第22話 教科書通りのフェンサーエルフ
列車の天井の上で、オレは防戦一方になる。
この獣人ローグ、思っていたより強い。
「ドラ!」
アッパー気味に、【スマッシュ】を打ち込む。
だが、相手はこちらの動きなどお見通しだ。
「ヘッ。乗客に被害が及ばないように打ち上げ系の技ばっか出しているようだな。けど、そんな消極的な戦法では俺様には勝てないぜ」
たしかに、乗客を乗せた車両の上で戦っている。スマッシュは実際、相手を叩き潰す技だ。それをオレは、下から上へ打ち上げるスタイルで繰り出している。完全に、動きが読まれていた。
「ダークドラゴンと契約してモンスターになった俺様に、中途半端な技は通じねえ」
言うだけあって、手強い。
「ドワーフの魔法使いなんて、珍しいやつと戦えてよかったぜ。だが死ね!」
突撃してきた。
「ドンギオ! ハンマーで相手を突いて!」
窓から身を乗り出して、メルティが叫んだ。
「こうか?」
オレはメルティの指示通り、ショベルハンマーの先で相手を突く。
「ぐへえ!」
前のめりになり、獣人が吹っ飛ぶ。
再度迫ってくるトンネルに、ぶつければいいのか?
「やるな。だが!」
獣人は、天井に張り付いて、トンネルをやり過ごした。
「ハッ。残念だったな」
同じ手は、通用しないか。
「反撃開始とさせてもら……ああ?」
ローグが、立ち上がろうとした。しかし、動けない。
「な、なんだってんだ!? ぬが!」
獣人の腹に、剣が突き刺さった。
「バ、バカな。モンスターの力を得たこの俺様が」
血を吐いて、獣人が事切れる。
「モンスターになったから、対処できなかったんです」
メルティが、天井から剣を抜いた。
オレは、メルティのいる車両まで降りる。
そこには、金塊が。
「今のは、どうなったんだ? なんであいつは動けなくなった?」
「さっき、エムさんから説明があったじゃないですか」
「説明……ああ」
たしか、この金塊は「モンスターから守ってくれている」と言っていた。
そういえば、獣人のローグも「自分は力をもらって、モンスターになった」と。
獣人の力は、ダークドラゴンから得たのかもしれない。
「それで、あの敵さんは金塊の結界をモロに食らって、動きを封じ込められたのです」
「なるほど。ナイス頭脳プレイ」
「ですが、天井に穴を開けてしまいました」
周りを見渡すと、金塊を守っていた警備兵が舌を巻いている。
「心配ない。オレには【溶接】のスキルがあるから」
金属を高熱で溶かし、天井の穴を塞ぐ。で、注意深く冷やせばOKだ。
「これでよし、と」
「ドンギオ、すごいです」
「オレはたいしたことはない。さて、列車の中はどうなったんだ?」
乗客の無事を確認するために、オレは列車内を駆け巡る。
「メルティは、このへんで残っていてくれ」
「はい」
現在地にメルティを残して、更に奥の方へ。
「てや!」
エルフの軽装戦士が、盗賊たちを斬り捨てていた。
狭い車両内で、相手の攻撃を受け流しつつ、レイピアで急所を突いていく。
教科書のようなフェンサーエルフだ。
しかし、どっかで見たような。
「あぶねえ!」
エルフの背後にいた盗賊に、オレはハンマーを投げ槍のように投げつけた。
頭を強打し、盗賊が後ろの車両まで飛んでいく。
「ケガは?」
盗賊たちの全滅を確認して、フェンサーのエルフは乗客に聞いて回る。
「あなたは?」
「なんともない」
「よかった。冒険者のようですね。実は、人探しをしています」
フェンサーエルフが、胸部にくくりつけているアイテムボックスをまさぐった。懐から、紙を取り出す。
「この子を見ませんでしたか? わたしの妹なんです」
女性が、写真を見せてきた。あまりに大きくて、まるで手配書のように見える。って、手配書じゃねえか!
「さあ、見なあああばばば……」
手配書の写真は、まさしくメルティだった。
そうか、彼女はメルティを妹と言っていたじゃないか。
顔が、メルティそっくりだったんだ。
それにしても、あいつ、何をやらかした?
『行方不明の巫女 アメンティ・フォンティーノ第二王女』
メルティも、エムと同じくお姫さまだったとは。
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