第36話 ダークドラゴンの揺さぶり

「魔王の封印を解くですって!?」


 エルフの長老と、話し合いをする。


「ドンギオ殿、許可はできない。アメンティひとりのために、大勢のエルフに死ねと言っているようなものだ」


 長老、アメンティ……つまり、メルティだけ優遇する訳にはいかないと述べた。


 やはり、エルフたちからは反対意見が出るよな。


「だが、このままにもできないだろうが。ダークドラゴンがおとなしく、同胞である魔王が封じられたままの状態を見過ごすなんてありえないぜ」


「うむ。あなた方エルフは終始狙われ続け、結局は多くの犠牲を強いられる」


 オレとエムで、粘り強く対処した。


 そこまで言われて、反論する者たちはいない。実際に、危険な目に遭っているからだろう。でなければ、ギュレイのような強いフェンサー職なんて現れない。


「どうすればよろしいか?」


「全員、竜人族の船で王都まで避難しろ。これだけの数なら、一時的にだが滞在させられる」


 大変ではあるがその分は労働で返してくれと、エムは提案した。


 数日かけて、エムが竜人族の船を、トマーゾが商人たちの船を用意した。これで、エルフ族のピストン脱出を進める。


「我々の資産は、心もとない。王都に借りを作るとなると」


「いや。その心配はないぜ。あなた方の一人娘を差し出してくれるならば、な」


「ではアメンティを」


 長老が、メルティのいる方角を見た。


「そういうこった」


「ならば、参りましょうぞ」


 エルフたちが、長老の先導で船に乗り込もうとしたときである。


「クラーケンだ!」


 竜人族の船が一隻、蛇のような触手に巻き付かれて沈められた。


 続けざまに、今度は商船が二隻、海の藻屑となる。


 幼いエルフたちを、親のエルフたちが避難させた。


「くそ。行きはおとなしかったから油断した!」


 こちらの行動は、やはり読まれていたか。エルフが脱出するタイミングを、狙ってくるとは。


 どのみち、エルフたちは魔王を復活させる必要があった。対処療法なんか、続かない。やがて漏れ出した瘴気を求めて、魔物が集まり出す。あのクラーケンだって、魔王の力を取り込むつもりだろう。


 あるいは、ダークドラゴンがけしかけたか。エルフを一気に壊滅させられる、いいチャンスだ。そのまま、ガラ空きの聖地に攻撃もできる。


 いずれにせよ、遅かれ早かれこうなっていた。


 エルフたちが、海に向かって魔法を打ち込む。


 しかし、足しか出していないクラーケンに致命傷を与えられない。


「任せろ!」


 オレは海にダイブした。


「デカい!」


 思わず、息を一気に吐き出しかける。


 海底すべてを覆い尽くすのではないかというほどの大タコが、船を狙っている。


 丘に上がって、対策を練り直す。


「作戦中止! 船は、近隣の島に退避しろ!」


 エムが号令をかけて、船を離れさせた。


 クラーケンは、それ以上襲ってこない。やはり、ただの足止めが狙いか。


「あんなデカブツを動かすには、結構な魔力のリソースが必要だからな」


 また、存在しているだけでも意味がある。クラーケンが居座ったままでは、エルフの里は何もできないからだ。漁もできず、補給も受けられない。


「先に魔王を殺すってのは、無理だな」


「ああ。どれだけ犠牲が出るか、わかったもんじゃない」


 魔王撃退案は、エムによって却下される。


「我々竜人族が、【竜の力】を解放してもいい。しかし、海の魔物にどれだけ対抗できるかわからん。しかも、理性をなくしてしまう」


 エムでさえ、竜の本能には負けてしまうという。


 ヨランダによる王都襲撃は、王たちをドラゴンへ変えて、彼ら自身に街を破壊させることが目的だった。そこまで狡猾なやつだったとは。


 かくなる上は、と、長老が立ち上がった。


「どちらへ」


「見せたいものがありますじゃ。こちらへ」


 メルティのいる、地下の滝へ案内される。


「皆さん、わたしは祈ったままでいいのでしょうか?」


 巫女服姿のメルティが、聞いてきた。台座で祈りを捧げたままで。


「そうしておいてくれ、アメンティ。あの化け物は、こちらで対処する」


 滝の裏に、長老がオレたちを招き入れた。


「なんだこれは……」


 ずんぐりむっくりした巨人が、さらに大きな玉座に座っている。


「魔王討伐の際に使用した、御神体のアイアンゴーレムですじゃ。このゴーレムを、使ってくだされ」


 その巨体は、メルティと初めてあったときのヨロイに、そっくりだった。

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