第35話 重戦士エルフの旅の真相
エルフの島、アレーナ島にたどり着く。
すんなり、オレたちは通してもらえた。
てっきり身体検査があるか、最悪追い出されるかと思ったのだが。
「交流自体は、盛んなのです。そうでないと、過去に脱走者が何人も出たので」
まあ、ここは娯楽がなさそうだし。
メルティは、ヨロイを脱いだ姿で島に降り立った。
すぐに、幼いエルフたちが集まってくる。メルティをよほど慕っているのか、わいわいとハシャイでいた。
「ただいま帰りました。心配させてごめんなさい」
小さい子たちから歓迎を受けて、メルティがわずかに涙ぐむ。
「おかえり。よく帰ってきたね」
雰囲気がメルティそっくりな男女が、メルティを迎えた。少しばかり、憔悴しているようにも見える。
「お父さんお母さん、黙って出ていってごめんなさい」
やはり二人は、メルティの両親か。
「無事なら、いいんだよ」
メルティの父親が、責めるでもなく娘の肩を抱く。
「強制的に連れ帰る目的では、なかったのか」
「はい。妹が無事ならそれでよし、と」
ギュレイに聞いてみると、「メルティは自然に帰ってくる」と考えていたらしい。
「それだけエルフの使命は大事と、彼女もわかっていましたから」
すごい確信だな。メルティを、信じ切っている。
メルティは両親に連れられて、滝の方までついていく。ギュレイによると、あそこがエルフの聖地らしい。
同時に、魔王の一部を封じている場所だと。
「オレたちが行っても?」
「構いません」
聖地に足を踏み入れる。
「エム、なにか感じるか?」
「ビリビリと、瘴気が伝わってくるな。それ以上の聖なる力で、強引に封じ込めている」
エムが言うには、この島は地面との繋がりがないらしい。
つまり、魔王の一部に「フタ」をするために、この島を作っているのだとか。
「実に不安定な場所だ。よくもこんなところに住めるな」
オレやエルフたちは平気だが、エムひとりだけがよろめきながら歩いていた。
メルティが、滝の真下にある台座に腰を下ろす。姿勢を正して、手を重ねた。
「おお、地面が安定してきた」
エルフの祈りが通じているのか、エムのよろめきもなくなる。大地が、安定したのだ。
「しかし、対処療法にしかなっていないよ」
エムの指摘は、厳しい。
「ギュレイ、質問だ。誰も、下に沈めている魔王を撃滅しようとは考えなかったのか?」
「それだと、より多大な犠牲が出てしまうので」
ギュレイの口ぶりだと、壮絶な戦いだったことが想像できる。
「ならばなおさら、魔法少女などに協力を仰げばよかったのだ」
「竜族は、ダークドラゴンとの戦いで疲弊していたので」
ドラゴンに協力を要請しても、当時は手が足りなかったらしい。
なので、エルフだけでなんとかするには、こうするしかなかったとか。
では、メルティはこのままずっとあの祈りを続けなければならない。
「ねえねえ、旅の人なんでしょ?」
オレは、ちびのエルフたちに囲まれた。
「旅のお話を聞かせて」
「どういうものを食べたとか、どういうダンジョンがあったとか」
ちびたちは、オレたちがどこから来て、どういう生活をしているのか興味があるらしい。
「ここは通常空間とは隔離されていて、あまり地上との交流がないのです。だから、旅人の話は貴重なんですよ」
そう、ギュレイは語る。
メルティは交流役ではないのだが、誰かが外の世界へ赴くというと、必ず同行していたらしい。
今回の家出も、積み荷に紛れて身を隠していたのだとか。
「いつもお姉ちゃん、船で帰ってくる度に教えてくれるんだけど、今日は用事があるからって」
なるほど。
メルティがどうして旅をしていたのか、オレは気がついた。
やはり、自分の好奇心を満たすためじゃない。
一度巫女になってしまったら、もう土産話なんてできないからだ。
「オレが今何を思っているか、わかるか、エム?」
「うむ。メルティは、旅を続けるべきだ」
そのためには、この下に眠っているやつを始末せねば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます