第三章 旅がしたいドラゴンの姫

第20話 列車で王都へ

「もぐもぐ。ああ、やはりお弁当は茶色に限りますね」


 列車に乗ってそうそう、メルティはずっと駅弁を食べている。彼女の足元には、弁当の空箱が二つ置かれていた。一つはエビフライ弁当、もう一つはカツサンドだ。


 王都へ向けて、オレたちは列車に乗っている。


 もくもくを蒸気を噴き出しながら、列車は王都へ向かう。


 オレの向かいがメルティ、彼女の隣にエムが座っている。


 窓の向こうには、緑豊かな山や畑などが続いていた。


「よく食うな」


 景色も見ず、メルティは駅弁の消費に没頭していた。まるで、駅弁が目当てだったように。


「だって、パレードでは何も食べられませんでしたからっ。その分、ここで補給します」


 唐揚げを食べながら、メルティは自分の欲求を沈ませた。


「おいしいです。ウーラダンの料理は絶品ですね。ドンギオもどうぞ」


 メルティが、箸でつかんだ唐揚げをオレによこす。


 口を開けて、オレは唐揚げを迎え入れた。


「王都に行けば、さらにうまいものが食えるぞ」


「楽しみです」


 エムの言葉を聞き、メルティがウキウキする。


「ドンギオは、体調に変化はありませんか? 少食になったとか?」


「いや。食欲に変化はないな」


 駅弁も完食し、オレの容器にはなにも残っていない。胃もたれなども、感じていないが。


「内股になっていますよ」


「な!? マジなヤツだ!」


 慌ててオレは、足を揃える。ホントに、内股になっていたとは。


「心配するな。魔法少女の力は、使い手の精神まで女性に侵食してしまうわけじゃないから」


 イカ足の干物をかじりながら、エムが説明してくれた。


 とはいえ、信じていいものか。


「言っただろ? 魔女は男性でもなれるって。外法を扱っていた者は、男女問わず【魔女ウィッチ】呼ばわりされたんだ」


 今ではジョブ名でしか、その名を聞かない。が、魔女の驚異は未だに去っていないそうだ。


「おそらく、一連の事件も魔女が関係しているだろう。魔女がダークドラゴンに仕えているのか、ドラゴン自体が魔女に変装しているのか」


 手下か、自分で動いているか、か。


「本当にエムは、じいさんについていかなくてもよかったのか?」


 竜人族の王たちは、先に王族専用の列車で出発していった。といっても、一般車両に偽装しているが。


 一応エムも王族なのだが、オレたちと同席がいいと二等列車に座っている。


「いいんだ。祖父は強いから。もう、王都に到着する頃だろう」


「そんなにか?」


「魔法で、列車の速度を早めているのだ。そうしないと、狙われるからな」


 列車すら認識阻害できるから、目立つこともないそうだ。


 乗客乗員は兵士しかいないため、特に驚くことも危険もないという。


 だったらなおさら、エムは王族の側に同席していたほうがよかったと思うが。


 王都へは、エムの両親を説得しに行く。エムが正式に、旅をできるようにするためだ。祖父である国王の許しは得ている。が、親にスジは通しておけとのことだ。他に跡取りがいない中、旅立つのだからと。


「まあいいさ。この景色を堪能したかったってのもあるから」


 これまでエムは、城の外から出ることを許されなかった。


 彼女にとっては、何もかも珍しいのだろう。


「……!? 気をつけろ! 賊が!」


 窓の向こうを、エムが指差す。


 オレは、窓の外へ目を向けた。


「ヒャッハー!」


 列車の後ろから、馬に乗った盗賊が乗り込んできている。


「せっかくの列車の旅を。くらえ!」


 エムが、馬の集団に爆裂魔法を放った。


 盗賊団の一部が、地面の爆発によって吹っ飛んでいく。


「ドンギオをメルティは、乗り込んできた盗賊を頼む。ボクは、外の盗賊をなんとかするよ!」


「おう!」


「ケガ人がいたら、ボクのところに連れてきてくれ! 治癒を施す!」


「任せろ!」


 オレは、後部車両を偵察に向かった。

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