第4話 呪い【魔法少女の残滓】

 たしかに、オレが読んでいた伝記の中には「魔法少女」の記述もあった。


「なあメルティ、これはいったい」


 目をそらしやがったぞ、メルティのやつ。


「ドンギオ、あなたの受けた『呪い』と呼ばれるものが、それなのです。あなたの触れた魔法は、極めて特殊なものでして」


 どうもオレはガキの頃、【魔法少女の残滓】に触れてしまったらしい。


 ドワーフどころかほとんどの魔法使いが、オレの呪いについて知らないわけだ。


 オレがかかった呪いが、魔法少女だったとは。


「そっか。ヒョロくなるわけだ。筋力レベルでほぼ『女体化』していたんだから」


「でも、危ないものではありません! 魔法少女に触れること自体、奇跡ですし。あなたは選ばれた人として、誇っていいです」


 わかるよ。かつて魔法少女は、世界を救った一人だもんな。


 その力を受け継いだってことは、世界に何かが起きているんだろう。


「やってやる!」


 オレなりに、戦ってやるよ!


「おおおお! トルネード!」


 魔法少女のステッキみたいになった杖を、豪快に自分ごと振り回す。

 超前衛職なバーバリアンのスキルなんだが、ドワーフのオレなら素で使いこなせる。


 クモの糸攻撃も大量の足による引っかき攻撃も、全て叩き潰した。

 噴射による加速と杖自体の重みで、あらゆる攻撃を避けながら破壊していく。


 ドラゴンが、オレを前足で踏みつけようとした。


 赤い前足を踏み抜いて、頭頂まで後少しまでたどり着く。


 オレはまた杖を振り回し、回転を加えた。


「どらああああ! メルティのお礼参りだぜぇ!」


 最後は横っ面に、ファイアーボールを付与した杖の先を叩き込む。

 火力と速度と杖の重量をモロに受けて、モンスターの頭が吹っ飛んだ。


 手応えは十分である。


 同時に、魔物の肉体がドロドロになっていく。

 オレを握りつぶそうとした前足が、目の前で崩れた。

 最後は、魔輝石だけが残る。


「ふうう。うまくいったな」


 魔輝石を回収し、一段落した。


「すごいです。でも結局、ワタシって何の約にも立ちませんでしたね?」


「とんでもない! この呪いの正体がわかっただけ、すげえって!」


 今まで、誰にも正体がわからなかったんだ。

 オレに魔法を解読する術がなかったから、メルティがいなかったら、一生お荷物になるところである。


「でも、どうしましょう。このままでは帰れません」


 顔を抑えながら、メルティは困り果てていた。


「どうしたんだ? そのまま変えればいいじゃないか」


「わたし、家を脱走してきたんです。いくら認識阻害の魔法を施していても、仮面がなければバレてしまうでしょう。困りました」


「ああ、じゃあこれはどうだ?」


 オレは、ヘルメットを差し出す。子どもの防災用に、頭部にクマミミをしてあった。


「ありがとうございます。でも、頭はフィットするんですが、顔が隠せません」


 クマの顔をしたヘルメットを被せたはいいが、顔の上半分しか隠せていない。


「弱ったなぁ。ちょっと待ってろ」


 オレは、タマネギヘルメットを確認する。こちらは上半分がひしゃげていた。


「こっちからアゴの部分を外して、と」


 鉄カブトの下半分を、クマヘルメットと繋げる。


「これで、いけるはずだ」


「わあ、顔隠せています。ありがとうドンギオ」


「応急処置だ。材料は今から調達する」


 つるはしを持って、その辺の鉄を採取する。つるはしは、ダチのカロレからもらったものだ。

 カロレはいざという時のために、採取用のアイテムも作ってくれたのである。


「お手伝いしましょうか?」


「一本しかないから、いい。あんたではレア鉄の見分けもつかないだろ?」


 オレのつるはしは、レアがあったら探知してくれるという、スグレものなのだ。

 もっとも、この機能はオレが後付したのだが。


 鉄を集めて、アイテム袋にしまう。


「これだけ鉄があれば、【簡易工房】でヘルメットを一から作り直してやれる」


「簡易工房なんて、持ち歩いてるんですか?」


「ダチが、持たせてくれたんだ」


 いつどこで、修理が必要になるかわからない。また、鍛冶の実力も不明なときもある。


「あら、メルティさんですか? ずいぶんとかわいらしくなりましたねぇ」


「えへへぇ」


 ギルドから帰ると、メルティはみんなから注目の的となっていた。


 宿に戻って、食事がてら【簡易工房】をセッティングする。

 工房と言っても、ただのツボだが。

 とにかく、メルティのヘルメットを新調せねば。


 簡易版クマのヘルメットと、ダンジョンで手に入れた鉄材をツボに放り込む。


 メルティが顔を隠す必要があるので、食事は部屋で取る。


「店売りを買わないんですね?」


 手羽先を食べながら、メルティが聞いてきた。


「この街の商品は、ダメだ。技術が、オレよりうまくない」


 街にも装備売り場や鍛冶屋があるのに、冒険者は装備をオレから買っているのだ。

 冒険者は修理くらいでしか、利用していないらしい。


 この街は、もう潮時かも。他の店に目をつけられる前に、退散だ。


 その前に、仲間ができてよかった。


 完成するまでヒマなので、メルティにはシャワーを浴びてもらうことに。


「できました?」


 後ろから、声がする。


「ああ。できた、ぞっ!?」


 バスタオル一枚のメルティが、目に飛び込んできた。


 オレは、後ろを向く。


「お気になさらず。ヨロイを作っていただけるんですから」


 振り返ると、メルティがシャツとホットパンツ姿になっていた。

 単なるヨロイの下に着るインナーなのに、このプロポーションとは。


「ああ、そっか」


 そういえば、そんな約束も帰り道でしたよな。



 想像していた以上に、計測不能な身体をしているじゃないか。

 少年向けの伝記でしか、あんなスタイルのいい少女に出会ったことはない!



「ひとまず、頭だけ」


「クマですか?」


 ヘルメットは、よりクマらしさがアップした。


「タマネギよりは、マシだぞ」


「ですね!」


 メルティも、気に入ってくれたようだ。


「目と口の部分に、認識阻害の術を施しておいてくれ。そこだけ露出してるから」


 口を開けば、食事もできるようにしてある。ポーションも飲むから、口部分は開けておく必要があるのだ。


「では」と、メルティはヘルメットの目に黒いガラスをはめる。


「これで、直射日光も防げます。あとこんなことも」


 ヘルメットをはめて、ランタンを消した。クマの目が光っている。


「ライトにしたのか」


「はい。灯りにもなって、魔物への威嚇もできます」


「いいなそれ」


「いいでしょー」


 メルティがヘルメットを外し、再びランタンに火を灯す。


「ドンギオは、これからどこへ向かうんです?」


 サイズを測ってもらいながら、メルティが聞いてきた。


「北西の都市へ行く」


 そこには、オレが呪いを受けたダンジョンがある。

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