第19話 新たなる旅へ

「……ん?」


 オレはモフモフに包まれながら、気がつく。


「気がついたか、ドンギオ?」


「ここは?」


「ウーラダン宮殿の中だよ。ボクたち来客用の寝室さ」


「そうじゃなくて、このモンスターは?」


 オレは、バカでかいネコの腹で眠っていた。


「ボクの召喚獣【キャスパー】だよ。回復魔法の塊だ」


 体力を失ったオレを、ずっと看病してくれていたという。


「そうか。ありがとうな」


 オレが撫でると、ネコもうれしそうに鳴く。


「うう、うらやましいです」


 メルティが、ネコを撫でながら溜息をついている。

 

 

 夕食会に、オレたちも招かれることに。


 もっともVIPが集まる晩餐会ではなく、個別に招待されたのだが。


「決めた。ボクはやはり、ドンギオたちと冒険に行くぞ」


 食事の席で、エムが宣言をした。カニの爪が、口から突き出ている。


「気持ちはわかるが、口に物を詰めながらしゃべるな」


「おっとすまない。お祖父様」


 水を含み、エムは着席した。


「よく食べられますね、エム姫さん」


 メルティが感心する。


「パーティでは、ドリンクと茶菓子しかいただかなかったからね。こちらこそすまない、メルティ。残り物ばかりで」


 ちゃんと物を飲み込んでから、エムが言葉を返す。


 いま出ている料理は、パーティで残った余り物ばかりだ。


「ドンギオは騎士の出だ。無礼に当たるのではないかと」


「それでいいと、オレが言ったんだ。気にしなくていいさ」


 十分に、ウマい。フードロスも解消されて、いいことづくめだろう。


「エミーリア、お前の気持ちは、変わらないのだな?」


「ああ。外にいては、ダークドラゴン相手に対策しようがないじゃないか。打って出るべきだ」


 エムの言いたいことは、よくわかる。


「でも、エムは王女様だろ? 面も割れている。出歩くのは危険では?」


「民衆には認識を阻害しているから、心配ない。謎の魔法使いエムとして、冒険者登録しようと思う」


 後日ウーラダンのギルドで登録を済ませ、出発することとなった。


「あのケンタウロスが、切り札だったんだろう。あれを倒したことで、安全は確保できたはずだ」


 アレ以上の戦力をぶつけようとすれば、敵側もさらに時間がかかるだろうと、エムは予測している。


「竜人族も魔法少女も、両方が狙われている。ならば、どちらも同行して、敵の目を引き付けておこうじゃないか」


「とはいえ、やけに手段がぬるいな。フワッとしている」


 もっと大兵団を引き連れて、一気に叩く予定があったのではないか。


「ドンギオも前に言っていたじゃないか。実験なのかもと」


 そのことごとくを、オレが潰して回っている結果になっていた。


「だから、攻めたくても襲撃できない。キミは生きて冒険者生活を送っているだけで、奴らの足止めになっているのだよ」


「すごいです、ドンギオは」


 生きているだけで敵を妨害しているとか、どんなパワーワードだよ?


「旅に出る前に、ビルドを確認したいんだが」


 どんな役割を担当してもらうか、参考までに見ておきたい。


「【ソーサラー】か。全体攻撃魔法と補助魔法がメインか。ザコキラーだな」


【ウィッチ】を経由するビルドのルートは、オレと同じだ。


 ジョブは、そこから派生する。一点集中系の魔法を得意とする【ウィザード】か、補助魔法・全体魔法メインの【ウォーロック】に進む。


 そこに【召喚士】をプラスして、【ソーサラー】になる。


「戦闘スタイルとしては、メルティが壁役、ボクがザコ一掃と補助、ドンギオがボスを狩ることになりそうだね」


 食後のカフェオレを飲みながら、エムが解説をする。


 ボスにはからめ手やこちらのバフ、相手へのデバフがメインとなるようだ。逆に、大火力の必殺技には乏しい。


「生産職として、ドンギオが鍛冶屋、メルティがハーバリスト、ボクが錬金術師だね」


 エムはどちらかというと、生産職の方にポイントを割いているようだ。


「親はボクを、デスクワーカーにさせたがっていたからね。でも、これからは実戦用のビルドに変えていくよ」


「行くのはいいが、王都に帰るまで護衛しよう。おそらく敵は、王都を狙ってくる」


「ああ。そうだね。では、列車で帰ろう」


「列車で来たのか?」


「途中の街までね」

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