第2話 ポンコツタマネギ剣士

「ワタタ、ワタシ、メルティ・イナサって言います。田舎から出てきた、もも、元々没落貴族の三女です。いいい、一緒に組んでくださいっ」


 タマネギの鉄カブトを被った女性が、名乗る。ズングリムックリとしたヨロイを着ているから、見た目こそゴツい。が、リアクションがカワイかった。


 メルティの背丈は一七〇センチを超えていて、並の成人男性なら軽く超えるだろう。女性にしては目立つよな、と思った。


 はたから見ると、メルティはまるまると太った印象を受ける。

 が、金属の擦れる音や足音で、オレは彼女は痩せ型だとわかった。


「いいですよ。それと、敬語はいいよ。呼び捨てで構わない。オレも騎士の出だけど、そんなに活躍したわけじゃないから」


「ありがとう、ドンギオ。ではよろしく。でも、敬語は生まれつきでして」


「じゃあそれでいいよ」


「やったー。ソロって不安だったんですよー」


 でっぷりとしたヨロイで、メルティは少女っぽいリアクションを取る。


 そのせいで、周りがちょっと引いていた。


「では、メルティさん、ドンギオさんと組むので採掘ミッションに向かいますか?」


「はいっ」


 なぜ敬礼を? 軍隊じゃあるまいし。


「お気をつけて。それと、他の冒険者が変異種らしき個体を発見したそうです。ご注意ください」


 変異種だって?

 


 依頼元である、近場のダンジョンへと向かう。


 魔法石の一種の、【魔輝石】を見つけてくるのが目的だ。照明型魔法石の一種で、モンスターが食べるとパワーアップするらしい。魔輝石は地底からのマナを吸って育っているから、その魔力を求めて魔物が食べるのだろうとのこと。


