第26話 鉄板破損

「一部だけ並べさせていただきます。これ以上仕入れられても、買い取れないので」


 資金を、焼きそばの売上を借りて賄おうと話していた矢先だった。


「あちゃー。まいったねえ」


 鉄板が、破損してしまう。


 これでは、店の利益を生んでいた焼きそばが作れない。


「うへええ。頼みの綱が」


 トマーゾが頭を抱えた。


「あんたねえ。焼きそばに頼っている現状をなんとかしようって、思わないのかい?」


 奥さんのカーラが、呆れている。


「しかし、困ったねえ。見事に穴が開いちまった」


 一旦冷やした鉄板を持ち上げて、穴の先を覗き込む。


「ドンギオ、なんとかなりませんか?」


 メルティが、悲しげな顔をした。ここの焼きそば、気に入っていたもんな。


「オレに任せてくれ。この使い込んだ鉄板の味わいを損ねないように、直してやれる」


「いいのかい、ドンギオのダンナ? 助かるねぇ」


 さっそく、鉄板の修理に取り掛かる。その前に、早く作業場になる土地を買わないと。


「店の斜め向かいが、空き地になっているが?」


 エムが、外の空き地を指さした。


「民家だったんだが、寝タバコで焼けちまったのさ」


「そこを利用しよう」


 商業ギルドとの交渉は、エムに任せた。話し合いはすぐに成立する。さすが王族だな。


 アイテムボックスから小屋を取り出し、空き地にセットする。これで、家は完成だ。


「あとは鉄板を、鉄と混ぜて」


 すごいな。熱伝導率を上げるため、ギリギリまで薄くしている。そりゃあ、長年使っていたら穴も開く。この薄さと熱の伝わり方を考慮しているから、おいしい焼きそばは作れるのだろう。ただ丈夫にすれば、いいってもんじゃない。


「これで、よしと」


 試しにもう一度、焼きそばを作ってもらう。


「うん。味が落ちていない。ありがとう、ドンギオのダンナ」


 カーラが、焼きそばの味に納得をした。 


「でも、ドワーフさんだ。お高いんだろ?」


「いや。メルティが気に入っているからな。タダでいい」


「ホントかい? それはありがたいけど、悪いよ」


「その代わり、アイテムの売買について、都合してもらいたい。あんたらが独占してもいい」


 ここで素材と、完成品のアイテムを売ってもらう。


「売上は何%、お渡しすれば?」


 トマーゾが、聞いてきた。


「これくらいでどうだろう」


「ええ、おたくらの稼ぎになるんですかい?」


「いいんだ。売買をしてもらうだけで」


 オレたちに商才はない。曲者の商人と渡り合う頭も。


 だが、行商人の経験があるトマーゾなら、客商売で困ることはない。


「会計表を見させてもらったが、あんたらはギリギリながら、借金がない」


 こういう店だと、立ち退きを要求するチンピラなどが出入りしそうなものだ。だが、なんとか首の皮一枚で繋がっている。


 まあ、商才はカーラの方が上なんだろうが。


「こっちの好条件ばかりじゃん。いいの」


 看板娘のティツィが、不思議がる。


「商品を置いてもらう場所を提供してくれるんだ。ぜいたくはいわないさ」


「わかった。今後は、焼きそばをタダで食べさせてあげる」


 それは、メルティだけが喜びそうだが。


「しかし、先程も言いましたが資金が」


「だったら、ここの店売りと、うちの商品を交換しよう」


 オレは、この店の商品をすべて買い取った。

 代わりに、素材やポーション系の安い品と交換する。

 武器も、それなりに安価な品を用意した。


 ここに置いてあるものは、良い品だが高すぎる。

 目利きはすばらしいが、いいものを厳選しすぎているのだろう。

 隠れた名店というところだが、そうそうレアなんて出るわけじゃない。

 多分、一攫千金を狙って高めの品を揃えすぎたか。

 維持費のかかる店を存続させるために。


「お値段は、これでどうでしょう?」


「妥当だな。それで売ってくれ」


 交渉は、成立した。


「ありがとうございます。これなら、ウチでも出せますね」


「めいっぱい売るから安心してね、ドンギオ」


 看板娘も、頼もしい。


「ティツィ、依頼書を出しておくれ。またソース用のハーブが切れそうだ」


 ソースの入ったツボを確認しながら、カーラがティツィに告げた。


「はーい」


「オレたちが引き受けよう。どこへ行けばいいんだ?」


 メルティも、「焼きそばのためなら!」と息巻く。 


「一つは、近くのダンジョンだからいいさ」


 そこは、若い冒険者に任せるという。


「ただ、ヤバイのは中級者向けのダンジョンでね。最近、変なのが住み着いたらしくて。いつもなら、ティツィをガイドにつけているんだけど、今回は危ないね」


「行くよ。焼きそばに使うハーブの見分けなんて、この人たちにできないでしょ?」


 ハーバリストのメルティなら大丈夫かもと、オレは提案してみた。


 しかし、ティツィは首を振る。


「秘伝のソースだから、情報が漏れるのは避けたいの。それに、使えるハーブはハーバリストさえ見逃すたぐいの薬草だから」


 ならば、同行してもらうしかないか。

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