第4話

 ダンジョン。


 それは神出鬼没のモンスターの巣窟であり、人を頭からつま先まで呑み込む宝物庫である。


 ひとたび足を踏み入れた者は、特別な道具や能力を使わない限り、攻略するまで外に出ることは叶わない。


 ただし、攻略した者には莫大な富と『力』が与えられる。


 攻略者が現れたダンジョンは幻のように消え去るが、その出現には少なからぬ破壊を伴う。


 ダンジョンが出現する場所と時間は誰にも予知することができず、モンスターが入らないよう施された強力な結界すらも無効化する。


 それゆえに、突如として王都の城内に出現した巨大な塔──『王都のダンジョン』によって人類が被った損害は計り知れない。


 今や王都は魔物の楽園、小さな魔界と化した。


 王都を取り戻し人類の安寧を保つには、『王都のダンジョン』を攻略し塔そのものを霧散させるほかない。



 そのように聞いた私たちは十全な準備を整え、『王都のダンジョン』攻略に向かった。

 理由は至極単純で、貴島が乗り気になったからである。


「金銀財宝だって。なあ泰ちゃん、それあったら俺たちこっちの世界で起業できんじゃないの」


 起業どころの話でないことは容易に想像がついた。金以前に名声だ。


『王都のダンジョン』を踏破すれば王都が戻る。それならば、踏破者は世界の平和を守った英雄に等しい。起業などは輝かしい人生に一代を投じたギャンブルのスタートラインでしかないが、ダンジョン攻略はエンドロールへ続くゴールテープだ。


 切ったら終わり。手に入るのは永遠の安定。


 だが、私は貴島を諭さなかった。


 私は貴島志喜という友人に夢を見たのだ。


 貴島はこの世界に愛されている。貴島はこの世界の主人公で、主人公は英雄になれると相場が決まっているのだ。


 私は主人公の行く末を一番近くで見届けたかった。どこまでも自由で圧倒的な──それでもなお友好的で寛容な輝きを世界中に知らしめる役目は、ほかでもない自分にあると信じていた。


 力を貸してやりたかった。



 かくして、貴島志喜は塔の頂上で王冠を手に入れた。

 異世界に愛されていた私の友人は、そうやって世界の一部になった。

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