第32話 願いの神話 断章
ただ一つだけ……
そう、たった一つだけ奇跡に願った。
生涯、最初で最後の哀願だった。
ただ――『彼女』を助けてほしいと……
月夜の終わり、蒼月が神秘を纏い残酷な悲劇さえ美しい美談としてしまうような、夜の頃。
消えていくただ一つの『光』に、『大丈夫』と微笑んだ涙の痕に、孤独になった青い虚ろに。
俺は正真正銘最後の願いを抱えた。
どうか――
風がそよぎ記憶すら奪ってしまいそうな静かな夜。いずれ来る朝に眼を覚ますように、立ち上がる。
悲劇は嫌いだった。惨劇はうんざりだった。守れなくて最悪だった。守りたくて痛かった。
喜劇がほしかった。みんなで笑っていたかった。涙なんて似合わないから。普通に君と出逢いたかった。
どうか――
だから、この身はずっと焦がれている。ずっとずっと暗い炎に苛まれている。それが何よりの誓いだった。
どうか――
俺は一つだけ願った。人間を見放した神々に、今なお静観する精霊たちに、希望も奇跡も与えてくれない運命に。
希望はなかった。奇跡などあるはずがなかった。誰も手を差し伸べてくれなかった。誰も助けてなんてくれなかった。
俺は無力だ。逃げることしかできなかった。みんなみんな、俺の前で死んでいった。
姉さんも、おじちゃん、おばあちゃんも。あいつもあの子も彼も彼女も――みんな……俺を置いて先に逝った。
どうか――
だから誓う。だから立ち上がる。だから抗い続ける。
それが唯一の『救い』だから――
俺はいずれ来る朝に、君のいない朝に、そして――いつかの夜に俺は願う。
どうか――ルナを助けてくれ――――
だから俺は君を救うために、命を賭けた。
今もずっと、君に
『 』になった君へ
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