第13話 冒険者になりたい、竜人族の姫

 王家の滞在先は、ややこじんまりとしたお屋敷である。


 竜人族に伝わる薬草茶を、ごちそうになった。やたら苦かったが、お茶請けのアンコ入りモチと一緒に食べるとめちゃくちゃうまい。


 メルティは、お茶請けなしでもゴクゴク飲んでいる。この程度の苦さは、なんともないらしい。


「ドンギオ・ティアーニよ。ささやかだが、受け取ってもらいたい」


 報酬の金貨と、この街や王都で使える割引の権利をいただく。


「割引の権利だけ、もらおうかな。金には困っていないんだよなあぁ。こんなにたくさんもらっても」


 ずっしり重い金貨入り袋を、オレは国王に返した。


「何かと必要だろう。護衛費も兼ねて、受け取ったいただければ」


「そうか。では、遠慮なくいただきますね」


 護衛には、なにかと金がかかる。準備費用と考えるとするか。ヘタに返金するのも失礼だし。


「お祖父様、やはりボクは冒険者になるよ。学校なんて行きたくないね」


「それは、勉学をおろそかにしたいから言うのか。それとも、本心から冒険者の道を歩みたいのか」


 エムと国王が、口論を始めた。


「よいか、エミーリア。お主は世界を見る前に、基礎を学ばねばならぬ。旅に出るのは、その後でもよいと思うぞ」


「旅に出ながらでも、勉強はできるさ。ボクはバカじゃないし、バカにもなりたくない。でも、バカと一緒に勉学に励むのはガマンならない」


 会話から察するに、エムは協調性に欠けている。


 だから国王は、学校に行かせたがっているのか。


「ウーラダンの街に来たのも、パレードだけではない。エミーリアを、魔法学校に通わせるためなんだ。どちらかというと、これには社交性を身に着けてもらいたいのだよ」


 たしかに、このままの性格だと苦労しそうだな。


「ああ。そういえば、近くにありますね」


 メルティが、お屋敷の近くにある学校を指した。


「魔法技術が盛んな街だからな。魔法の基礎を学ぶには、ちょうどいい」


「でも、生徒は初心者ばかりじゃないか。ボクは勉強も好きだし、学校に行くことは構わない。けど、無知な連中と一緒には一秒たりともいたくない」


 かなり重症だな。


「なぜそんなに、レベルの低い連中との関わりを避けるんだ?」


「自分より学のない連中に、教わりたいと思うかい? 前の学校でも、それでモメて辞めたしね」


 あーっ。生徒を飛び越して、先生の方にもケンカを売っていくスタイルですかそうですか。

 お口が全体攻撃魔法じゃねえかよ。まいったなこりゃ。


「どうせなら、ドンギオのパーティに入れてほしいな」


「オレだって似たりよったりだぜ? お姫さま」


「でも、退屈はしなさそうだ」


 こちらとしても、反対材料は特にない。気心がしれている同士なら、彼女だって心を開くだろう。


「オレとしては、いいんですよ」


「しかし、迷惑をかけてしまわないか?」


「姫と言っても、竜族でしょ? 護衛は、おそらく必要ない。自衛できるだろう」


「たしかにな」


 王様は、腕を組む。


「だが、まだオツムは幼い。人を見下す。特に人間族と一緒にいたら、これは退屈するだろう。それに耐えられる頭を養わねば」


「オレにだって、人間の血が混じっているぜ。というか、今の種族はほとんど人間族との混血だ。王様だってそうでしょ?」


「うむ。だからこそ、人にも優れたものがいると、理解させたいのだ」


 座学でそんな礼節が身につくなら、苦労はない。特に、エムの場合は。


 とはいってもなあ。


「パレードまで、保留にしてもらえませんか?」


 今は、王は狙われているかもしれない。


「魔輝石の件もあります。それが収まるまでは、旅の話はちょっと」


「そうだった」


 国王が手をたたく。


「ワシらはウワサの特殊な魔輝石についても、調査をしていたんだったな」


「もうろくしたねえ。お祖父様も。コイツについては、とっくに調べたよ」


 ため息をつきながら、エムが小型の魔輝石をテーブルに置いた。


 ドクンドクンと、魔輝石は脈打つように光っている。


「調べた結果、これはボクたちと同じ竜族が関わっている」

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