第3話 魔法発動!?

「えへへ。やられちゃいました」


 カブトでわからなかったが、俺の予想を越えた美人だった。やけに若いな。ほんとにオレより歳上なのか?


「ケガはないか、メルティ」


「問題ないですよ、ドンギオさん」


 ピコピコと、メルティが尖った耳を動かす。


「あんた、エルフだったんだな?」


「言ってませんでしたっけ? そうなんです。いまどき珍しい純正でして」


「話は後にするか」


 とにかく、目の前の障害を突破しないと。


 洞窟内に密集する魔石に照らされて、魔物が全貌を現した。


「小型の地竜か!」


 竜といっても、子どもの見た目は人間より少し大きいサイズの多足トカゲである。

 独自の生態系なので、爬虫類とはいえないが。


 それにしても、どうしてこんなところにドラゴンベビーが?


 他に卵はないから、独自に進化したのか。


「あれだな?」


 背ビレ部分に、クリスタルのような形の【魔輝石】が生えている。

 あのせいで、トカゲが虫型ドラゴンにまで成長したのだろう。

 エサの虫を食った拍子で、寄生されたのか?


「グビビ」


 トカゲの顔が変形し、複数の目がこちらを見据える。顔までクモそっくりになるとは。


「変異種って、コイツのことだったのか!」


 オレは、杖を取る。


 コイツが、ここのボスかよ。ドラゴンベビー相手だったら、オレも骨が折れる。


「またシッポ攻撃が来る!」


 メルティをかばって、オレはシッポを杖で受けた。


「グッハ!」


 重い一発を食らう。手がビリビリと痺れた。


「お返しだ!」


 杖を旋回させて、ゼロ距離からファイヤーボールをお見舞いする。


「グエエエエ!」


 シッポをちぎられて、モンスターは悶絶した。


 勝てない相手ではなさそう。オレとメルティで行けば。


 ドラゴンが、壁じゅうの魔法石を食らう。

 魔輝石が輝きを増して、ドラゴンの身体を大きくさせた。

 シッポまで再生していく。


「くそ、まだ進化するのか!」


「魔力の流れを止めないと、ダメのようです」


「ドワーフの筋力でやるしか!」


 一旦オレは魔法使いにこだわるのをやめて、杖で頭を叩き潰そうとした。


 多足の引っかきをかわして、頭部へ一撃を喰らわせる。


 だが、あと一歩のところで止められた。クモの糸が、オレの動きを封じたのである。


「くっそ! セルフバーニング!」


 炎の魔法を全身にまとって、糸を燃やして脱出した。

 だが、離れようとしたスキに、シッポの強烈な一撃を食らう。


 壁に激突する瞬間、メルティが身を挺してかばってくれた。


 一緒になって、地面を転がる。


「オレは平気だ。壁にあたったくらいでくたばるようなヤワじゃない!」


「ですがここは尖った魔石だらけです。万が一後頭部にでも突き刺さったら、いくら頑丈でも」


 吹っ飛ばされた鉄カブトを、メルティが指差す。


 魔法石の先端が、カブトを突き抜けていた。


「たしかに、な」


「魔法で倒すしかありません。ワタシの付与魔術をお教えしますので、それでやっつけましょう」


「いいのか?」


「ワタシはどんくさいけど、付与魔術は得意なのです。それとワタシはあなたの身体に、膨大な量の魔力を検出したのです。あなたに声をかけたのも、そのためで」


 オレに、魔力だって?


「以前、洞窟で呪いにかかったとか?」


「ああ。幼い頃、イタズラで入った洞窟で、呪いを受けたんだ」


「おそらくそれは呪いではありません。おそらく、魔力の塊と接触してしまったのではないかと」


 魔法に馴染みがない種族なので、魔法をそのまま呪いと勘違いしてしまったのだろうとのこと。


「話している場合ではありませんね」


 こうしている間にも、魔物は魔法石を食ってみるみる巨大化していった。

 一粒一粒はたいしたことのない石だが、ここらじゅうの魔法石をすべて喰らえばとんでもない力を得る。


「付与魔術と、あなたに眠っている魔力と対話できるように翻訳魔法もおつけいたしましょう」


 メルティが、ウニョウニョと詠唱を始めた。


「いきます。精霊よ、かのものに大地の加護を聞き取る力を与えよ。エンチャントメント! 我が望みに応え、身につける物質に力を注ぎこむ術も。マナ・ナビゲート!」


 背中に、メルティの手が当たる。


 身体が、段々と熱くなってきた。


『システム最適化。これより、チュートリアルを開始します』


 なんだ、この「音」は? 男性の声のようだが、ただの音でもある。今まで聞いたこともない反響音だ。人工的に作られたような。ゴーレムの技術の応用か?


 オレの肩に、何かが乗った。モグラ? 敵ではなさそうだ。


「心配することは、ありません。それは精霊です。ワタシにも、ほら」


 メルティの髪に、虹色の蝶が止まっている。あれも精霊なのか。


『私はあなたをナビゲートする、土の精霊。主、メルティ・イナサの指示により、あなたの魔力をサポートします』


「ああ、どうも。オレはドンギオ・ティアーニだ」


『ドンギオ・ティアーニ。あなたの魔法を最適化できるようにナビゲート致します』


「OK頼む! 急ぎで!」


『武器に魔力を注ぎ込んでください』


 イメージするだけで、勝手にナビがやってくれるらしい。


「うわ、なんだこれ!?」


 ハート型のファイヤーボールが、できあがった。

 杖も、やたら女児ウケしそうなものに変わっている。


『これが最適化された結果完成した魔法、名付けて【ハート・オブ・ファイヤー】です』


「待てよ! 魔法使いって、こっちのこと!?」




 これじゃ……【魔法少女】じゃねえか!?

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