第29話 治癒の試練
オレは、魔法少女の力を解放する。武器も、ショベルアックスモードにした。
「ヤツの核を狙え! 額にある!」
「よし! おおおお! 【トマホーク】!」
オレは、【トルネード】の体勢から斧を投げ飛ばす。
勢いの付いた斧が、大マタンゴの頬に突き刺さった。
「ぐえええ!」
不気味な鳴き声を発しながら、大マタンゴが暴れ出す。
大マタンゴが、紫色の毒ブレスを吐く。
オレのいた位置の床が、腐食して崩れた。
斧を足場にして、オレは大マタンゴの顔に到着する。
「もう一本の、ハンマーをくらえ!」
鍛冶用のハンマーを、マタンゴの額に叩き込んだ。
「ダメ押しのキック!」
さらにオレは、ハンマーの尻を蹴り込む。
炎のエンチャントが施されたハンマーが、大マタンゴの額にある魔輝石を破壊した。背中の魔輝石も、色をなくす。
「び、びぎいい!」
大マタンゴが、ドロドロに溶けていった。
「あっさりだな」
「きっと、魔法少女の力がパワーアップしたからですよ……おっと」
メルティの口が滑る。
「ごめんなさいドンギオ」
「いいんだ。いずれティツィにもバレるんだから」
マタンゴを倒し、オレたちは魔法少女の力が眠る地下祭壇へ。
ティツィも、ついてこようとする。
「キミはこの件に、関係ないぞ。きのこを採ったなら、帰りなさい」
「関係あるよっ」
用が済んだのに、ティツィは帰ろうとしない。
できれば、オレが魔法少女だって目撃者は少数にしてもらいたいのだが。
「あたしには、店を支えている人がどんな相手なのか、見定める義務がある」
「危険だぞ」
「いいの。あたし、信じてる。ドンギオさんは、悪い人じゃないって。女装男子が何だっての」
エムが根負けし、引き下がった。
「ありがとう、ティツィ。でも、危なくなったら逃げるんだ。そのときはメルティ、あとは頼む」
「承知しました!」
話し合いが一段落したので、改めて魔法少女の祭壇へ入る。
エムの力で壁が動き、祭壇が目の前に。構造は、ウーラダンの祭壇と同じだ。
『ドンギオ・ティアーニ、お久しぶりです』
「ああ。また会ったなモグラ。この祭壇では、なんのテストをするんだ?」
守護獣のモグラが、オレの前に現れた。
『この地で受け継がれる技は、【治癒】です。ダークドラゴンの手でダメージを受けた味方を、癒やす技です』
「わかった」
床がひとりでに割れていき、台座が顔を出す。
台座の上に、ミイラが寝そべっている。
『このミイラに、治癒の力を注ぎ込んで、脇腹の傷を塞いであげてください』
「やってみる」
ミイラの脇腹に、痛々しい穴が空いていた。これが致命傷になったのか?
オレは、ミイラの脇腹に手を添える。
『ただ治療魔法を施すだけでは、いけません。ハンマーを杖代わりにして、心で念じなくては』
アイテム必須かよ。
杖を振って、脇腹に魔力を注ぎ込んだ。
「お? お?」
脇腹がふさがってきた。
「この調子で行けば」
「ダメです。もっと魔力を注ぎ込む必要があります」
これだけやっても、ダメなのか。
脂汗が吹き出す。これでもフルパワーだぜ。意識を、ミイラに持っていかれそうになる。
「ただミイラを蘇生させるだけでは、治したことにはなりません。肉体だけではなく、魂まで蘇生させなければ」
魂とか、復活できるのかよ?
「しかも、相手に生命力まで注ぎ込んではいけません。取り込まれてしまいます」
おお、うっかり死ぬところだったわけか。
『献身と、自己犠牲を履き違えてはなりません』
「心得た。これでいいか?」
肉体の蘇生に成功した。
『お見事です。ごらんください。魔法少女が、昇天していきます』
紫の魔法少女が、天へと昇っていく。いつの間にか天井が開けて、魔法少女は空へと旅立つ。
『ドンギオ、試練突破おめでとうございます。では、次の試練でお会いしましょう』
幻想的な景色は、一瞬で終わった。天井の穴もふさがっている。
「パワーアップした感じですか、ドンギオ?」
「いや。実感はないな」
ウーラダンのときと同じだ。強くなったという感じはしなかった。
「キミの力は、いずれなにかの役に立つ。ひとまず、街へ戻ろうじゃないか」
街に戻ると、ギルドや治療院辺りが慌ただしい。
「なにがあった?」
冒険者を適当に捕まえて、事情を聞く。
「マタンゴだよっ! 初心者用だって聞いていたのに、すげえでけえマタンゴがいたんだ」
どうやら、初心者用のダンジョンでも、マタンゴが大量発生したらしい。
タンカで運ばれていたのは、毒まみれになったギュレイだった。
「姉さん!?」
メルティが、カブトを脱いでギュレイの元へ。
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