第16話 魔法少女の試練

『これより儀式を始めます。この試練を越えてあなたに施されるのは、【浄化】の魔法です』


 オレの肩に乗りながら、モグラが試練の説明をする。


『今までのドンギオさまは、力でねじ伏せてきました。が、この力を得ることによって、ダークドラゴンに対する攻撃が効きやすくなります』


 オレの攻撃が、よりダークドラゴン特攻になるわけか。


『その際、武器の姿も変わります。では、参りましょう』


 モグラがオレから飛び退いた。台の上に描かれた紋章の上に乗る。



 紋章がモグラの魔力を吸収して、青く光った。燭台の炎よりも眩しい。



 光が、台の真後ろに集まっていく。なにか、人の形を取り始めた。


「ドンギオ、あれはもしかしたら」


 メルティが、指摘をする。


「ああ。魔法少女だな?」


 オレの目の前に、いかにも魔法少女らしき人物の幻が現れた。フリフリとした、独特のドレス・スカートである。ツインテールの髪型など、もう魔法少女としか形容しようがない。とはいえ、ドレスはドラゴンのウロコでできている。


 魔法少女と言う割には、ややファンシーさに欠けて物騒といえる。


『試練を受けし者よ。見事試練に打ち勝てば、この武器を授けよう』


 魔法少女の幻影が、オレに武器を向けた。魔法少女が手に持っている長い得物は、槍か? 違う。

 よく見ると、魔法のステッキを思わせるショベルじゃないか。

 ショベルは先端が、逆向きのハート型になっている。


「普通に戦ってもいいんだよな?」


『はい。ただし、お一人で戦う必要があります』


「わかった!」


 周囲に障壁ができ、オレとメルティたちを隔てた。


「ドンギオ!」


「心配するなメルティ!」


 オレは、ハンマーを装備する。


「エンチャント!」


 魔力をハンマーに注ぎ込むと、先端がハート型に変わった。


「うおおお!」


 オレは、ハンマーを横に振り回す。


 だが、ハンマーはスカった。空を切り、ダメージを与えられない。


「ドンギオ! 物理的に攻撃してもムダだ! 魔力をもっと武器に注ぎ込め!」


 竜人族のエムから、アドバイスが飛ぶ。


「そうはいっても、難しいぜ!」


「大丈夫。キミには無尽蔵の魔力が眠っている。エネルギー切れは起こさないはずだ」


 どちらかというと、負担に肉体が耐えられないかもしれないとのこと。


 魔法少女が、ショベルを踏みつける。ホッピングの要領で、跳躍した。


 なにか、大きな攻撃が来る。


 ショベルの先端を向けて、急降下してきた。


「やべえ!」


 オレは、ハンマーで攻撃を打ち返す。


 さらに魔法少女は、ショベルの先端を踏みつけた。


「ちいい!」


 ハンマーの先端に、ヒビが入る。


「な!?」


 魔法少女のショベル攻撃で、オレの武器が破壊されてしまった。


 ハンマーが犠牲になったおかげで、攻撃は逸れる。


 直撃は免れたが、オレは武器を失った。


「なあ、モグラ。オレって、負けたらどうなるんだ?」


『今戦っている魔法少女に、肉体を乗っ取られます』


 オレが死んでも、代わりはいるわけか。


「それもいいかもな」


「ドンギオ!?」


「まあ、聞けよメルティ。オレはそう簡単に死ぬかよ」


 まだまだ、オレはメルティと旅がしたい。この魔法少女の力を、自分のものにする。


 追い打ちで、魔法少女がショベルキックを繰り出した。


「ハンマーがダメなら、コイツはどうだ!」


 オレは、二つの盾を構える。エンチャントを施して、ハート型に変えた。


「そら!」


 盾同士で、ショベルの攻撃を挟む。


 魔法少女が、キックの構えを取る。


「今だ!」


 相手がキックしてきたタイミングで、オレは上へ宙返りした。


「身体にダメージは、通らない。だったら武器自体に攻撃はどうだ!?」


 オレは、ショベルの方にかかとを落とす。ここが最も、魔法少女の魔力を感じ取ったからだ。


 かかと蹴りを食らって、ショベルの魔力がかき消える。


 同時に、障壁も消え去った。


「ドンギオ、やりましたね!」


「すごいなドンギオは。どこで気づいた?」


 メルティとエムが、オレに駆け寄る。


 オレは、力を消耗して動けない。


「相手が攻撃してきた際に、魔力の流れを読んだ」 


 おそらく、この武器自体が幻影を作り出していると推理した。


「ともあれ、これで試練達成だよな」


 オレは、武器のショベルをつかむ。


『お見事です。試練を達成しました。武器は、他の武器を融合させることでアップデートできます』


 それはありがたい。オレの鍛冶スキルが、腐らずに済む。


「でも、身体がガタガタだな」


 思うように立てない。かなり消耗してしまったようだ。


「ならば、どうぞ」


 メルティがオレを抱えあげる。いわゆるお姫様抱っこの形で。


「そんなメルティ、悪いぜ」


「いいんですよ。今日くらいは甘えてください。それに、お姫様抱っこって憧れだったんですよぉ」


 誰も見ていないうちは、いいだろう。


「では遠慮なく」


 遺跡の通路をエムが閉めて、出口へ。


 先へ進むと、洞窟の光が見えてきた。


「あ」


 他の冒険者たちが、異様なものを見る目でオレたちを観察する。


「いいややあのあの、これはですねえ!」


 慌ててお姫様抱っこをやめて、メルティが弁解を始めた。


「この子、男の子なの?」


「こんな可愛い子が、女の子なワケがない」


 冒険者たちが、オレを見て色々と議論を始める。


 ギルドでも、オレらしき人物は「謎の美少女だか美少年」と称され、ウワサになってしまった。


 こうして、パレード当日を迎える。

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