第7話 拠点づくり

 ウーラダンの街で、拠点となる土地を購入する。


 思っていたより、いい場所だ。適度に広い。こじんまりとしようと思えばできるし、その気になればぜいたくも可能だろう。


「ドンギオさん、設計はいかようにいたしましょう?」


 商業ギルドのお姉さんが、聞いてくる。


「土地の半分を小屋にして、もう半分はトレーニング用の庭にしよう。そんな感じで頼む。持ち運ぶから、小屋サイズがいい」


 あまり豪勢な家だと、税金が高いのだ。


「承知しました」


 オウルベアの肝と、作った装備品が思いの外、高く売れた。シラッドでミニドラゴンを倒した報酬も、高額である。それがなかったら、家なんて買おうと思わなかったな。


 ギルドの方が、「ここに住んでくれ」と言ったのだ。ありがたくコネクションは使わせていただく。


「ティアーニの家柄だっていっても、そんなに金があるわけじゃないんだ。予算内で収めてくれるなら、アバラ家で全然構わない」


 冒険者なんだ。帰るヒマもほとんど無いだろう。寝床と作業場さえアレばいい。


「料理は外で食べるから、キッチンは――」


「台所はくださいっ」


 メルティが、意見をしてきた。


「作る余裕なんて、あるか?」


「大丈夫です。ワタシはハーバリストでもあるので、簡単なものなら作れます。それに」


 そっか、メルティはなるべく、外界との接触は避けたいんだったな。


 彼らが家を建ててくれている間に、オレたちはせっせと採集をする。家を買って、ほぼおけら状態だからだ。


 モンスターを倒して素材を集め、依頼を受けて報酬をもらう。今日は、【いっかくウサギ】の角の採取だ。畑を荒らす上に、角は薬品の材料となる。


 ダンジョンに潜っては、モンスターを退治しつつ採掘も行った。いい鉱石が取れそうな場所だ。


 とはいえ、長居はできなさそうか?


「メルティはいいのか、オレがここに住んで」


 仮拠点の宿で、オレはメルティに聞いてみた。


「大丈夫です」


 クマヘルメットを脱いで、メルティは笑顔を見せる。


「でも、追われている身だろ?」


「ドンギオは、お気づきでしたか」


「いや、ただのカンだ。なんか、ワケアリなんだろうなって」


「なにも、お気になさらず。このままズンズンと進んでも、いずれは頭打ちになります」


「だよなぁ」


 ここは、そう何ヶ月も滞在するわけじゃない。目的は、互いの装備を充実させていくこと。


 オレたちの冒険者レベルも、そんなに高いわけじゃない。何ができるかわからない内に場所を転々としても、どこかで足止めを食らうだろう。


「あのー、ここのデザートって、ハニートーストですよね? アイスだけなんですか?」


 メルティが、レストランの人を呼んだ。


「すいません。実は、近隣の村でハチミツが採れなくなっているみたいで」


「そうですかー、はあ」


「スキなのか?」


「ウーラダンのハニトーって、おいしいって有名なんですよ。ワタシ旅に出たら、ウーラダンのハニトーを食べようって決めていたのに」


 なにかトラブルがあったのだろうか? 何もなければいいが。


 三日後、小屋が完成した。


「うわあ」


 とても三日で作ったとは思えない、頑丈な作りだ。さすがドワーフの仕事である。普通なら、一ヶ月はかかるのに。


「ありがとう。理想通りの小屋だよ」


「気に入っていただけて、なによりです」


 商業ギルドも、満足げだ。


「でも、完成まで早すぎないか? ちゃんと休みも取って仕事しないと」


「交代制で作業をしたので、お気になさらず」


 朝昼晩と、ルーティンしたらしい。


「キッチンがありますね。ちゃんとハーバリストの作業部屋とも、仕切ってくれてます」


 中に入って、メルティが喜ぶ。


 鍛冶仕事や薬草研究は、意外となにかしらが飛ぶからな。キッチンとは離しておきたい。


 二階が寝室……なわけだが。


「お姉さん、ちょっといいか」


「なんでしょう?」


「どうして、寝室が一部屋しかないんだ?」


 建築責任者である商業ギルドを問いただす。


「ミニマムなお家がいいと、おっしゃったではありませんか」


「おっしゃったけど! 待ってくれ。オレとメルティはそんな関係じゃ」


「今はそうでしょう。しかし、時が経てばわからないものですよ。私だって、今の主人とはそんな感じでしたから」


 あんたの色恋事情なんて知らんねん。


 新たに寝室を作ろうにも、スペースはギリギリだ。


「ワタシは構いません。一緒に寝ましょう」


「そうはいっても」


「大丈夫ですよ」


「メルティがいいなら、いいか」


 ただし、ベッドはもうひとつ用意してもらった。


「後はこの家に、簡易収納装置をセットして、と」


 簡易収納装置があれば、旅先にもこの家を持ち運べる。


「すごいですね」


「ドワーフが編み出したアイテムボックスの、応用だ」


 といっても、食料品や無機物に限定されるが。


「ギルドから近いって、いいよな」


「ですよね。さっそく依頼者のような人が入っていきましたね?」


 なんだか、物々しい。オレたちもギルドの中へ向かう。


「助けて! 村のハチ農園が、モンスターにっ!」


「落ち着いてください。何があったのですか?」


 ギルド員が、少年に水を差し出した。


 少年が、水を飲み干す。


「見たこともないくらいデカさのスズメバチが、ウチで作ってるハチの巣を荒らしてる!」


 村人の中にも、けが人が出ているらしい。


「人間も襲ってるんだ! 誰か来て欲しい!」


「相手のサイズは、どらくらいですか?」


「だいたい、一〇メートルだ!」


 屈強なギルドの冒険者たちが、全員青ざめる。


「オレが行く。受付の人、依頼受諾の登録を」


「ワタシも行きます! 案内してくださいっ!」


 オレとメルティで、近隣の村へ向かう。


 もしかすると、例の魔輝石が絡んでいるかもしれない。


「ありがとう! ついてきて!」

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