2.

 携帯のアラーム音が鳴っている。

 手探りで音の発信源を探す。


「……なに」


 身を起こす。

 テーブルの上に携帯電話が置いてあった。

 アラーム音を消す。


「……痛っ」


 軽い頭痛がした。

 そして手が痛むので見てみると細かい破片のようなものがついている。

 いつも使うコップの大部分が割れて、床に散らばっていた。

 血管がさっと冷たくなった気がした。

 思い出す。

 突然家に侵入していた男。

 ささった注射器。

 なにかを噴射されて俺は倒れた。

 そのまま、今まで。

 今の時間は。

 時計を見ると正午少し前だった。

 大学の一限に出ようとして家を出て、それからすぐに引き返したのであまり長い間眠っていたわけではなかったようだ。

 頭が痛い以外に特に異常はないが、混乱する。

 先ほど突き刺された注射器はなんだ。

 あれにはなにが入っていた。

 それよりなぜ俺が。俺がなにをした?


「……わからない」


 吐き気がした。

 気分の問題なのか、体がどうかなっているのかそれさえもわからない。

 携帯の着信音が鳴った。

 メールを受信したようだ。

 いつの間に。

 宛先は知らないメールアドレスだった。

『今から三十分以内にここで』

 簡潔な一文と全国チェーンのカフェ店の地図がついていた。

 アパートから歩いて二十分くらいのところにある駅前の店だ。

 どうする。

 三十分以内なら考えているヒマはない。

 急いで俺は携帯と財布をリュックサックに突っ込んだ。

 定期入れは、ない。

 手の傷を見て、服越しに腕に触れる。

 痛みが現実だということを知らせている。

 まるで悪夢だ。

 夢だったらいいのに。

 そんな希望的観測を打ち消すように俺は玄関を出る。

 今度は鍵を忘れずにかけた。

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