Column5 辞書では「外来語」、書籍では「和製英語」の表記

 長らく日本で暮らしている外国人の方のなかに、「この日本語がおかしい!」ということを教えてくれる、日本語の本を執筆している方がいらっしゃいます。

 読んでみると、日本に住んでいる日本人では気づかないことが書いてあって、とっても面白くて興味深いのですが、「和製英語」の線引きが国語辞典と違っており、読み手として「これはどうなっているのでしょうか?」と問いたい気分になってきます。


 前回のColumnで「『smart』のように一単語で入って来ているものは、辞書では外来語と分類されている」と書きましたが、外国人が日本語のことを執筆している内容を読んでみると、「一単語で入って来ているもの」の意味も「和製英語」として捉えているようです。


「外来語と和製英語の分類が曖昧で困る!」、という方はそういらっしゃらないとは思うのですが、問題(というほどのこともないかもしれませんが)なのは、外国人の方が書いている書籍の「外来語」と「和製英語」の定義でして。ちょっと引用してみます。


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「カタカナ英語」は、言語学では「外来語」と「和製英語」に分かれています。「外来語」は、西洋のさまざまな言葉から借りた言葉です。発音は日本人が言いやすいように変わるけど、単語の意味は変わりません。一方「和製英語」は、日本人が作った英語っぽい単語です。英語圏でも単語としては存在するかもしれないけど、意味は違います。

(アン・クレシーニ『バリバリ受ける!ジャパングリッシュ(電子書籍版)』「はじめに」より)

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日本語の語彙は10パーセント以上が外来語だと言われています。そのうちの、約90%は英語からきています。ただ、和製英語は外来語とは違います。


はじめに でも触れた通り、和製英語は、「英語っぽく作られている日本語の単語」です。日本人どうしてコミュニケーションをとる役割をしています。

(アン・クレシーニ『バリバリ受ける!ジャパングリッシュ(電子書籍版)』「和製英語とは?」より)

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 上記を読んで引っかかるのは、まず「『外来語』は、西洋のさまざまな言葉から借りた言葉です。発音は日本人が言いやすいように変わるけど、単語の意味は変わりません」というところ。


 確かに国語辞典を引いても、そう書いてあるものもあるのですが、だったらどうして「smart」は「外来語」に入れているのでしょうか。もしかすると英語とは違う意味を含んでいても、英語と同様に「賢い」という意味で使う場合もあれば「外来語」に分類できるということなのでしょうか。


 また『バリバリ受ける!ジャパングリッシュ(電子書籍版)』には、「タレント」という言葉も「和製英語」として紹介されているのですが、国語辞典では「外来語」として捉えられています。


「タレント」といって、皆さんが思い浮かべるのは「芸能人」とか「知名人」でしょう。しかし英語の「talent」には、「才能」とか「素質」という意味しかなく「芸能人」は指しません。そのため、日本語の「タレント」を英語で表すときには「talent」では意味が違ってしまうので、「celebrity」などと表記します。


 著書を執筆したアン・クレシーニ氏にしてみれば、日本人が使っている「タレント」の意味はほぼ「芸能人」を指します。そのため和製英語と捉えているのだろうと推察します。


 一方の国語辞典のなかには、「talent」の元の意味である「才能・技量」という意味も掲載されているものもあります。それならば「smart」のときと同様に、「外来語として捉える」理屈は通りますが、英語の元の意味が掲載されていない国語辞典も外来語と表記しているので、一層ややこしくなっています。


 さらに、逆のパターンもあります。

 以前「コック」のところでご紹介した、スティーブン・ウォルシュ氏『和製英語 伝わらない単語、誤解される言葉』では、「コック」が和製英語に入っています。

 ここまでのColumnを読んで下さった読者の方なら分かると思いますが、これは和製英語ではなくてオランダ語から入って来た言葉です。他言語から入って来てはいるものの、もとの意味をそのまま使っていますから「外来語」に含まれるはずですが、何故か「和製英語」に部類されているのです。……うーん、難しいですねぇ。


 そんなこんなで辞書だけでなく出版されている書籍のなかでも、和製英語(「和製外来語」とも言う)と外来語の線引きが実は曖昧なのでは……? と、調べていて思った次第です。


 ちなみに上記に登場したアン・クレシーニ氏は、大学で「外来語」と「和製英語」の研究をしている大学の准教授(書籍情報)のようで、「日本人が、外来語と和製英語を区別できるかどうか」みたいな研究をしているみたいなのですが、「この曖昧な線引きの状態でどうやって研究を……?」とちょっぴり疑問に思ったり、思わなかったり……。


 また「和製英語は、『英語っぽく作られている日本語の単語』です」って書いてあるんですけど、「talent」はそのまま英語から入って来た言葉で、意味は違いますが「英語っぽく作った」ものではないかと……。


 それともこういうことでしょうか。

「talent」という言葉を英語の意味で使ったら「外来語」、日本語特有の「芸能人」という意味で使ったら「和製英語」特別でもしているのでしょうか。

 うーん、やっぱり難しいですねぇ……。皆さんは、どう思いますか?(笑)


 とりあえず、「和製英語」と「外来語」はちょっと区別しにくいみたいです、ということがお分かりいただけたら嬉しいです。辞書も出版社やレーベルによって違っているので、研究している方によって線引きが違うのかもしれません。

 兎にも角にも「和製英語」と「外来語」については、もっと資料(他の方の考えに触れないと)を集めないと答えが出ないなと思います……。


 外来語か和製英語か。

 大したことがないような話ですが、きちんと語るには日本語にある言葉がどこから入って来た言葉なのか、一歩踏み込まないといけないのだな(時には歴史も含めて)と思った次第です。


(とはいっても、「外来語」と「和製英語」の分類が曖昧だからといって困る方は、ほとんどいらっしゃらないと思いますが<笑>)


*ここ暫く外来語と和製英語でしたので、さすがにそろそろ一旦離れようと思います(笑)

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