第6話 次の街で拠点を探す

「おりゃああ!」


 メルティが、オウルベア相手に剣を振るう。


 今オレたちが拠点にしているのは、近くにダンジョンのある街「ウーラダン」だ。

 はじめに訪れた街「シラッド」から、馬車で三日のところにある。


 依頼もなく施設も農家しかないのどかなルートは、馬車でサッと抜けた。


 メルティが一応、ポーションづくりに長ける【ハーバリスト】系のスキルを持っている。

 ソロ狩りを見越してのことだろう。


 比較的モンスターが弱い、草原付近を進んでもよかったのだ。


 とはいえ薬草は、ダンジョンで生えているモノの方が育ちがいい。

 その分過剰に魔力を吸って、毒性のほうが上がってるが。


 またメルティは、それなりに強い。


 自分自身を鍛える必要があるから、強い魔物が出る森かダンジョンの方がよかろうと考えた。


 オウルベアとの戦闘も、終わりそうだ。


 氷の矢でオレがオウルベアの目を潰し、メルティが心臓を一突きする。


 ドン、と大きな音を立てて、オウルベアは仰向けになった。


「見てください。これは、何かのアイテムになりませんかね?」


「オウルベアの肝か。薬品として使えそうだ。売ろう」


「やった」


 五体のオウルベアを倒し、オレたちはギルドのある街まで向かう。


「だいぶ強くなったな」


「ドンギオのおかげですよ」


 メルティは、戦闘スタイルを変えた。

 大剣で殴るスタイルから、長剣と盾によるヒット・アンド・アウェイのスタイルに変更している。


「大型の武器を持って、殴りかかるイメージがあったので」


「それは、ソロ狩り職の【バーバリアン】だろう。パーティを組むスタイルなら、盾は必須かもな」


 前衛職の基本は、後衛を守ることだ。重いヨロイを身につけて、相手の注意を自分に向けさせること。


 対してバーバリアンは、複数の大型武器を片手で扱える。

 前衛職ではあるものの、どちらかというと「殲滅」が専門だ。

 後方支援を気にする必要がないから盾を持たず、ソロ狩りに向いている。


「まだこっちを見ている個体がいますね?」


「放っておけ。任務は殲滅ではない」


 ウーラダンのギルドから受けた依頼は、「オウルベアの爪とクチバシを取ってくること」だ。


「お肉は、持って帰らないんですね」


「一応食えるんだけど、下処理がめちゃ大変なんだ。三日煮込んで三日寝かせないと、臭くて食えない。しかも、魔素を吸いすぎてるからマズイらしい。土を食ったほうがマシ、ってレベルなんだと」


「確かに、クサイですね」


 オウルベアは、キメラの一種である。食用より、戦闘用なのだ。


 アイテムは十分揃っているから、これ以上は乱獲になる。

 ヘタに生態系を崩せば、別のモンスターが繁殖してしまう危険もあった。

 必要以上に魔物を狩らないことが、冒険者暗黙のルールである。


 冒険者ギルドに戻って、戦果を報告した。


「ありがとうございます。依頼品の他に、肝まで。実に状態のいい肝です」


 ギルドが、銀貨を差し出す。


「こんなに……かなり高額だぞ」


 五体分の肝にしては、破格である。


「いいんです。魔法実験の素材にするそうなので」


 ここは、いい場所だな。

 装備品もドワーフが作っているためか、質が高い。

 オレの装備も、売れたり売れなかったりだった。


「ドンギオの作ったもののほうが、いいのに」


「これでいい。オレはその分、メルティの装備品に専念できるからな」


「ウマいですね、ドンギオ! 頼りにしてますっ」


 メルティが、オレをヒジで小突いてくる。


 なにがウマいんだか。


「さて、拠点を買うか」


 ここには、しばらく滞在することになるだろう。


 商業ギルドに相談をしてみる。


「拠点が欲しい。できれば簡易ベッドと風呂があるところが。工房があればいいが、店舗用の施設やキッチンはなくていい。維持費が安くて、作業のできる寝床のような場所はないか?」


 ギルドのお姉さんに、物件を見積もってもらった。


「次の街へ行くまでの間に、鍛冶スキルを上げておきたいんだ。お前さんもハーバリストのスキルを上げるために、実験場が必要だろ?」


「ですです」


 遅くまでやっているレストランが近くて、民家から離れている場所はないものか。

 街を出るとき、すぐに引き払えるように、格安物件がいい。


 条件としては、そんなところである。


「申し訳ございません。こちらの条件に見合うどころか、ウーラダンの街には空き家自体がございません」


「ですよねぇ」


 なんか、評判いいんだもん。この街は。「王都ベールセイアルにつなげる」ってんで、発展開発中とかで。


「出直してきます」


「でしたら、お建てになったらいかがでしょう? いい土地なら、ございますよ」


 以前薬師が使っていた土地が、空いているという。だが、建物は潰してしまったらしい。


「どうしてまた?」


「薬品に長年触れたせいで、建材が腐食しちゃって」


 話を聞きながら、メルティがうんうんとうなずいている。「ハーバリストあるある」なのか?


 土地を買ってくれたら、建材は用意するし工事費はお安くしまっせ、とのこと。

 街の発展のために、ぜひ買ってほしいと念を押された。


「なんでそこまで?」


「ティアーニ家のご子息が住んでいるというだけでも、我々にとってはメリットなのですよ」


 街の開発が済むまでは、住んでほしいとお願いされる。


 一瞬、「ずうずうしいな」とも思った。建ててくれるというのだから、文句は言えない。


「作るかぁ。いいな」


 DIYも、修行の一環だよな。


「ドンギオ、借りなくていいんですか?」


「借りるよりずっといいよ。それに」


 オレは、メルティに耳打ちした。


「家は、持ち運べるようにする」

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