第27話 ソースの材料を求めたら、裏ダンジョンに

 オレたちが着いたのは、遺跡だった。暗い木陰にポツンと建っていて、壁にコケが生い茂っている。


「このコケも、焼きそばソースの素材になるよ」


 ティツィが、コケをナイフでひっかいて瓶に入れた。


 パーティには、ティツィにもついてきてもらっている。

 アイテムショップ兼焼きそば屋の、看板娘だ。


 焼きそば用ソースの原料である薬草が、オレたちでは見分けつかない。

 メルティのハーバリストスキルでさえ、判別は難しいという。


「このコケは【ノリゴケ】っていって、味がノリに近いんだよ」


「ノリって、乾燥させた海藻のことですか?」


「そうそう。さすが島国出身のエルフさんだね。物知り」


「えへへ」


 ティツィに褒められて、メルティがカブトをなでた。


「ノリは、我がエルフ国の名産なんです。ノリだけ食べて生きているエルフの仙人もいるそうですよ。わたしは、そんな生活ごめんですけど」


「だろうな」


 洞窟の中へと、入っていく。


「エム、感じ取れるか?」


「ああ。間違いなく、魔法少女の力が眠っているダンジョンだ」


 壁に手を触れただけで、エムはここがドラゴン関連のダンジョンだと見破った。


「そういえば、わたし、魔法少女じゃないですよね? どうして、あの狼男を倒せたのでしょう?」


「ドンギオが打った剣で、トドメを刺しただろ?」


 魔法少女の力が、わずかに込められていたという。


 他人の武器にまで、魔法少女のパワーが影響を及ぼすとは。


「だから、ドンギオはすごいのさ。彼が打った武装が普及すれば、ダークドラゴン打倒がより短期間で済むようになるだろう」


「わたしでも、魔法少女の力を扱えるのですね?」


「ドンギオの武器のサポートがあればな。今のメルティは、全身が魔法少女製の装備に包まれている」


 大きい話になってきた。


「冒険者の報酬が心もとないから、鍛冶屋として少しでも旅費を助けようとしていただけなのに」


「ドンギオは、優しいですからね。村人さんたちからは、請求しませんし。今日の依頼だって、タダ働きでしょ?」


「取れるところから、めいっぱい取ろうとしているだけだぜ」


 ギルドの報酬が安いのは、本当だ。ほとんどが金より、物々交換である。


 この間も、モンスター討伐をしてきたパーティが、依頼品の角以外をギルドからもらっていた。

 武器に使える素材以外は、すべてギルドに買い取ってもらって金に変えていたが。


 他にも、金になる仕事を回してもらったり、戦闘以外の雑用が案外多い。


 割と平和な街などでは、こんなものだ。だからこそ、生産職が光る。


 ダークドラゴンが暗躍していると聞かされていなかったら、オレものんびり鍛冶職に腰を落ち着けていただろう。


「それでですね。焼きそばソースの素材って、なんなのです? 薬草じゃなさそうですよね?」


「コケと、キノコだよ」


「あちゃー」


 ティツィから話を聞かされて、メルティが額に手を当てた。


「そんなに、選別が難しいのか?」


「コケはそこまで難しくありません。が、キノコは難易度S、さらに言うとドSクラスです。サディスティックなまでに、毒キノコと普通のキノコは判断が難しいんですよ」


 恨めしそうに、メルティが肩を落とす。


「そうだね。こっちが食べられるキノコで、こっちが毒。どれも、同じキノコに見えるでしょ?」


 白いキノコを、ティツィが手袋をはめた手でつかんでいる。


 傘の裏にある繊維の本数で、判断をするのだとか。


 これは確かに、プロに見てもらわないといけない代物だ。


「前に素材取りのために、ここへ冒険者に同行したんだ。一人が、お腹をすかせてキノコをその場で焼いて食べたんだよ」


 そいつは、三日寝込んだとか。


「キノコって、毒と普通の差がほっとんど変わらないんです。ほら、あんなふうに毒々しく動いてくれていたら、見分けもつきやすいのですが」


 ずもも、と、キノコが動き出す。


「え、あんなヤツ、このダンジョンでは見たことない!?」


「気をつけろ、【マタンゴ】だ!」

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