第29話 加速する悪意

 時は重なりだす。


 ジュナの森、古代集落の地下室。

 そこから駆けだすリリヤの声が森の中で反響した。


「悪魔ルシファー、その名を口にするだけでも忌々しい奴の野望は『支配』だ」


 リリヤの声は落ち着きを孕んでいるようでどこまでも憎悪と殺意の裏返しだった。


「虐殺を好み殺すことを愛と履き違えている救いようのない畜生だ。奴は蹂躙と虐殺を愛し人間の生を遊びのように冒涜しては支配する。俺の家族もみんな、奴に囚われ殺された。歪まされて天にさえ還れていない」

「――――」

「話しは戻る。ここにいる理由について、一年前のこと、つまり正義の君と悪魔ルシファーのことを聞きつけたのが理由だ。そしてもう一つ、この周辺にまだルシファーが残っている情報を得たからだ」

「ルシファーがまだいる⁉そんなの知らないわよ!」


 セルナの驚愕と疑心に今は相手していられないとリリヤは一瞥して話しを進める。


「……まず一つ、俺はここ集落が危険区域として封鎖されていることからここに奴が潜んでいると目を付けた。奴の実験が続いてるならここを再び使わない理由はない。だけど、それが一つ目の罠だった」


 芸術には遠く及ばない殺風景な研究の痕跡が遠く後ろに。意味をなくした白亜の箱はまるで巣立った鳥の卵の殻のよう。

 ミラーダは僅かに首を傾げる。


「罠?どうしてそれが罠になるの?」

「あの丁寧に忘れられていた日記を読めばわかる。奴の実験は正義の排除を最後に終わっていた。つまりルシファーにとってここは既に用済みだった。だけど、俺たちはここに集められた」

「!〈権能〉の残滓と『亡者』、魔族の存在ね!」


 セルナの気づきにミラーダが思慮続ける。


「確か日記にはセルラーナさんたちの行動は予測されていた。その時からこの日を狙っていたということだね」


 もしもだ。もしも、リリヤが一年も時間を空けずここに調査に来てその日記を見つけていたとなれば……そんな仮定に意味はない。これはすべて悪魔ルシファーの策略が優秀であり見事に嵌まっただけのこと。

 そもどこまで計算された作戦だったのかリリヤにはわからない。ただわかるのは『今日』だという事実だけ。


「そして日記を読めばもう一つの罠がわかる」

「もう一つ……って日記置いてきたじゃない。えーと……」


 思い返そうとするセルナの記憶が辿るより早く、ミラーダが声に出す。


「魔族の設置……」

「――っ⁉まさか⁉」


 今の現状。アーテル王国で行われている一つの作戦。主導者と集ったギルド戦士。彼らがどこへ向かい、どれだけの戦士が国を離れたことか。何より、魔族の各地での出現により駆り出されているギルドと含め、国を守る者たちはどれだけいる。


 ――――


「コロニーの掃討作戦⁉まさかこれも――」


 一年前からすべては整えられていた。

 正義とルシファーの邂逅も偶然ではなく必然。コロニーが産まれたのも古代集落に誰かがやって来るのもすべては悪魔の掌の中。現状、アーテル王国の事情を知らないミラーダには知る由のないところ。しかしセルナは知っている。今、コロニーにどれだけの戦士が向かい国にどれだけの冒険者が残っているのかを。

 リリヤは樹海を走り抜けながら向かうべき場所、このずっと先の精鋭の国。その大きな国を目指しながら真実を口にする。


「コロニーは囮だ」


 それは奇しくもとある森で転移陣を操作する彼女の言葉と被さった。




「コロニーは囮です」

「どういうこと?」


 直ぐに連絡用の結晶石からシルヴィアの困惑した声が耳に届く。

 ノクスは説明を頭の中で最適解に並べながら、その手元は転移陣の構成に奔走していた。

 魔力経路を読み取り基となっている魔法を算出して導きだす。導き出せたいくつかの魔法からそれぞれ部分、回路に必要な理に干渉するための詠唱の文句を用いては弄り、本来の姿によく似た別物の魔法を創造し上書きするように本物の転移魔法のいくつかをサンプリングを始める。サンプリングした魔法の能力を疑似的に寄せて擦り合わせて転移魔法と同等のものに構築構成を繰り返し疑似的に創造する。

