第23話 メルティの姉 ギュレイ

「フォンティーノだと!?」


「知ってるのか、エム?」


 メルティと同じ王族であるエムが、なにか知っているようだ。


「南東に、エルフだけが住む島があるという。フォンティーノというのは、そこを納める王族だ」


 島といっても、古代から続く一大勢力だという。争いを好まず、かといって外敵には強く出る一族だ。だが島国なので、思考に柔軟性がなくて保守的である。


 どうもメルティは、その国で第二王女なのだとか。


 ならば、目の前の【フェンサー】も、王女様ってわけだよな。


「申し遅れました。わたしはギュレイ・フォンティーノ。第一王女です」


「ドンギオ・ティアーニだ。ドワーフの魔法使いだよ」


 オレに続き、エムも身分を証す。竜人族だとは伏せておきたかったが、相手が王族では礼を失する。


「珍しいですね。竜人族の王族と、ティアーニ家のご子息とは。妹も、珍しい物好きなのですよ。それが、あんなことになるなんて」


 ギュレイが、ため息をつく。 


「この王女様は、なにかやらかしたのか?」


「巫女としての掟を破って、島を出たのです」


 メルティは、巫女としての任務をほっぽりだして、街の方へ行ってしまった。


「知っていることがあったら、連絡をちょうだい。わたしは、王都に滞在します。そこに向かっているらしいと、ウワサがあったので」


 ギュレイが、去っていく。


 ウワサねえ。メルティの強固な認識阻害を破って、何者かが連絡したのか? そんな芸当ができる人物は、かなり限られる。


 仲間であるエムは、ありえない。メリットがないからだ。


「誰とお話していたんです?」


 お、ウワサをすれば帰ってきたか。


「メルティ、お前の姉さんを名乗る女性が、探してるって」


「げっ」


 あからさまに、メルティが硬直した。


「王都にも行くってさ」


「げげぇ。逃げ切れるかなぁ」


「まあ、最悪話し合えば」


「話し合いが通じる相手なら、島に残っていますっ」


 プンスカ、という擬音が出てきそうな状態で、メルティは声を上げる。


 これは、平行線だな。


「お前が島を出た理由は?」


「巫女の任務が、イヤだからです」


「で、その巫女ってのは、島で何をするんだ?」


「島に魔物を寄せ付けない、結界を張るのです。しかし、島から出るのは制限されてしまうのですよ。処女性が求められるので、結婚もできません」


 だったら、オレでも家出は考えるかな。


「メルティが重装の戦士になるのも、理由はわかってきたな」


「なにがです?」


「家のしきたりに縛られるくらいなら、元凶になってる魔物を狩りまくろう、ってか?」


 自分で攻撃も防御もこなす、ソロ冒険者になりたかったのだろう。回復手段はあるから、ソロ狩りも問題はない。


「少しでも自力で数を減らそう、って思ったんじゃないか?」


「そんな大層な理由では、ありませんよ」


「じゃあ、なにが原因だ?」


「王都に着いたら、お話しましょう」


 そこまで話していると、王都にたどり着いた。


 王都の外壁が夕陽に照らされて、黄金色に光っている。


「うわあ、なんだかキンキラですよ」


 窓の向こうに映る感動的な景色に、メルティがうっとりした声を出す。


「夕方に到着したからな」


 列車が駅に停車し、オレたちも下車した。


「できるだけ、ギュレイ王女には近づかないでおこう」


「メルティのためだ。用心しよう」


 王都に到着して、城へ向かう。

 宿でもよかったが、ギュレイが泊まっていそうな、高級宿は避けたい。


「遅くにお邪魔してすまない」


「気にするな、ドンギオ」


 お城の客間に通された。


「安宿でも、わたしは大丈夫ですよ」


「いや、オレが困る。鍛冶には騒音がつきものだからな」


 領地さえ手に入ったら、アイテムボックスにしまってある家を出せる。


「王都の領地なら、任せろ。安値で交渉してやる」


 ありがたい提案を、エムがしてくれた。


「で、メルティが家に帰りたがらない原因なのだが、なぜだ?」


「このお腹です」


 メルティが鎧を脱いで、インナー姿になる。たしかに、エルフにしては太ましい。


「だって、巫女になったら旅に出られないから、世界中のおいしいものが食べられませんっ」

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