魔法を使いたいと願ったマッチョドワーフ少年は、魔法少女の力を得てしまった

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 脳筋は魔法使いになっちゃいけないのか?

第1話 魔法使いになりたいマッチョ

「ドワーフが魔法使いだって!? ドンギオ、お前バッカじゃねえの!?」


 一番のダチだと思っていたズゴンが、腹を抱えながらオレを笑う。


「オレは魔法使いになる」と友だちに言ったら、笑われたのだ。「ドワーフなのに」って。

「いいか、ドンギオ。ドワーフってのは冒険者として前衛に立つか、生産職なら鍛冶屋に就くかの二択になるんだぜ」


 知っている。オレたちは背丈こそ一〇才児ほどで、ヒゲもない。だが、もう一五歳だ。筋肉は細マッチョだし、子どもだって作れる。


「いくら中途半端なマッチョだからって、後衛の魔法使いなんてやったら、よけいに中途半端になるじゃねえか!」


 コイツなりにオレを心配してくれているのは、口調からわかる。


「学校に入った当時から、オレは決めていたんだ。魔法使いになるって」


「適性がなくて、結局剣術士ソードマンになったじゃねえか」


「それでもだ。こっそり図書館で勉強していたんだからな」


 さっぱり理屈なんて、わからなかったが。


 それでも、オレは魔法に憧れていた。


 筋肉だけでは解決できないことを、魔法は叶えてくれる。


「夢を持つのはいいが、『適材適所』って言葉がある」


 カロレが、工具を見せてきた。黒金に光るハンマーは周りがぐねっていて、支える霊樹できた芯はあちこちが、擦り切れている。他のどの工具も、年季が入っていた。


「俺は家業の鍛冶を継いで、世界一の鍛冶屋になる。お前は騎士家系の出だろ? せっかく俺がお前の装備を鍛えてやろうと思っていたのに!」


 コイツなりの、やっかみなのだろう。自分も戦闘力があれば、冒険者の道もあったのに。


 しかし将来的な稼ぎは、きっとカロレがオレを上回る。


「ありがとう。でもな、オレは魔法使いになるんだ」


「そんなにソードマンは不満か? ソードマンの家系なのに」


「不満なんて。父上も母上も兄弟姉妹も、みんな優しい。ソードマンである家柄に、オレはホコリを持っているよ」


「じゃあ、原因はその腕か?」


 カロレは、オレの右腕を心配した。


 幼少期から、オレの右手はまともに動かない。なんかの呪いらしいけど、家族でさえよくわからなかった。魔術師が施してくれたギプスのおかげで、生活に支障はない。だが、戦闘となるとやはりかばうような戦い方になってしまう。


 腕の損傷は、オレが魔法使いになろうと思ったきっかけの一つだ。


「だったら!」


「だからこそだ」


 オレには、討伐したい魔物がいる。


 魔法使いにさえなれば、『アイツ』に届く。


「伝説上のレアモンスターじゃねえか。ドワーフ族が出会ったかどうかすら、もはやわからねえのに」


「我がティアーニ家が討伐できなかったという記録は、残っている」


「ホントかよ? 眉唾もんだぜ。そいつだって寿命で死んでるだろうし」


「でも、会ってみたい」


 それで、オレの魔法をそいつにぶつけてやるんだ。ドワーフが無敵であることを、証明してやる。


「魚は、陸地を走れないぜ。それだけは、覚えておけよ」


「走ってみせるさ」


 友人からの忠告を、オレはふいにすることになった。


 悪いな。これだけはどうしても、成し遂げなければならない。



 オレの進路を聞いて、食卓は凍りついた。


 誰も、フォークを動かそうとしない。


「昔からドンギオはフリーダムだな。いつだって」


 家業を継いだ兄さんは、ただうなずくだけ。


「そうねえ。ど真ん中の中間子だからかしら」


 一番上の姉さんは、旦那さんと赤ん坊をあやしている。オレの話にどう反応していいのか、困っているらしい。


「ドンギオ兄貴って、やっぱ変人だね。まあ、そこが好きなんだけど」


 すぐ下の妹は、伝記を読みながら食事を取っている。本はオレのお古だ。


「おにーちゃん、まほーって何?」


 一番下の弟は、魔法使いと言われてもピンとこないようだ。この家で、もっとも騎士に憧れているからかも。


「わかった。行きなさい」


 出来損ないのオレに、父は理解を示してくれた。


「たしかに我がティアーニ家は、騎士の家系である。戦闘力は、お前にだって備わっているだろう。ヘタに死にはしないさ」


「ですわね。ケガが一番多い子だったけど、一番この家に閉じ込めておけない子だったわ」


 母はウフフと微笑みながら、オレのスープにおかわりを注ぐ。すぐ側にいるメイドさんに頼らず、自分から。


「幼い頃、あなたがダンジョンで呪いを受けたとき、私はどれだけ悲しんだか。でもあなたは、一人で解決策を模索して乗り越えた。きっと身体の異変も解決できます。母は、信じていますよ」