 ある程度完成した転移陣を次は地中に流れる無数の地脈を使って転移先の備えられている転移陣にパスを作る。転移魔法をサンプリングするよりも遥かに難しい作業を片手間にノクスは導き出した悪魔の策略を説明していく。


「まず始めにコロニーについてです」

「コロニー?それがどうしたの?」

「よく考えて。そもそもコロニーが出来上がるにいくつもの要素が必要なのはわかるわよね」

「……統制者の存在。外敵の少ない立地。マナが豊富かダンジョンが近くにあることでしょ。まさか、この巨大コロニーの存在事態怪しいとでも言うつもり?ありえないわ。コロニーのあったここウィミナリスの丘は北部奥よ。そう簡単に見つかるはずないわ」

「シルヴィア、忘れたの?出発する時【色彩】のエルフさんの言葉」


 そこで一度言葉を切ったノクスにシルヴィアは回想していき、ぽつりとアルメリアの小さな声が入り込んだ。


「――あの事件があったあの日から、アーテル王国の領域と北部、ジュナの森は虱潰しらみつぶしに四ヶ月の間隔を開けて調査してる。……確かそう言ってたと思うよ?」

「――っ⁉って待て。どうしてその場にいなかったアルメリアもノクスも知ってるのよ!」

「ホームの前だったから普通に聞こえてたよ?」


 あのふざけた会話が筒向けだったことにシルヴィアは羞恥心で燃やされて灰になりそうだが、それよりも確かに思い出す。


「そう言えば言ってたわね。でも結局は何もなかったのでしょ。相変わらず北以外には魔族の出没が多かったようだけど……」

「それが一つ目の罠です」


 ノクスは作業する手を止めることなく淡々と真実を述べた。だが、伝わってくる三者のそれは困惑。少しうんざりしながら説明を続ける。


「リシュマローズさんたちは言葉通り四ヶ月の周期で厳重に調査したはずです。けれど、北以外の魔族の出現が多くほとんどのギルドは魔族討伐に駆り出されていた。南西には古代集落もあり当然、被害や目撃情報の少ない北より東部方面に着目したでしょうね。既に一年前の段階から私たちの意識は誘導されていたのだと思う」


 正義失墜の日、ノクスたちが取り逃がした魔族たちは周辺の村町を破壊して周り、アーテル領域に多大な被害をもたらした。ギルド【ルージュビアグラム】によって早急に鎮静化はされたが、広大な森の中、すべての魔族を駆逐できたわけではなかった。魔族が魔族を呼んだのか、それとも繁殖行為をして種をもうけたのかは知らないが、日を増すごとに魔族の出現数が目に見えて増えていき、西部だけだった魔族の行動範囲が南部、東部へと拡大していった。現在は交代制によるギルドの派遣、見回りと制圧によって被害の拡大は抑えられている。

 一年の情勢を振り返り、シルヴィアは「ありえるわね……」と、ノクスの意見に賛同に傾くが、決定打がないとばかりに沈黙が続く。ハルバ、アルメリアも以前として訊く体制で留まる。


「通常、五百単位のコロニーが完成するのに約一年はかかると言われてるわ。統制者――悪魔がいればその限りではないのかもしれないけど、今回のコロニーは五百の倍、千と暫定されていた。それだけの魔族の軍団をいくら意識から疎外されているからと言って気づかないわけないわ」

「だから今回気づいたんでしょ。転移魔法陣を用意してギルドを収集、物資や偵察、作戦の決定。おそらくコロニーを発見したのは一ヶ月は前。どうにも囮には思えないわ」


 ノクスたちは今日コロニーの存在を知ったばかりだが、シルヴィアの言う通り数週間か一ヶ月ほど前には発見されていたはず。どうしてそれが【アストレア・ディア】に周ってこなかったのかは今は置いておくとして、けれどすべての辻褄は合う。

 ノクスは一度会話を区切り、転移陣へと集中を注ぐ。精緻な魔力操作をしながら額に汗粒を浮かべ車輪の音が近づいてくるのを耳に息を吐き切った。


「転移陣の接続完了」


 ノクスは無事こちらの転移陣と中継点の転移陣にパスを結び終え、額の汗を拭う。内心ド満足気&ドヤ顔(客観的無表情)を決めながら起動の準備に入る。魔力を転移陣に流しながらノクスは一言だけ告げる。


