ガラクタ屋と弟子
龍羽
ガラクタ屋と弟子
「僕は錬金術師じゃないんだけどねぇ」
ガラクタ屋の主人はそんな事をのんびりと宣う男だった。
用途不明のカラクリや道具、生き物なんかを扱う掘っ立て小屋のような佇まいのガラクタ屋。しかし主人たるその男は洒落た口髭を蓄えステッキを携え、シルクハットに燕尾のスゥツ、ストライプのパンツを履いた、どこぞのサァカスのエンタァテイナァか勘違い貴族のような出で立ちをしていた。
彼には弟子がいる。弟子というか、店員だが。
店のガラクタを使って色々試しては何度も失敗を繰り返す懲りない少年だ。
「全く君はドジだなぁ」
真っ白な煙に巻かれてけほけほと咳き込む弟子に、今日もガラクタ屋の主人はお決まりの文句を掛けてやる。
「今度は何に失敗したの」
「失敗を前提にしないでください」
「だって爆発して真っ白になるなんて失敗の典型例じゃない」
「……ぐうの音も出ません」
「ちゃんとそこ片付けなよ」
「はーい」
とはいえ、ガラクタは壁に天井に床にどこもかしこも山のようになっているので、どの状態を指して『片付けられている』状態なのか分からない有様だったけれど。
* * *
「おや あれが探し猫かい」
ある日、村人の猫がガラクタ屋に入り込んでしまった。
「ああ 地下室に入ってっちゃったかぁ」
村人たちの必死の追跡も虚しく、猫は地下室への扉へ滑り込む。階段下はまだ誰も見たことがない。このガラクタ屋の店主と弟子の少年以外は。
いつも面白いモノで溢れたガラクタ屋の地下。
村人たちは娯楽に飢えていた。
「見たいの? 別に構わないけどね」
ガラクタ屋の店主は、あっけらかんと地下室への扉を開く。
「物好きだね、君達も どうぞ」
ガラクタ屋の主人に続いて猫探しの者たちと地下室に興味津々の者たちが続々と入っていく。階段を降りて行った先にあったのは。
「まるで洞窟みたい」
誰かがそんな事を呟いた。
呟きは洞窟に反響して、さほど広くない空間に満ちていく。
すると奥から猫が走ってきて、村人たちの足元をすり抜け、地上へ逃げて行ったではないか。猫が逃げてきた場所からは白い煙が上がっている。
「煙が・・・!」
誰かが狼狽えた。
奥まった所はカァテンがかけられており、煙はそこから流れてくるようだった。
ガラクタ屋の主人はおもむろにそのカァテンを開ける。
現れたのは豆だらけの緑色の肌をした醜いイキモノだった。
「おししょ」
まるでドラゴンのなりそこないのようなイキモノが言葉を喋る。
「ひぃ 化け物!」
それを見た村人たちは恐慌状態となった。
ガラクタ屋の主人はくるりと振り返り、微笑み、諸手を挙げて高らかに宣言する。
「実は彼は魔族だったのだ!」
「わああああ!」
「お助けぇぇ!」
一目散に地下洞窟を飛び出していく村人たち。
残されたのはガラクタ屋の主人と醜いイキモノだけだった。
「あれ、冗談だったのに」
ガラクタ屋の主人はキョトンと肩を竦めると、くるりと振り返り、まだ戻りかけの金色の髪が生えた醜いイキモノにため息交じりに語りかける。
「まったく冗談の通じない連中だな———君は君でまたそんな怪しい
醜いイキモノは弟子の声で喋った。
「あなたが魔族でしょう」
興味無さげに彼は答えた。
「なんだ、知ってたの?」
夢はここで終わっている
R04.11.13
ガラクタ屋と弟子 龍羽 @tatsuba
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