「母上、心強い言葉をありがとうございます」


 オレは、鼻をすする。


「泣いてるの、兄貴?」


「だいでない」


「号泣じゃん」


 妹にチャカされて、オレはどうにか涙をこらえようとする。



 翌日、オレはわずかな魔導書と旅の道具を持って、家を出る準備をした。


「ドンギオ、家のことは心配しなくていい。兄ちゃんがいるからな。お前をバカにするやつがいたら、オレがぶっ飛ばしてやる」


「ありがとう兄さん」


 抱き合いながら、オレは兄に礼を言う。


「ドンギオちゃん。いつでも、ウチに遊びにいらして。息子も、あなたに抱っこされるの大好きなの」


 子どもをあやしながら、姉さんがオレに子どもを抱かせる。「行ってくる」と告げて、姉に子どもを返した。


「ドンギオ兄貴の部屋の本さ、全部もらっていいかな? ウチも魔法、覚えたい」


「いいぞ。オレは全部暗記してるから」


「マジで? ウチの部屋と、扉で繋げちゃっていい?」


「よしいいぞ」


 オレの部屋はそのまま、妹の部屋と直結になるのかも。


「ねーちゃんばっかりずるいー。ぼくのと『きょうゆうざいさん』にしよーよー」


「わーかったっての」


 難しい言葉を並べて弟がダダをこねたので、妹は折れる。


「ドンギオおにーちゃん、かえったらお出かけのお話を聞かせて」


「おう。土産話をいっぱい聞かせてやるぞ」


 弟の頭をくしゃくしゃとなでで、オレは靴を履く。


「じゃあ父上母上、行ってきます」


 両親と家族に見守られて、オレは旅に向かった。


「待てよドンギオ!」


 前から、ダチのカロレが走ってくる。


「どうしたんだよ、その顔?」


 頭にタンコブができていて、赤黒く晴れていた。


「オヤジに殴られたんだよ。お前の身体のことを考慮しないで笑いやがったって」


「すまん。気を使わせたな」


「謝るのはこっちだ。詫びついでに、これを持って行ってくれ」


 カロレが持ってきたのは、片手持ちのハンマーだ。


「昨日、オレが初めて作ったんだ。多少の鍛冶スキルが備わってる。装備の整備に使ってくれ。気に入らなかったら、潰して素材にしてくれていいから」


「ありがとう、カロレ! 大切に使う!」


 オレは、鍛冶用のハンマーをアイテム袋にしまう。


「気をつけてな!」


「おう」


 カロレと、拳を突き合った。




 意気込んだものの、冒険者ギルドでは誰もオレには目もくれない。


 せっかく三日も馬車を乗り継いで、ドワーフ以外の種族が住むこの街まで来たのに。


「ドンギオ・ティアーニさん、今日もソロですか?」


「……はい」


 人間族の受付嬢に、同情される。


「ドンギオさんお一人様、ダンジョンで鉱物の採掘ですね。くれぐれも冒険者どうしの戦闘にはならないように」


「心得ています」


 冒険者どうしの闘争は、よほどのことがない限り禁じられていた。


 まあ、見た目マッチョなオレにケンカを売るようなやつはいないんだが。


 今日もせっせと、鍛冶仕事か。使わないヨロイや剣ばかりが、揃っていくなあ。


「あ、あの」


 ガッションガッションというヨロイの擦れる音と、それと反比例するかのような女性のきれいな声がした。鉄仮面をかぶっているのか、声がくぐもっている。後ろから聞いても、金属に響く声でわかった。彼女はきっと美人だ。


「はい! なんでしょ……う?」


「ドドド、ドンギオ・ティアーニさんですよね? パーティを組んでいただけませんか? ワタシもソロなんです」


 その女性冒険者は、頭を玉ねぎに似た鉄カブトで覆っていた。

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