第24話 エルフは腹ペコ

 メルティは、巫女になりたくない理由を、『断食』だといった。


「食事制限がすごいんですよ、巫女って。一日二食ですよ! しかもお肉とかは制限されていて。これじゃあ死んじゃいます!」


 このように、メルティは食へのこだわりを熱く語る。


「はいはい、わかった。つまり、お前が太ましいのは、常に腹ペコだからだって言うんだな?」


「そうです。わたしは魔王復活を阻止する巫女ですが、今は役割も形骸化していまして」


 古いしきたりに、いつまでも縛られているという。


「たしかに、巫女の役割には価値があると思いますよ。でも、効果を実感できない儀式って、意味があるのでしょうか?」


 位の高いエルフなら他にいるから、彼女たちに任せればいい。郷土愛もあるのだから。


 それが、メルティの主張である。


「ドンギオは、それでもわたしは故郷に戻ったほうがいいと思いますか?」


 しゅんとした顔で、メルティがオレに聞いてくる。


「オレに言われてもなあ」


 職務放棄は、田舎にとっては死活問題だろう。


 とはいえ、そこまでこだわってすべき問題なのだろうか。


「魔王がいなくなったんだから、別に問題ないんじゃ?」


「どうだろう。そうとも、いい切れないのだ」


 エムは、腕を組んだ。


「あ、ダークドラゴンか」


「ダークドラゴンは、ある意味で魔王より厄介な存在だ。かつてこの地に魔王を呼び出したのも、ダークドラゴンだしな」


 ひどい。


「では、ダークドラゴンを退治したら、万事解決ですね」


 メルティの目に、光が戻る。


「そんな簡単に済めばいいがな」


 国王の使いが、オレたちを呼びに来た。


 やや緊張しながら、夕飯をごちそうになる。


 メルティは相変わらず、カブトを脱げないでいた。


「そちらの御婦人は、装備を脱げないのだな?」


「気になりますでしょうか、国王」


 だよなあ。気になるよな。


「どうも、方々から追われている身らしく」


「借金などがあるのか?」


「いえ。そういうわけではないのです」


 ごまかすのも、限界があるぜ、メルティよ。


「ならばいい。いつまでもここにいなさい」


「そういうわけには参りません。ダークドラゴンの手がかりを探さないと」


 ボーッと王都でくつろげるような、呑気な性格はしていない。


「聞けばここには、ダークドラゴンを葬ったとされる、魔法少女の伝説があるとか」


「うむ。我々一族は、魔法少女の力を継承していたらしい。ワシの代からは、すでに伝説と成り果てていたが」


 王都近くに遺跡があるから、行ってみてはどうかとのこと。


「ただ、強い結界が張られていて、冒険者でも近づけぬ。それでもゆくか?」


「行きます。行って真相を確かめてくる」


「ふむ。そのカブトの御婦人の正体、掴めたかもしれぬな」


 お? 王様、都合の良い誤解をなさってくれたようで。


「なるほど。重装兵士に変装なさるとは。魔法少女も、姿を隠すのは苦労なさっておいでのようだ」


「は、はい。まあ、そうですねぇ」


 作り笑い満載の声で、メルティは食事を平らげていく。


 ひとまず、目的はできた。


 遺跡に向かって、魔法少女の力をアップデートしに行くか。


 その前に、商業ギルドへ向かう。


 冒険者の稼ぎでは、路銀が心もとない。


 いくら竜人族が好意的だからといって、「旅費を出してくれ」なんて無理は言えなかった。娘を引き連れているといっても。


「装備品を売るショップを、建てられないかな?」


 オレの作った装備品以外にも、メルティ作のポーションや、エムが生成したアイテムなども売れたら、かなり金になりそう

だ。


「いいな。それ」


 ウーラダンに作った拠点には、オレに依頼をしてきた農民の少年を住まわせている。少年に、アイテムの売買をさせているのだ。


 まずは、王都で行商人と冒険者を雇った。遠征してもらい、アイテムの補充を任せる。

 その足で、物件を探す。

 

「どうだ? メルティは、あまり王都には長居したくないか?」


 王都では、ギュレイがメルティを探し回っている。


「店のことは、ドンギオにお任せします。わたしも、お力になりたいので。姉さんの行き先も、王都だけとは限らないようなので」

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