第8話 巨大スズメバチ退治

 少年の案内で、村まで来た。


 一〇メートルを超えるスズメバチが、配下のハチを連れて村を襲っている。子分のハチでさえ、二メートルはあった。


 村人が、討伐にあたっている。中には、冒険者の姿も。


「大丈夫か?」


「クソ、スズメバチから村人を保護する依頼だって聞いてきたのに、こんなのがいるなんて!」


 冒険者でさえ、ハチの大群に苦戦していた。巨大スズメバチには、近づくこともできていない。魔法使いの攻撃さえ、追いついていなかった。それだけの群れで、ハチたちは襲ってきている。


「ここは、オレたちに任せろ! 避難を優先するんだ!」


「わかった。頼む!」


 冒険者たちは、避難していく。


 オレは杖ではなく、ハンマーを取り出した。


「くらえ、トルネード!」


 ハンマーに炎の魔法をエンチャントして、旋回する。


 スズメバチたちが炎に焼かれていく。


「な、なあ!?」


 ゴツゴツしていたハンマーに、ファンシーな装飾が。なるほど、忘れていたかったがオレには【魔法少女の呪い】がかかっていたんだっけ。ずっと忘れていたかったよ。


「無骨なハンマーだとしても、これになるのかよ」


 エンチャントすると、こんなビジュアルになっちまうのか。冒険者たちを下がらせて、正解だった。


 親スズメバチのケツから、子分が湧いてくる。親玉のケツ全体が、ハチの巣になっているらしい。


「ドンギオ、親玉を倒さない限り、無限湧きのようです」


「よっしゃ。オレがザコを引き付ける。メルティは親玉にとどめを刺せ!」


「はい! ドンギオ、これを!」


 オレは、パンパンに膨れたズタ袋を、メルティから受け取った。袋には、薬草が目一杯入っている。


「ニオイ玉です。ハチが嫌がる成分を撒き散らしますよ」


「助かる! もういっちょトルネード!」


 トルネードで旋回しながら、メルティにまとわりつくハチどもを焼く。殲滅する必要はない。メルティが親玉に攻撃できるスキさえ作れれば。


 飛んでいる相手に、メルティは苦戦している。


 ファイアーボールなどの飛び道具を持つオレの方が、親玉の撃退に行くべきだったか?


 いや、メルティには強くなって欲しい。


「ハート・オブ・ファイアー!」


 親玉の羽根に、オレはハート型ファイアーボールを当てる。


 よけられはしたものの、親玉の羽根をかすめて引火した。コントロールを失い、親玉スズメバチが落下し始める。だが、敵はあきらめていない。親玉ハチが、メルティを突き殺そうと急降下してきた。


 メルティは、瞬時に交わす。


 巨大スズメバチの針が、大木に突き刺さった。


 一瞬で、木がしおれていく。針は、かなり毒性が高いようだ。


 なおもスズメバチは、メルティに襲いかかる。


 今度は、メルティは避けない。すぐ後ろに、村があるからだ。


「シールドバッシュ!」


 円形の盾でケツを殴り、メルティが親玉の針をへし折った。


 子分どもが、迷走しだす。どうやらあの針は、司令塔の役割も果たしていたようだ。


 親玉も負けていない。メルティに対し、噛みつきをしかけてきた。


「えいっ」


 ハチが開けた口の中へ、メルティは剣を突き立てる。


 剣の先が脳にまで到達したのか、スズメバチは悶絶し始める。


 針が復活し、メルティを突き刺そうと迫った。


「やべえ!」


 オレはトルネードの勢いのまま、巨大スズメバチのケツを叩き潰す。


 ハチが大きくのけぞり、仰向けに倒れた。


 大きく身体が跳ねたが、スズメバチは動かない。


 子分のハチどもが、森の中へ消えていく。


「個体は、このデカいのだけか?」


「いや。巨大なサイズのヤツは、まだ三体もいるんだ」


 そりゃあ、冒険者も逃げ出すよな。攻撃手段が、限られている。


「装備を整えてきていいか? かなり大規模な作戦になりそうだ」


「構わない。村を救ってくれ」


「おう。このスズメバチの素材は、そっちで活用してくれ」


「いいのか?」


 申し訳なさそうに、少年は尋ねてきた。


「オレたちの取り分は、ギルドからもらえるからな。散々やられたんだ。村が有効利用すべきだろう」


 冒険者への報酬で、村もカツカツのはずだ。


「そのかわり、こいつにうまいハニトーを作ってやってくれ。大好物なんだってよ」


 オレが親指でメルティを指す。


「えへへぇ」と、メルティは頭をさする。クマヘルメットで表情はわからないが、デレッとしているはずだ。


「ありがとう。今後も頼むようまいハニトーを作って待ってる」


 この村はパンも、アイス用の乳も、ウーラダンにおろしているらしい。だとしたら、メルティのために救ってやらないとな。


 少年に断りを入れて、拠点へと帰る。


「弓がいるな」


 飛ばれた状態で攻撃されたら、こちらに手段がない。


「二人分の弓を作る」


 クモ型ドラゴンの糸を持っていて、正解だった。活用法ができたから。


「それにエンチャントして、と」


 森に入るなら、炎系魔法は木々に燃え移ってしまうから使えない。


 氷魔法を施した矢じりを、開発する。


「どうだ? 強そうか?」


「はい。カワイイですね」


 やっぱり、矢じりもハート型になっちまうんだな……。


「子分ハチの逃げた先はわかるか?」


「森の中央付近に逃げていくのを見ました。そこがアジトでしょう」

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