第32話 女子会
王都には、キノコの香りが充満している。
キノコを味わいながら、メルティはなにかを決意しているようだ。
「ドンギオ。わたし、もうちょっとお店の焼きそばを食べていますね」
「お姉さんは、いいのか?」
「はい。姉が言ってくれたんです。もっと色々と見てこいと」
メルティは、雑踏の中に消えていった。
気になって、オレは治療院に向かう。メルティの姉である、ギュレイがいるはずだ。
「ギュレイは?」
ベッドに、ギュレイの姿はない。まさか、容態が悪化して。
「あのエルフさんなら、酒場に顔を出すと言っていましたよ」
「よかった。ありがとう」
看護師にそう告げられた。
オレは、王都の酒場に行く。
ギュレイは、エムと食事をしていた。さしずめ、女子会の様相を呈している。
トマトサラダとキノコクリームパスタを、ギュレイは片付けた。
「しっかり食べるんだ。キノコなんてもう見たくないかもしれないが、栄養価は高い」
エムがキノコと肉を切り分け、ギュレイに皿を渡す。
「ふわい。もっちゃもっちゃ」
体力を消耗していたのか、ギュレイはフォークが進んでいる様子である。
しかし、なんだこの量は。食べても食べても、減っていないじゃないか。ロースビーフなんて、塊で残していた。
「とはいえ、さすがに頼みすぎたね。申し訳ない。こういうオーダーには、慣れていなくてね」
かなりボリューミーな料理を、エムも用意している。女二人で食べる量じゃないよな。
とはいえ、ギュレイはほとんど食べ切れていない。やはりエルフというべきか、胃袋が小さいのだろう。
「ドンギオ、早速で悪いが、食べ残しの処理を頼めるか?」
「任せろ」
ほとんど手を付けていない肉を、オレは平らげる。
「身体はいいのか?」
「はい。おかげさまで。妹のポーションのおかげです」
空になった小瓶を、ギュレイは大事そうに握りしめていた。
「メルティが、家を出た原因は?」
オレが聞いても、ギュレイは首を振った。
「あいつは、世界中の飯を食うんだって、外へ飛び出したらしい。巫女の仕事が始まったら、二度と外に出してもらえないからって」
「あの子らしいです」
ギュレイは、ハーブティのカップに口をつける。
「いや。オレにはどうもメルティが、そんな理由で家出するような女には見えないんだ」
不思議そうな顔を、ギュレイが見せてきた。
「もっと、大切な用事があるから、出ていったんじゃないのか?」
「そう言われても、心当たりはありません」
姉も知らない事情を、彼女は抱えているのか?
「探していたのは、メルティが家出したからっ、てだけか? 例えばメルティが、人を殺したとか」
「とんでもない。子どもたちにも慕われていました」
ギュレイはさらに、首を振る。
それにしても、メルティはどうして家出なんて。
特に不自由は、していなさそうだったんだけどな。何が気に入らないのかは、本人に直接聞くか。
「跡取りってのが、重荷だったのかしら?」
「ん? 第一王女はあなただろう? なぜ妹君のアメンティ王女が跡取りなのだ?」
エムからの問いかけを、ギュレイは肯定した。
「わたしは島の政を、妹のアメンティには巫女を任されているのです」
巫女としての力は、メルティの方が上らしい。
「本当はわたしが、巫女になれればよかったのです。わたしは、地元の島が好きなので。けど、妹のほうが魔法の素質は高くて」
親が勝手に、決めてしまったのだという。
「それじゃあ、一体何が――うおっ!?」
城の方で、大きな物音が。爆発?
「ドンギオ!」
オレが外へ出ようとしたら、メルティと鉢合わせした。
「なにがあった、メルティ!?」
「お城が、お城が燃えています!」
城の方角を、メルティが指差す。
王城を、黒い影が覆っていた。夜よりも黒く冷たいウロコを翼に張り付かせ、黒いドラゴンが宙に浮いている。さっきの爆発音は、ドラゴンの尾が強固な城の外壁を破壊する音だったのだ。
あれが、ブラックドラゴンか。
ドラゴンの頭上には、真っ黒い長髪をたずさえた女が。濃い紫のローブをまとった少女は、バルコニーにいる王を睨んでいた。
「あれは……」
エムが、驚きの顔になる。
黒髪の少女は、エムそっくりだったのだ。
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