◆質問箱◆ 「シェフ」と「コックさん」の話

 今回は、『Column3 外来語 —— 「コック」は料理人のことだけど……。』に藤光さんからいただいたコメントを取り上げようと思います。(質問ではないのですが分類が難しかったので、項目に◆質問箱◆をつけております。ご了承下さい)



Q、むかしは「コックさん」と言ってましたが、いまはまったくといっていいほど聴きませんね。本文中にあるように「シェフ」ということが多そう。ただ、「シェフ」と「コックさん」は語感も調理するものも違うようなイメージがあります。



A、藤光さんが「シェフ」と「コックさん」の語感や調理するものが違うようなイメージがあるとおっしゃって下さいましたが、確かにこの二つには違いがあります。ですが、最近はその区切りが曖昧になってきているようです。


 まず、日本語の辞典で「コック」を引くと「料理人」や「調理人」と出てきます。オランダ語から来ていることもあって、「西洋料理を料理する人」と限定している辞書もありますが、基本的には広く「料理人」を指している辞書が多いです。


 一方の「シェフ」は、「料理長」や「コック長」と出てきます。つまり、料理をする人たちを取り仕切る人、調理場の責任者を指しているのです。

 何故「シェフ」が「料理長」という意味を持っているかと言えば、この言葉がフランス語の「chef(chef de cuisine)」から来ており、「chef」には「(集団・組織の)長、頭」という意味があるからです。(『プチ・ロワイヤル仏和辞典 第5版』より)


 さて皆さん、ここまででコックとシェフの意味が違うことが確認できたかと思いますが、辞書ではこのように表記されていても、実際に人々が使っている感覚は違うようです。


 試しに、ネットで「シェフ」と入れて検索してみると、ある一定のレベルに達している料理人のことを「シェフ」としています。さらに、料理の中身は関係ありません。西洋料理人は当然シェフですが、日本料理人もシェフですし、中国料理人(中華料理人)もシェフです。

 本来は「料理長」のことを指していたはずですが、どうも「シェフ」の示す範囲が変わってきているのが分かると思います。


 これは私の想像ですが、英語の影響があると思われます。

『ジーニアス英和大辞典』を引いてみると、「シェフ」は「コック長、シェフ;(熟練した)コック」のことも示すと書いてありますので、「熟練したコック」のことを指すのであれば辻褄が合いそうです。

(そうでなかったら、日本料理や中国料理(中華料理)を「シェフ」と呼ぶのは何だか変な感じがいたします)


 このように変化しつつも、まだ日本語の辞典では「シェフ」=「料理長」としているのは、日本語に入ってきた「シェフ」がフランス語の「chef」からだと私は考えています。


 フランス料理の店では、基本的にシェフは一人。上記に述べたように、厨房の責任者だからです。そのほかに「スー・シェフ」や「シェフ・ド・パルティ」など、役割によって名前が違います。これは、実際に働いている人たちからすると当たり前のことかもしれませんが、渦中にいない者や客側には細かい役職名は知りませんので、総称して「シェフ」になっているとも考えられそうです。


 ついでなので「コック」関係で、個人的にちょっとショックに思ったことをお話します。

 あるテレビ局でオランダの旅番組を放送していたのですが、取材させてくれた住人の方が偶然にも「kok」って言ったんです。「昔、料理人をしていたんだ」と。ですが、字幕には「シェフ」と書いてあってとても残念に思いました。


 日本語に入って来ている「コック」はオランダ語の「料理人」から来ていることが分かっていれば、わざわざ「シェフ」としなくて良いはずなのですが。逆に言うと、それくらい多くの人が「コック」という言葉から遠ざかっているということなのかなと思いました。


 とはいえ会話の内容は、「kok」以外の言葉は私には分からなかったので、その人が実際に料理長までしていたならば「シェフ」で良かったのかもしれませんし、「コック」と書いて問題が起きるより、最初からシェフにしたほうがいいって思ったのか分からないので何とも言えない部分はあるのですが、「日本と縁がある場所」として紹介されていただけに何だかなと思ったという話でした。


 話が逸れてすみません。


 ここまでの話をまとめると、日本語で見るとこの二つの位置関係は「シェフ」の方が料理人の責任者で、その下に料理をする「コック」がいるという感じですね。

「シェフ」と「コック(さん)」で調理するものが違うという感覚があると、藤光さんはおっしゃっていましたが、どちらも西洋から来ている言葉なので、日本語の中だとあまりその差はないかもしれません。

 しかし「シェフ」に関しては、西洋料理の垣根を超え、日本料理や中国料理(中華料理)の熟練したコックのことも指すようになってきているようです。


 回答は以上です。


 いかがだったでしょうか。藤光さんがおっしゃったところとは少しずれた答えになってしまったかもしれませんが、「シェフ」と「コック」の違いは説明できたかなと思います。


 コメントありがとうございました。

 

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