第21話 盗賊との戦闘

 盗賊たちは貴族たちを縛り上げて、金品を奪っている。


 冒険者も護衛についていたが、ほとんどが数に押されて倒された。並の冒険者なら、こんなものか。


「ドンギオ、どうします?」


「相手は普通の人間だ。強行する」


 メルティが、ガッションガッションと盗賊の集団に詰め寄る。


「な、なんだコイツは!?」


「いいから、やっちまえ!」


 剣や矢で、盗賊たちがメルティを攻撃した。


 しかし、強化された魔物さえ倒すメルティに、生身の人間の武器など通じない。


「乗車券のない人は、下車してください!」


 メルティは、パンチで窓から盗賊たちをぶっ飛ばす。


 オレも、盗賊どもを窓の外へ蹴り飛ばした。


「こっちは頼んだ。ロープを解いてやってくれ、メルティ」


「はい!」


 窓の外では、盗賊がエムの魔法によって派手に吹っ飛んでいた。


 それにしても、こいつらの狙いはなんだ?


 ここは、王族のエムに聞いたほうがいいか。


 トンネルに入った。


 暗くなって油断している盗賊団を、倒して進む。


 オレは、エムの元へ。


 どうやら、エムはまだ無事のようだ。


「エム、奴らの狙いそうな場所って?」


「先頭車両にある、金塊だ」


 この列車は、貴族の他にも金塊を積んでいるという。


「貨物って、後ろの車両にあるものではないのか?」


「いや。この電車に限っていえば、金塊のほうが価値が高いんだ。金塊は貴族たちを守る役割もあるからな」


 高速移動に耐えられるのは竜人族くらいだそうだ。

 普通の人間なら重力に圧迫されて、死なないまでも具合が悪くなるとか。


 また、金塊には独自の魔力刻印がされている。

 高速移動で運ぶと、刻印が砕けてしまうらしい。

 刻印の魔力によって、貴族たちをモンスターから守っている。

 しかし、守るのは魔物からだけだ。

 普通の人間が敵なら、そうはいかない。


「彼らが狙うとすれば、金塊だろう。貴族を襲っている連中は、多分オトリ部隊だ。それでも、見過ごすわけにはいかんが」


 トンネルを抜ける。


 反対側の窓から、オオカミ頭の盗賊が現れた。明らかに、他の奴らと武装が違っている。あれがボスか。


「急いでくれドンギオ」


「任せろ」


 オレは、先頭の貨物車両まで急ぐ。


 ここから先の車両に、敵はいない。あのオオカミ頭を追うなら。


 車両の外に出て、オレは屋根を伝う。


「んだあ? オレの身体能力についてこられるやつがいるとはな!」


 貨物車両の屋根の上に、オオカミ頭が立っていた。


「そこまでだ。死にたくなかったら、降りてもらおうか?」


「ハン! 俺様に勝てると思ってんのかよ? 上等だ」


 オオカミ頭が、短剣を抜く。


【シーフ】クラスなら、オレのほうが上級職だ。軽く倒せるだろう。

 しかし、あっちは【ローグ】だ。

 暗殺を生業とする【アサシン】を経由しているから、暗器にも気をつけねば。

 しかも、アイツの武器は……。


「オレは盗みより、こっちの方が得意でね。喰らいな!」


 ハンマーを回転させて、ディフェンスに回る。大雑把に武器を振り回すより、コンパクトに攻めるか。


 攻撃を受け流しつつ、敵の武器を観察する。


「どうした? 防御しているだけじゃ、俺様には勝てねえぜ」


「これでいいんだ」


 オレは相手から、大きく飛び退く。


「ああん? なにを――」


 オオカミ頭が、トンネルに全身をぶつけて潰れた。


 うつぶせになりながら、オレはトンネルをやり過ごす。

 蒸気の煙をわずかに吸い、オレは咳き込んだ。


 早く抜けて欲しい。相手がどうなったかの確認も、できなくなった。


 ようやく、長いトンネルを抜ける。


 オレは顔についたススを払う。


 普通なら、これで決着はつくはずだ。


「くそ……」と毒づき、オレは立ち上がる。


「ヒヒイ。やべえな。列車の天井でのバトルじゃ、トンネル対策は定番だよな」


 オオカミ頭は、やはり起き上がった。 


「やはり、魔輝石でできたナイフか」


 この武器があるために、普通の事故や攻撃は通じないのか。


「そうよ。ある御方にこの武器をもらってから、俺様はより強くなった。殺人衝動を抑えられなくなったがな!」


 血走った目をしながら、オオカミがまた襲ってきた。

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