第18話 ケンタウロスとの決着
屋根を伝って、ケンタウロスを追いかけた。
敵のケンタウロスは、器用に街の屋根を飛び越えて王宮を目指す。こちらがけん制して宮殿への道を閉ざそうとしても、すり抜けていってしまう。
「フハハ! 追いつけまい、ドンギオ・ティアーニッ! いくら騎士の家系と言えど、我は駄馬とは違うのだよ!」
ケンタウロスの健脚に、並の馬では追いつくことができない。
宮殿にいたウーラダンの術師が、ケンタウロスを狙って氷魔法を浴びせた。
「フン!」
飛び越えるだけで魔法をかわし、ケンタウロスは反撃の矢を放つ。
数名の魔法使いが、矢に撃たれて絶命した。
「狙いを定めるな! 拡散させるんだ!」
オレの指示を聞いて、魔法使いが吹雪魔法で応戦する。
「街への被害を避けて炎魔法を使わぬ、うぬらがヘタレなのだ!」
しかし、ケンタウロスは吹雪さえ飛び越えて、王に迫った。
「長年の平和ボケで腑抜けたこの世界に、再び混沌を!」
だが、エムは勝ち気に前へ出た。
「メルティ、シールドをボクの方へ投げろ!」
「はい!」
王を護衛していたメルティが、円盤状のシールドをエムへと投げ飛ばす。
何をする気だ?
エムはシールドを構えつつ、氷魔法を地面へ這わせるように繰り出す。
「フン! また足元を狙った作戦か! ムダだよ!」
足に迫ってきた氷魔法を、ケンタウロスは踏みつけるだけで破壊する。
「氷魔法は、こう使う!」
シールドを足元に置いて、エムは盾の上に乗った。杖で爆発魔法を起こして、加速を付ける。
ソリのように円盤シールドで、エムは氷の上を滑った。
「なんと!?」
ケンタウロスの射撃も、追いつけないほどのスピードである。
「ならば!」
敵の武装が、ヤリに変形した。
このままでは、エムがヤリに貫かれてしまう。
だが、エムは余裕の笑みを浮かべた。
相手の刺突攻撃を、エムは盾を少しズラしただけで弾く。氷魔法をシールドにも張り巡らせ、滑らせたのだ。
「ぐう!」
すれ違いざまに、ケンタウロスが足の腱を切られた。ヨロイの隙間に、カミソリ程薄い氷魔法を通したのだ。あの速度とタイミングで。
「あいたーっ!」
対するエムの方も、加速し過ぎて盛大に転ぶ。
「い、今だ、ドンギオ!」
倒れながら、エムがオレに指示を飛ばした。当人は吹雪魔法を竜巻に変えて、周囲の視界を奪う。
エムを中心に、オレとケンタウロスがにらみ合う。
「おう! ショベルアックス!」
ショベルの先をハート型に変形させて、ケンタウロスに切っ先を向けた。
「まさしく魔法少女! わが不倶戴天の敵!」
ケンタウロスは、はるか高く跳躍する。左前足がズタズタになりながらも、まだ王の抹殺はあきらめていない。
「させるか!」
オレはエムがやったように、シールドのソリで上昇した。吹雪魔法の助けもあって、速度がどんどんと上がっていく。
「ぬう!? 小癪な魔女め! だが、竜さえ数を減らせばその効力も!」
だから、竜人族を狙っていたのか。
「ダークドラゴンからもっと力をもらうために! 竜人よ、死ね!」
このケンタウロスは、ダークドラゴンから力を供給してもらい、依頼を受けていたのだろう。
「お前が、死ね!」
上昇しきったオレは、シールドを蹴ってトルネードを繰り出した。
「たたっ斬ってやる!」
ケンタウロスの馬部分に、ショベルの先を叩き込む。
背骨を破壊され、ケンタウロスの身体が大きくのけぞった。
「まだまだ!」
さらにオレは、ショベルに足をかける。
足を伝って、魔力がショベルへと流れ込んだ。
ピンク色の光を放ち、オレの魔力がケンタウロスの胴体を貫く。
「ゴホォ!」
「からのお!」
再度トルネードで回転し、オレは身体をねじった。
ダメ押しで、ケンタウロスの顔面にショベルの背をバチンと叩き込む。
ケンタウロスを叩き落としたまま、オレは地面まで急降下した。
地面に、ケンタウロスの全身がめり込む。
大きくクレーターができて、ケンタウロスの再起不能を確認する。
「おお、すごい」
「やりましたね、ドンギオ!」
エムとメルティが、オレを称えた。
オレの方は、力を使い果たして仰向けに倒れ込む。
とにかく、全部終わってよかった。
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