Column18 「采配を振る」と「采配を振るう」のどちらが正しいか論争(前編)

 先日公開した◇相談箱◆にて「采配」の話を書きましたので、ついでに「采配を振る・振るう」にも触れておこうと思います。


 皆さんは、「采配」の後ろには「振る」と「振るう」、どちらを使うでしょうか。

 神永暁かみながさとる氏著の『悩ましい国語辞典』によると、次のようなことが書かれています。


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 2008(平成20)年度の文化庁「国語に関する世論調査」でも、従来の「采配を振る」を使う人が28.6%、「采配を振るう」を使う人が58.4%という逆転した結果となり、「振るう」派が完全に「振る」派を圧倒してしまったのである。

『日本国語大辞典(日国)』でも第2版に、初版にはなかった井上靖の以下の例が加わり、「采配を振るう」の形も認めるようになってしまった。

  「その下で編輯へんしゅうの采配を揮ふばかりでなく」(『闘牛』1949年)

「揮ふ」は「ふるう」と読み、歴史的仮名遣いでは「ふるふ」である。

 この例のみで「采配を振るう」を認めるのは、いささか時期尚早である気もしないではないが、「ふるう」を無視できなくなっているのは確かである。

*****


 つまり元々は「采配を振る」が一般的だったのが、2008年頃に「采配を振るう」を使う人の数が増えて逆転したということが分かると思います。


 神永氏の言うように、井上靖氏の『闘牛』という作品だけで「采配を振るう」を認めるのは確かにどうかと思いますが、『日本国語大辞典』(←日本最大の国語辞典です)にその例が載っていることを考えると、「ふるう」も無視できないという意見は頷けます。


 と、ここまでの話で何となく察したかと思いますが、「采配を振る」「采配を振るう」という二つの表現は、辞書界でもどうするか、判断が真っ二つに割れている難しい問題なのです。


 でも、言葉の問題としては面白いと思うので、これらの二つの表現をどう判断し使うかということを、色々な辞書を引き比べて考えてみましょう。


 長くなるので、次のColumnに続きます。


(続く)

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