第5話 気焔 -Mind Flare-
マサと別れた
ぶあつい
しかし、いちいち
様々な職業、事情を持つ人間たちが各地から集まり、肩を寄せ合って暮らしている。
無関心は、この町で生きていくための知恵だった。
「ほら、見てって見てって! 旬モノの
「夏場所番付が出たよぅ! 大金星の
「あぁ暑い暑い。どうなっちまってんだろうね今年は」
「いくぞ、オイラの手作りした
「そんなヘナチョコ
雹右衛門は、
「特に変わった様子はない、か」
そう思って町の方まで出てきたが、杞憂だったらしい。
「つい最近、家からすぐそこのところで人が斬られたらしいのよ。おっかないわぁ」
「どうせまた、裏仕事のろくでなしよ。ウチらには関係ないっしょ」
近頃、武術の達人や盗賊、やくざ者、殺し屋など、『
もちろん、雹右衛門もその一部には関わっている。
だが、全体の数から見ればほんの一部だ。
『大仕事』を頼みたいと言っていた、マサの言葉が頭をよぎる。
「何かが、裏の世界で起ころうとしている……いや、もう始まっているのか……?」
「まわれまわれー」
「びゅー!」
心の中でつぶやく雹右衛門の横を、
近くで祭りでもあるようだ。
町を
雹右衛門が一人であれこれ考え事をしているのが
「……そうだ。裏を這い回る『虫』がどれだけ死のうが、どうでもいい。罪のない人々が、雪路が、笑って暮らせるのならばそれで……」
雹右衛門は、
「なにか、雪路に買って帰ろうか」
少しぐらい、奮発してもいいだろう。
「雪路もそろそろ年頃だ。仕事道具だけでなく何かこう、女の子らしい綺麗な物を……」
そう思って手ごろな店を見つけて、立ち寄ろうとした。
その時だった。
「……!」
ぞわりと、雹右衛門の背筋を
「誰だ……?」
雹右衛門の背に、視線が注がれているようだった。
その気配は、
「隠しきれない殺気。それも、複数……」
思い当たる節は、一つだけだった。
「やる気か、
どこで尻尾を掴まれたのかは分からないが、このままでは町に迷惑がかかる。
「確か、近くに人の近寄らない沼地があったはず」
家へと向いていた足取りを曲げ、雹右衛門は通りを外れた。
つかずはなれずの距離を保って十数分ほど歩いた先、悪臭のする沼地で、雹右衛門は足を止めた。
周囲には、黄色く
幕府がこの土地を都として改築する際、何度も埋め立てに失敗した、狭く深い沼。
「わざわざ人目につかないところまで来てくれて、手間が省けるぜ。なぁ、『虫斬り雹右衛門』先生よ」
野太い声に呼びかけられ、雹右衛門は振り返った。
この時になって、雹右衛門は初めて相手を目視した。
敵は八人。
凶暴な目つきをした
「テメェが禍山さんを斬って
顔に炎の
「やはり
雹右衛門が問い返すと、
「ガキが偉そうに、質問に質問で返してんじゃねぇよ」
目で合図しあうと、
なぜ木刀なのか?
それは、現代において暴力関係者が刃物よりもバットや鉄パイプなどの
骨を折って痛めつけ、それでいて殺さない。
痛みや恐怖を交渉に使う人々にとって、そういう道具の方が都合が良いのだ。
「痛い目を見たくなかったら、
「教えてやる義理はない。『虫』どもに、
「お、言うねぇ? だがよ、早めに白状した方が楽に殺してもらえるぜ?」
「誰に」
「
「そうか。そいつも
「? 何がおかしい」
「いや、なに。
答えながら、雹右衛門は
スゥッと、透明な液体に濡れた
「来い。木の枝を振り回す
「あ˝ぁッ!?」
年下の少年にこれだけ言われて、怒らずにいられる剣士はいない。
剣を
それが、剣というものだ。
「かかれ! 手足全部ぶち折って泣かせてやれ!」
「オォォォッッ!」
木刀を抜いた
「死ねぃ!」
先頭の一人が、雹右衛門に斬りかかろうとして木刀を振り上げた。
武器の長さでは、
しかし雹右衛門は
刃物の専門家が、木の棒を恐れていては話にならないからだ。
「禍山の斬撃は、十数倍は
相手が木刀を雹右衛門めがけて振り下ろすよりも早く、
ピッと音を立て、刀身を濡らしていた液体が
その正体は、
その
「ぐあああああ!」
「目が、目がァ……ッ」
その両目が落ちくぼみ、白い煙が噴きだしている。
急激に冷やされた物体が空気に触れ、水蒸気を雲のように
「なっ、何をやってやがる⁉」
先頭が思わぬ形で倒れたことで、他の七人たちは勢いを失う。
「だ、誰か行けよ!」
「お前こそ!」
言い合っている
「お前たち、本当に
今度は、雹右衛門の方から
「ぐっ!」
「げぇえッ」
「ご……ッ!」
白い刃が次々と
「なっ……七人を、一瞬で……!?」
最初の一撃から十数秒後。
「おれのことを誰から聞いた?」
雹右衛門の問いに後ずさりながら、
「け……っ! 今頃はお前の屋敷に
「問題ない」
「は、はぁッ!?」
「そ、それやお前、厄海さんの恐ろしさを知らねぇから言えるのさ! あの人ァ、女子供の悲鳴を聞くのが趣味で、音が出なくなるまで遊ぶんだ。何人……いや、何十人分の死体を
「『虫』め」
雹右衛門は、
「かはっ……ひゅ……ぅ…………!」
「『虫』に墓はいらないな」
門下生たちの
「お前たちごときに
自分に言い聞かせるように、雹右衛門は強く告げた。
「こんな時のために手は打ってある。あの時みたいなことは二度と
断言した雹右衛門の
「……」
「雪路……!」
沼に呑み込まれていく亡骸たちには目もくれず、雹右衛門はもと来た道を早足で
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