第12話 竜人族との出会い

 ケンタウロスが、馬車にもう一度体当たりをかまそうとした。魔物が着ているヨロイから、トゲが飛び出る。


「させるか! トルネードスピン」


 オレはハンマーを振り回しながら、自分の身体をグルグルと回す。


 ドンと、ケンタウロスの脇腹にハンマーをめり込ませた。


「ぐへえ!」


 ケンタウロスの巨体が馬車から離れ、森の方へ吹っ飛んでいく。


「フン。大した腕前! しかし、ドワーフではワシに追いつかんぞ!」


 ケンタウロスが、前足で土を何度もえぐった。


「メルティ、馬車の警備を頼む。こいつは、オレがやる!」


「はい。気をつけてドンギオ! そのモンスターは素早いです!」


「わかった! 【リーンフォース】!」


 肉体強化で、ドワーフ独特の鈍足を克服する。


「なに!?」


 いきなり眼前に現れたオレを見て、ケンタウロスは驚きの表情を見せた。


 回避しようとした魔物の軸足を、オレはハンマーで粉砕する。


「あがあ!」


 ケンタウロスが、転倒した。


「誰に雇われた? 話せば、見逃してやってもいい」


 魔物が王族を襲うなんて、誰かの指示でなければ考えない。


 王族・上位の貴族は外出時に、自身や馬車に【魔物よけ】や【盗賊よけ】の術を施す。


 その細工さえ、突破するような相手だ。何者かの指図があったと予測できる。


 おまけにコイツは、武装していた。オレの攻撃も、大してダメージにはなっていないだろう。


「フム。これだけのリーンフォースの使い手には、会ったことがない!」


 やはり、ケンタウロスはすぐに起き上がった。


「貴様か。我々の計画を邪魔する魔法使いとやらは!」


「なんだと?」


 さらに話を聞こうとしたが、ケンタウロスが上の空に。


「ここで勝負といきたいが、引き上げる。また会おう!」


 ケンタウロスが、背を向ける。


「待て!」


 追いかけようとしたが、リーンフォースの効果が切れた。


 上を見ると、照明弾が上がっている。


「西の森からのようですが、もう逃げた後でしょう」


 ギルドに報告して、調査してもらえばいいか。


「危ないところを。感謝する」


 白いヒゲを携えた老人が、馬車から降りてきた。


「いえ。ケガがなくてよかった」


 兵隊が戻ってくる。オレたちを警戒してヤリを向けてきたが、王が止めた。


「私はベールセイアルの王を努めているオスカル・ヴィヴィーオ。この子は孫のエミーリア。見ての通り、我々は竜人族だ」


 王が名乗ったので、オレたちも頭を下げつつ自己紹介をする。


「お祖父様、やはりボクが戦うべきだった。であれば兵隊にケガ人を出さずに済んだよ」


 さっきコケていた小さい娘っ子が、土を払いながら老人に問いかける。たしか、エミーリアだったか。


「お前ではやりすぎるだろ。森どころか、近隣の街さえ焼き払いかねない。それより、お前もあいさつなさい」


「はぁい。エミーリアなんて呼ばなくていい。エムと呼んでくれ。よろしく」


 エムは簡単にカーテシー……貴族風に、ローブを片方つまんで持ち上げた。白い足がチラついたが、実に細い。術士に多いという、ホワイトドラゴンの血筋だろうか?


 王様は貴族服なのに、彼女はローブだ。まるで学者か冒険者のよう。


「メルティだっけ? キミは、マスクを取らないんだね? 素顔を見せられない事情があるのかな?」


「あ、そうでした。ヘルムを脱いでませんでしたね」


 さすがに無礼だと思ったのか、メルティがカブトを取る。


「おや、お主どこかで?」


 オスカル王が、メルティの顔をじっと見た。


「ひ、人違いでは、ないでしょうか?」


「だよなあ。エルフ王国のお妃様は、もっと若かった」


 メルティも、「そうですよそうですよ」と、手をバタバタさせる。


「女性の顔をジロジロ見てしまっては、無礼だったな。エルフはみんな美人だから、ついつい知り合いと勘違いしてしまったようだ。それも、差別発言だったな。お詫びする」


「お詫びだなんて。光栄ですわ」


 カブトをかぶったままでいいとお許しをいただき、メルティは改めてカブトを頭に。


「それにしても、大した魔法攻撃だね。ボクはキミたちに、俄然興味が湧いたよ。ボクたちの屋敷に招待したいんだけど、お祖父様はいいかな?」


 エムから、屋敷に招待された。

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