第17話 着ぐるみ護衛
「はっ。ドンギオ、どうしましょう?」
本番当日、メルティがあたふたし始めた。
「どうしたんだよ、メルティ?」
「パレードのときは、護衛は顔出ししないとダメって書いてます」
護衛任務の注意書きに、そう書かれている。
でもメルティは、追われている身だ。表には顔を出せない。
「認識阻害の術で、ある程度は追手をまけるのですが、さすがにいつも顔を出すとなると」
「大丈夫。エムとも相談したんだ。オレたちは護衛役と言っても、特殊な立ち位置にしてもらった」
「と、言いますと」
説明しようとしたときだ。
「ドンギオさん、できたぜ!」
以前、巨大スズメバチ退治の依頼をしてきた少年が、荷車を引きながらやってくる。
「ちょうど、その話をしようとしていたときだったんだ」
「こんな感じでよかったのか?」
少年が、荷車にかけてあったシーツを剥がす。
荷車には、モコモコした物体が。
「ああ、バッチリだ。ありがとうな!」
「村を救ってくれたお礼って、こんなんでいいのか?」
「十分だぜ。最高だ!」
モコモコの物体を担ぐ。
「ドンギオ、それはなんですか?」
「これはな……」
メルティに簡単な説明をして、本番を迎える。
パレードが、始まった。
竜が、悪い魔物を街から追い払ったという伝説から、このパレードは毎年開催されている。
王が神輿に乗りながら、ウーラダンの大通りを進む。
竜人族の王が、パレードに来た人々に手を振った。
孫のエムも、同じように手を振る。
その両脇には、クマのキグルミ姿となったオレとメルティが。
デカくてかわいくデフォルメされたクマは、子どもたちの人気を集めている。
「なるほど。着ぐるみマスコットになって、姿を消す作戦ですか。考えましたね」
オレに話しかけながら、メルティがオーバーアクションで腕を振り回す。
着ぐるみは、オレが助けた村で作ってもらった。オレがダンジョン潜りをしていたのは、VIPが馬車で通る通路の確保と、着ぐるみの完成待ちだったのである。
もちろん、ただかわいらしく振る舞うことが目的ではない。
身体の大きいメルティがキグルミを着れば、王たちの身体を隠せる。大きくリアクションをすることで、より的として狙われにくくなるのだ。
「なら、ドンギオが顔を隠す必要は、なかったのでは? あなたは追われる身ではないでしょうに」
オレが隠せるのは、小柄なエムくらいだろう。もっとも、エム程の魔法使いなら、自分で護身はできるが。
「そうなんだが、ちょっと気になることがあってな」
キグルミには、もう一つ役割がある。
「よく観察するんだ」
キグルミで目を覆っているから、敵から視線までは気づかれないはず。
「はいっ」
観客に愛想を振りまくフリをして、怪しいやつがいないか探る。
「ダメです。屋台の方に視線が行って、集中できません」
ここまで聞こえるくらい、メルティがお腹を鳴らした。クマ並みの食欲だな。
「ガマンしろ。パレードが終わったら、回ってやるから」
「ああ、あそこの串焼き肉、脂が乗ってさぞ……ドンギオ!」
「なんだよ。ガマンしろってさっきから」
「違います! あの屋台!」
メルティが、手を振る仕草で屋台を指した。
たしかに、弓に矢をつがえている!
矢は屋台の幌屋根を貫き、国王に迫った。
「あぶねえ!」
オレは、矢をつかむ。矢の進行方向は、国王の顔ギリギリだった。
メルティが食いしん坊でなければ、オレは気づけただろうか。
観客が、一斉に逃げ出した。
「おのれ、いい作戦だと思って追ったのに!」
ケンタウロスが、偽装していた屋台を破壊して正体を表す。屋台そのものに化けるとは!
「メルティ! 神輿を急いで、ウーラダンの宮殿へ逃がせ!」
王たちの護衛をメルティ任せて、オレはウマを借りる。
「今度は、逃さねえ!」
「フン、捕らえられるものなら、やってみせよ! その前に、王の心臓を射抜いてくれる!」
ケンタウロスが、教会の壁沿いに上へと駆け上がった。
「待ちやがれ!」
オレは後を追う。
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