第33話 ダークドラゴンの首領

「今回はあいさつ程度だ。ベールセイアルの王、オスカル・ヴィヴィーオ」


 エムを黒髪にしたような少女が、王に告げる。


「あいさつにしては随分ではないか、ヨランダ」


 走って王城へ向かうオレたちからも、少女と王との会話は聞こえた。


 どうやら、あの少女は、ヨランダというらしい。


「お前からすれば、こんなものは小事だろうが」


「それでも、甚大な被害だ」


 城は外壁が破壊され、警備兵の大半が負傷していた。


「マタンゴの群れが、このベールセイアルを地獄へ変えてくれるかと期待した。が、忌々しい魔法少女が邪魔をした。やつを差し出せば、王都への攻撃は控えてやろう」


 邪悪な言葉を発し、ヨランダは王を挑発する。


「そんな要求に、応じると思ったか?」


 国王は、剣を抜こうとした。


「ならば、あいさつでは済まされぬ!」


 ヨランダが、ドラゴンに指示を送る。


 シッポを振って、ダークドラゴンが兵隊ごと王を蹴散らそうとした。


「させるか。ハート・オブ・ファイアーッ!」


「なに!?」


 オレは走りながら、跳躍する。魔法少女の力を込めた、特大の火属性魔法を放つ。


 火球は王城まで飛んでいき、ドラゴンを飲み込もうと迫った。


 ドラゴンも反転し、ハート火球の迎撃を余儀なくされる。シッポで弾き飛ばそうとした。


 だが、さすがのドラゴンでもハート型の火の玉を押しきれない。


「ちいい! 力がまだ!」


 ヨランダが、杖を火球に向けた。漆黒のスペードを模した魔方陣を描く。


 巨大なスペードとハートが、空中で相殺した。


「グギャアアア!」


 ビリビリと、ドラゴンのシッポがシビれだす。


「くそ、わずかに浄化魔法を食らったか。今日は退く。しかし、次はないと思え!」


 ドラゴンが、少女を乗せたまま夜の闇へと消えた。飛んでいったというより、星空に溶け込んでいった感じがする。


「ドンギオ殿、また助けられたな。感謝する」


「いいんだこんなの」


 さすがに、もう魔力もカラッポだが。


「お祖父様、今のは?」


「あの女の名は、ヨランダ。ヨランダ・ヴィヴィーオ」


 ヴィヴィーオってことは。


「察しのとおりだ。ワシの弟の忘れ形見」


 つまり、ダークドラゴンの正体は身内というわけか。


 ヴィヴィーオの弟は、一家総出で倒したそうだ。しかし、娘だけを取り逃してしまったという。


 だから、執拗に国王を狙っていたのか。


「ダークドラゴンの力はまだ完全ではないが、時間の問題だ」


「それで、エムと接触させたくなかったんだな?」


「うむ。エミーリアは甘いところがあるゆえ」


 エム……エミーリア姫には学問に専念してもらって、その間に我々で決着をつけようと思っていたのだ。


「ならば、最初から言えばよかっただろうがっ! 回りくどいことはせず!」


「お主は! 身内殺しを、なにもわかっておらん!」


 反論するエムを、国王が叱る。


「そうだ。お主とほぼ同じ竜人族を、相手するのだぞ!」


「危険だよ! これでわかったでしょうが!」


 エムの両親も、エムが旅立つのに。


「ならばなおさら、ボクが決着をつけるべきじゃないか! 年長者にだけ任せていられるほど、ボクは呑気ではないよ!」


 とはいえ、エムの決意は固い。


「ドンギオたちを導けるのは、ボクだけだ。彼らを放っておいて、王都や学校でじっとしているわけにはいかない」


「エミーリア……」


「世界のために友だちを捨てられるほど、ボクは冷酷じゃないんだよ」


 王はもう、何も言ってこない。


「うむ。好きにしろ。しかし」


「ありがとうお祖父様。わかっている。ヘタに死んで、竜人族の血は絶やさないよ」


 どうやら許しは出たようだ。


 ひとまず、竜人族の問題は片付いた。


 しかし、メルティの様子が変である。


「メルティ、どうした? さっきから空を見つめて」


「……わたし、故郷へ帰ります」


 いったいどうしたというのだ?


「巫女としての使命が、必要になったので」


「どうしたってんだ。あれだけ帰りたがっていなかったのに」


「あのドラゴンが向かった先に、わたしの故郷があります」

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