第30話 毒消し魔法少女

 治療院で寝かされたギュレイは、誰が見ても虫の息だった。


 ギュレイは、初心者向けのダンジョンにメルティを探しに向かったという。そこで、素人の冒険者をマタンゴの攻撃からかばって、毒ブレスをもらったらしい。


「冒険者の装備では刃が立たず、切りかかっても武器が腐食してしまうんだ」


 唯一戦えたギュレイさえ、この状態である。


「オレが戦ったマタンゴより、遥かに危険なヤツじゃないか」


 ポーションや毒消しの薬草でだましだまし治癒を施しているが、完全には回復できなかった。


 こうしている間にも、ギュレイの命は消えかかっている。


「待っててください姉さん。今助けます!」


 ハーバリストであるメルティが、秘薬を取り出した。強制的に口を開けさせる容器へ、瓶の中身を移す。


「お前、正体を明かしてもいいのか?」


「わたしは閉鎖的な故郷があまり好きではありません。食べることが大好きです。でも、大切な姉を失ってまで、手に入れたくはありません!」


 メルティは秘薬をギュレイに飲ませた。


 ギュレイのノドが鳴る。


 わずかに、顔色はよくなった。しかし、毒の特徴である斑点が消えない。


「毒が消えない。それだけ強い毒なのですね?」


「おそらく、ダークドラゴンの力が宿った毒だ。エリクサーを持ってしても、完全には回復できん」


 エムが、ギュレイの身体を分析した。


「オレがやってみる」


 治癒能力を得たオレなら、ギュレイの毒を取り除けるかも。


『ドンギオ・ティアーニ、我が力を貸します』


「頼む。ギュレイの毒を、取り除くぞ」


『承知』


 オレは、ハンマーの先をギュレイに向けた。


「ギュレイの身体を取り巻く猛毒を、浄化する!」


 ハンマーがピンク色の光を放ち、ギュレイを包み込む。


「おっ」


 ギュレイの顔色がよくなってきた。


「いいぞ。メルティが飲ませた薬が、ドンギオの治癒魔法でさらに活性化しているんだ」


 あとは、ギュレイのがんばり次第だという。


 治癒魔法が、こちらが全面的に癒やすわけじゃない。相手の生命力も必要になってくる。


「ああ、アメンティ?」


 すっかり斑点が消えたギュレイが、目を覚ました。


「姉さん!」


 メルティが、ギュレイの手を取る。


 ギュレイも、手を握り返した。


「よかった姉さん! ああ。ありがとうございます、ドンギオ」


 手を掴みながら、メルティは泣き崩れる。


「オレは、お前の薬をパワーアップさせただけだ」


 冒険者が、治療院へ駆け込んできた。ダンジョンからマタンゴが抜け出して、街へ向かっているという。


「さてメルティ、お姉さんを守ってやれ。オレは、もう一度キノコ退治に向かう」


 ティツィをエムに送らせて、オレは一人でマタンゴ狩りへと向かった。


 街までの道をのっしのっしと、マタンゴは巨体を揺らしていた。オレが倒した個体より大きい。


 キノコの傘に、モンスターが乗っていた。獅子の頭をした獣人族である。武人らしく、全身を黒いヨロイで固めていた。装備の随所に、魔輝石がはめ込まれている。


「マタンゴをけしかけたのは、テメエか?」


「いかにも。我が名は、獅子王。不本意ながら、仕事はせねばならんのでな」


 獅子王という獣人族が、剣を抜く。刀身すべてが、魔輝石である。


「ギュレイをやったのも、貴様か?」


「何者だ、それは?」


 しばらく考え込んで、獅子王がはっとした顔になった。


「ああ、あのエルフか。なかなかの手練だった。アレ程の達人は、そうそうお目にかかれぬ。が、ダークドラゴンの力を得た我の敵ではなかったな。人の子を守るという、愚かしい行為に出たので、興が失せた。同じ武人として、情けなし」


「てめえ、ギュレイを笑ったな」


 ギュレイの命をかけた行動を、獅子王はムダなこととあしらう。許さねえ。


「だとしたら、どうだというのだ?」


「テメエに、武人を名乗る資格はねえ!」

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