5.
電車に乗り、一駅で隣町にはあっという間についた。
「それで」
Jは話を切り出した。
「タクトくんはどういう子どもだったのかな?」
「はい?」
「道すがら話でもしようよ」
どういう心境か知らないが、Jはこちらに興味を持っているようだった。
俺は口を開く。
「別に普通の子どもでしたよ」
「普通。あいまいな言葉だ」
続けて、と目線で促される。
「……どちらかというと劣等生ですかね。勉強もそこそこでしたし。体育とかはほとんど……。悪い成績というか」
自分で自分のことを語るのはなんだか苦手だ。
得意な人がいるのかという話だが。
「頭がいいのは知ってるよ。いい大学入ってるもんね」
「それだってギリギリの偏差値ですよ」
「
笑ってJは言う。
「家族との思い出とかは?」
「思い出……。話すほどのことはないですね。なんせ中学生までの、時間しかなかったので。毎日そろってご飯を食べて、ケンカとかもあんまりしなくて。仲の良いというか、まあ普通の家庭でした」
また普通と言ってしまった、と自分のボギャブラリーのなさに一人で落ちこむ。
「へえ。それはいいね」
「Jの家族は……」
視線があって、思わずそらしてしまった。
「あっ、別に知りたいとかじゃなくて。こんなの話すの変ですよね」
「僕は家族との思い出ないから」
なんでもないことのようにJは言った。
「物心ついたときから他人と暮らしていたからね。家族ってものが未だにどんなものなのかわからないんだ」
「……そ、そうなんですか」
なぜかすごいことを聞いてしまった気がする。
どう返していいかわからないうちにJは言った。
「まあ僕の話はどうでもいいんだけどさ。今は君の話が聞きたいんだ」
「どうしてそこまでこだわるんですか」
「同じ年代の人と話すことがあまりなくってね。だからいろいろ聞いてみたい」
改めて見るとこの人はやけに子どもっぽく見えた。
好奇心が高いというか。ささいなことでも面白がるような。
「それで家族のイベントとかはなかったの?」
「イベント?」
「ほらよくお誕生日会するとかいうじゃない。あと家族旅行とかさ。どういうものなのかなと思って」
「うちは家族旅行はあまりしなかったですね。両親とも実家ってものがないので里帰りもしませんでしたし。たまに近場に行くくらいで。誕生会も……、まあ小さい頃とかはやっていたのかもしれませんけど」
ふと思い出した。
「そういえば。一回だけ誕生日近くにパーティーに行ったことがありました」
「パーティー」
「いや……。実際は父の会社の懇親会か何かだったのかもしれないんですけど。誕生日間近でケーキを食べさせてもらったから誕生日のお祝いなのかなってそのときは勝手に思ってたんですよね」
「それはいつ頃?」
「小学生に上がったばかりの頃で……。小学生一年生か二年生のときじゃないですかね?」
「かわいい年頃だね。タクトくんもかわいかったのかな」
「やめてくださいよ」
わりと真剣な顔でJがそう言うので頭を抱えたかった。
「冗談だよ」
パーティー、と話をしていて頭の中でなにかがちらつく気がした。
「そういえばそれは大変な日だったんですね。俺も詳しくは覚えていないんですけど……。親に聞いただけで。なにか、その時パーティー会場でテロ騒ぎみたいなのがあったらしくて……」
多くの人が入口に押しかけ。
さまざまな叫び声が響いて。
人波をかきわけて父が俺と母の手を引いて逃げようとしていた。
そして、俺は転んで。
それで。それで。
どうなったのか。
「なんで忘れてたんだろう」
そうぼんやりつぶやくと、Jが言った。
「着いたみたいだね」
目の前に見覚えのある廃屋のような、家があった。
「ここであってる?」
俺はうなずく。
もやつく思いを抱えたまま、俺は足を踏み入れた。
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