第二章 前衛職になりたい、モヤシエルフ

第5話 新たな装備

 今日から、新天地へ旅立つ。


 とはいえ、女性と二人きりで、ひとつ屋根の下で眠ってしまった。


 ふたりとも疲れていたから、風呂に入って即、意識を手放したが。


「おはようございます、ドンギオ。すぐに支度をしますね」


 隣のベッドで、メルティが目を覚ます。


「寝てていいよ。昨日は大変だったろ? オレの魔法の源を覚醒させて、あんたも力を使いすぎていた」


「わかっていましたか」


「何度も、立ったまま寝てたもんな」


 寸法を測っている間、メルティはずっと船を漕いでいた。だからオレは早めに切り上げて、眠ることを提案したのである。


 健全だ。オレたちは間違いなく健全である。やましいことなんて、これっぽっちも考えてないから。うん。


「何を、お一人で納得なさっているんです?」


「別に! メシにしよう」


 壁掛けの電話で、宿の使いを呼ぶ。


「人を呼んだから、ヘルメットを被ってて」


「はい。スチャッ」


 急いで、メルティがクマカブトを被る。


 朝食がてら、地図を広げた。


「海を渡るか、陸路で行くか」


 地図にパンくずをこぼしながら、オレは思案した。


 海を経由すれば、二ヶ月ほど短縮できるが。


「急ぎますか?」


「いや。のんびり行こう」


 北西の洞窟へは、早くても馬車で半年はかかる。急いでも、仕方がない。


 二人旅なんだ。オレの用事だけ、優先する訳にはいかない。


「メルティは、強くなりたいんだろ?」


「そうです」


 ならば、レベルを上げつつ旅をすればいいだろう。


「ただ海を渡るとなると、故郷を経由しなければいけないので」


「ああ。エルフの島があるんだっけ?」


「はい」


 エルフが住んでいる島っていったら、西南西にあるアレーナ島だよな。

 エルフの王国があるらしいが、ほとんどの国と国交を断絶している。オレも、詳しくは知らない。


「ワタシは、故郷に何も言わずに出てしまったので、帰りづらくて」


「わかった。陸路で行こう」


「いいんですか?」


「以前通った道を逆に行っても、景色が代わり映えしないだろ? どうせなら、のんびりいこう」


 彼女の事情は、知らない。本人が話さないなら、別にこちらも聞くことはなかった。


「何も聞かないんですね?」


「聞いてどうするよ? オレに解決できる問題なら話してもらいたいが、違うだろ?」


 メルティは黙り込む。


 おおかた力をつけたいといったところだろう。であれば、旅で強くなればいい。


「オレの魔法だって、ワケアリだ。ならワケアリ者同士、仲良くしよう」


「ありがとう、ドンギオ」 


「どういたしまして。あと、装備ができたぞ」


【簡易工房】から、装備を取り出す。

 メルティが気に入っていたので、デザイン一式をクマで統一した。

 タマネギ装備よりデフォルメが効いていて、はるかに丸みを帯びている。

 我ながら、かわいらしい出来上がりだ。


「わああ。すごい軽い! ありがとうございます!」


 クマのヨロイを着たメルティが、何度も飛び上がる。


「いや、前の装備が重すぎなんだって」


 重戦士に憧れるのはいいが、自分の筋肉量と相談しないと。


「ジャンプしても、床が抜けません。前の装備は、腰掛けたベッドを破壊したくらいなのに」


 ギルドに別れのあいさつへ。


 なんと、追加報酬をいただいた。この間ギルドに預けた魔輝石の一部である。


 たしかに、これだけ純度の高い石なら、装備としても役に立つが……。


「助かりました、ドンギオさん。あなたがあのボスを倒してくれなければ、街がとんでもないことに」


「どうしてだ?」


 魔輝石なんて、対して珍しい魔法石ではない。


「それが、あの魔輝石に、膨大な魔力が外部から注入された痕跡があったのです」


 何者かのイタズラ・気まぐれ・戯れにしては、手が込みすぎているとか。

 現在ギルドに調査依頼を出しているが、ロクな進展はない。


「犯人はもう、この街にはいないものと判断しています」


 接触したら、気をつけるようにと言われた。


「わかった。無茶はせずにまっすぐギルドへ報告をする」


「お願いします。お疲れ様でした。よい旅を」

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