだ。そのままクラーケンの巨体を振り回し、岩へ叩きつける。


 頭を強く打ったのに、ダメージが見られない。海底の水圧がかかっていて、衝撃が半減している。その上、軟体生物だからか。


「だったら、何度も打ち付けてやるぜ!」


 巨人に、地上へ上がるように命令を出す。


 大きく跳躍し、巨人が海から飛び出した。


「おら!」


 今度は陸地に、クラーケンの頭を叩き落とす。


 さしものクラーケンも、地上ではダメージを吸収できないらしい。動きが鈍ってきた。


「効いているぞ! お前ら、今のうちに逃げろ!」


 大勢のエルフを乗せた船が、島から続々と出ていく。


 逃すまいと、クラーケンが岩を投げて船を沈めようとした。


「おっと!」


 オレはケリをかまし、クラーケンに向かって岩を打ち返す。


 尖った岩が突き刺さり、触手が引きちぎれた。


「かなり動きが激しかったな。メルティ、体調はどうだ?」


「平気です。この巨人を動かすくらいのパワーは、ありますよ」


 ひとまず、大丈夫そうだ。


「エムは?」


「武器がどれなのか、わからん! このままでは、ジリ貧になりそうだな」


 肉弾戦しか手段がないのが、致命的だな。


「オレのアイテムを、投影できんかな?」


 アイテムボックスから、ハンマーを取り出す。


「おっ?」


 巨人の手にも、ハンマーが現れた。


 ハンマーを掴み、ブンブンと振り回す。


「おっと」


 海へ逃げようとしたクラーケンの足を、巨人の足で踏んづけた。


「覚悟しろよタコヤロウ」


 こいつのせいで、かなりの犠牲者が出ている。これ以上被害は出せない。


「ふん!」


 ハート型の火属性魔法をハンマーに込めて、クラーケンに叩き込む。


 悲鳴こそ上げないものの、クラーケンは悶絶した。


 あれだけ威勢のよかったクラーケンが、ハンマーを打ち込まれる度に弱っていく。逃げる力すら、残っていない。


「トドメだ!」


 オレは、ハンマーを大きく振り上げた。


「待て、ドンギオ! 地面の様子がおかしい」


「なにがあった? うお!?」


 最後の船が出た辺りで、地震が起きる。


「ドンギオ、エルフたちの脱出が完了しました。同時に、魔王の封印も解けてしまったようです!」


 メルティの言葉通り、火山の噴火が起きた。マグマの色が、黒い。


「あのマグマ自体が、魔王です!」


 夜のような色のマグマが、クラーケンの黒い肉体を焼き尽くした。


 クラーケンの肌が、ブクブクと泡立つ。いや、魔王の魔力が魔物に侵食している?


「魔王がクラーケンを食って、実体化しようとしている!」

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