 学校の文献で、低レベルの魔輝石なら見たことはある。が、どのようなものが純度が高いのかは、経験を積まないとわからない。


 ダンジョンの中は、明るかった。周辺の壁に埋まっている、魔法石のおかげだろう。


「きれい」


 メルティが、うっとりした声を出す。


「とはいえ光を照らす程度の純度では、魔法石としては使えないけどね」


 オレは、メルティを護るために、前へ追い抜こうとした。


「ちょっとドンギオ、前はお任せを」


 グイグイっとお尻を突き出して、メルティはオレの前進を妨害する。


「ドンギオは、いつも一人でここへ?」


「ああ。オレはギルドでも変人扱いだからな。誰も声をかけてこないんだ。あんなにも長くしゃべったのは、あんたくらいだよ」


 オレが作った装備品を売ってくれという話は、何度かあった。どちらかというと、冒険よりそっちの方が金になっている。しかし勧誘の呼びかけは、今まで受けたことがない。


「ドンギオって強そうなのに、どうしてなのでしょう?」


「ドワーフなのに、実力が中途半端だからだよ」


 オレはドワーフの生まれだが、筋力が少なかった。筋肉こそ発達しているが、腕力自体は少しマッチョな人間族に近い。筋力が戻ったら、また違う見方をされるのだろう。


「それで、魔法で補強しようと思ってらっしゃるのですね?」


「いや。魔法に憧れているのは事実だ。第一、筋肉で解決できないことが可能になる」


 昔から、オレは魔法使いの伝記ばかり見ていた。魔法があれば、筋肉だけで乗り切れないことも、こなせる。


「魔法は、そこまで万能ではありません。ワタシは魔法の力を請われて、うんざりしていました。ワタシは、タンクになりたいのです」


「前衛職か?」


「はい。守られてばかりなのが、イヤなのです」


「じゃあ、オレを守ってね」


「もちろんっ。頼ってくださいねひゃああああ!」


 言っている側から、コウモリの大群に囲まれた。


 オレは、メルティに抱きつかれる。


 彼女の胸はCか、Dカップくらいだな。直接触れたわけじゃないが、ヨロイの擦れる音から測定できる。とはいえ、あんまりジロジロ見ないでおくか。


「ひええええ!」


 しかし、メルティは戦闘ができそうにない。担いでいる大剣を、抜く気配すらなかった。しきりに、カブトにコウモリが入ってこないように、つなぎ目をかばっている。


 杖から照明魔法を灯し、オレはコウモリを追い払う。


「数が多いな。筋肉ううう!」


 オレは、腕に力を込める。


 照明魔法を強め、マッチョの幻影を映し出した。


「いけ、ダブル・バイセェップスッ!」


 イケボを出して、幻影に色々とポーズを取らせる。


 オレの幻影を異様な姿をしたクリーチャーと思ったのか、コウモリたちが逃げていく。


「行ったよ」


「ごご、ごめんなさい。もっと大活躍の予定だったんですが」


 メルティが、オレからパッと離れた。


「キミはどうして、オレに声をかけたの?」


「大勢いるパーティが、苦手だからです」


 他のギラついたギルドの冒険者より、オレは声をかけやすかったらしい。


「その、かわいかっ……たので。怒らないでくださいっ」


「怒らないよ。それにオレはもう一五だ。ドワーフなら成人している歳だよ」


「じゃあ、かわいいって言われたら、心外ですよね? ごめんなさい」


「いいよ。最近のドワーフは人間の血が多少混じっているから、昔より毛むくじゃらじゃないんだ」


 昔の物語のように、種族同士が闘うなんてことは、めったにない。そんなのは大昔から生きている奴らばかりで、同種族からも「老害」呼ばわりされていた。


「でもかわいいって言われるのって、男の子だとちょっと不愉快ですよね?」


「まあ、ね。頼りなさそうに見られるし。でもいいんだ。『ブサイク!』とか、『キモい!』とか言われるより一〇〇万倍マシだよ」


「よかったぁ。次はお姉さんガンバるので、任せてくださいねっ」


 実年齢を教えているから、メルティのお姉さん発言は真実なのだろう。彼女は年上確定だ。


 とか考えていると、ゴブリンが大量に湧いてきた。コウモリを口にくわえている。


「来ましたよ。やります。とおーっ」


 広い場所まで出て、メルティが抜剣した。ようやく、大剣の出番らしい。


「おりゃ、えいっ」


 ゴブリン程度なら、オレでも楽勝で倒せる。


 しかしメルティは、張り切りながらゴブリンを退治していった。


 とはいえ、両名とも殲滅せねばというほど倒さない。襲ってくる個体たちだけを相手にする。どうせ奴らのような小型魔族は、ダンジョン内に生えている魔法石からの魔素によって、すぐ復活してしまう。


「はあはあ、やりました。追っ払いましたよ」


 メルティが、力コブを作る。といってもヨロイが邪魔でコブなんて見えないが。


「おや、アイテムをドロップしてますよ。拾いましょう」


 死んだゴブリンが、なにかをドロップしたようだ。落としたアイテムを拾おうと、メルティがしゃがむ。そのたびに、タマネギ鉄仮面が上へとズレた。


 ヨロイもカブトもデカすぎて、ちゃんとハマっていないようである。


「うわ、カブトが脱げちゃいそうです」


 ポンポンと、メルティが鉄仮面の上部分を押し込む。


 何かが、洞窟の壁をえぐっている音が聞こえた。それが、メルティの頭へと近づいてくる。


「やばいメルティ後ろ!」


「へ? うぴゃあ!」


 腰を落とした状態で、メルティが振り返った。


 その刹那、メルティ顔面を何かのしっぽが弾き飛ばす。


 なんだあの化け物は!? それよりメルティだ。無事なのか?


 哀れメルティは、力なく横たわっている。


 鉄兜が壁で潰れ、ぺちゃんこになっていた。


 マジかよ。せっかくの仲間が、油断して数分で退場だなんて。


 と思っていたが、首がない状態でメルティが半身を起こす。


「危なかったあ」


 メルティの首は無事だった。長い髪をたなびかせて、「ふう」とため息を付きつつ立ち上がる。


 どうも、攻撃されたのはメルティの首ではなく、カブトだけだったもよう。攻撃の瞬間に首を引っ込めて、事なきを得たのか。


「なんだ、よかっ……た!?」


 絶世の金髪碧眼美女が、そこにいた。

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