「この一年間、そして約一ヶ月の間。国は、いえ、多くの民衆と魔族の動きは『恐怖』ではなかった?」

「――――」


 すべてを思い出す。あの日から今日の到るまでの国の対策、魔族の行動、民衆の声、戦士の焦り、絶えぬ戦い。

 シルヴィアは一つ思い出した。


「そういうことね。……確かに民は恐怖していたわ。国が私たちの安否など確認する暇もないほど魔族の殲滅を訴えていた」


 アルメリアは一つ思い出す。


「そう、だったね。でも恐怖が大きくなったのって、確かここ最近……一ヶ月くらいだよね。……わたしにはその時よくわかってなかったけど、もしかしてコロニーのこと知ってたのかな?」


 ハルバは一つ悟る。


「であったのなら、ノクスの言いたいことはそれか。一ヶ月という空白は無力な民へ存分に『恐怖』を与える時間。民の恐慌を恐れた王家はすぐに討伐の命を出した。が故に過ぎる戦力を持ってして掃討作戦は開始された。そこには民の切願こえもあったのであろう」


 追いついたグレンはまた一つ思い出した。


「そう言えば【ルージュビアグラム】が遠征に向かうのも丁度魔族の攻撃が加速する少し前だったなぁ」


 整理をしよう。整えて考えて導かん。


「コロニーが今までどうやって隠されていたのかはわからない。けれど、国一つ、民衆を操ってのける規格外の存在がいるのなら。それは魔族の統率者である〝悪魔〟以外に考えられないわ」


 口調はいつもの通り涼やかだった。いや、淡々としているという表現を固いと言い表してもよかったほどだ。常に冷静沈着なノクスが緊張している、焦燥を抱いている事実にシルヴィアたちは一斉に息を呑む。

 魔導結晶から伝わったのか、単に自分の緊張している様に気づいたのか、ノクスは今一度浅い呼吸と胸元の青い石のペンダントに触れ閉じた眼を時間をかけてゆっくりと開く。

 視界は鮮明に嗅覚は温度すらにおいとなってくすぐり、聴覚は近づく車輪を抱き寄せた。

 足下広がる転移陣に向け、手をかざしノクスは詠唱を始まる。


「【開け天門。その道はかの羽が征く。教えよ精霊、指のなぞる蛇の道を導け。

 開闢の光と共に世界は移ろう。

 九つの城、七つの罪、十二の理。真実の掟に名を連ねその恩恵を賜ん。

 自然の声よどうかここに。風の妖精よどうかそこに。天の狭間よどうかあそこへ。

 私にあなたの道を譲り給う。開門せよ。世界よ許せ」】


 長文詠唱を読み終えたノクスは最後に魔法の名を口にする。


「【天地の黎門プレイスゲート】」


 強烈な光の柱が立ち上ったと思えば天と接続した柱は一瞬で霧散し、失敗かと思われたが転移陣周辺に総数七つの魔法陣が浮かび上がり変則的な動きをしながら線を伸ばしていく。線と線を繋げ七つの魔法陣は解かれては違う形へと作り変わっていく。

 門の形を形成した魔法陣はモノリスのように転移陣の中心に据わったと思えば、地中、転移陣の中へと入り込んでいき、人の眼には映らない地脈に光が走っていった。

 数秒もしない内に徐々に微光を浮かべていき転移陣の幾何学模様に水が流れるように白金の光水が魔法陣をなぞり完成した。転移陣は己の存在を誇張するかのように微細に光子を纏い向こうの転移陣と接続できたのが伺えた。


「遅くなって悪い!」


 と、転移陣の完成を見計らったようにグレンが手綱を引く龍車がシルヴィアたちを乗せてやって来た。


「ピッタリ」


 ノクスの五感は狼人族ウェアウルフよるも遥かに優れているので、ノクスにとっては計算通りというかわかりきっていた事実。

 手を振るグレンに軽く頷いたノクスは早速転移陣の起動に取り掛かる。


「起動させる。転移陣の真ん中に入って」

「りょーかい!でもマジでいいのか?俺は話し半分も聞いてなかったからよくわかんねーけど、これが正しいんだよな?」


 それもまた正義の固執した問いだった。

 齢十五のグレンでも三年間【アストレア・ディア】として戦地を駆け正義を掲げてきた正義の使者だ。セルナのように酔狂的とは言わないが、正しさを求める気質がノクスたちよりも色濃くあり、今もその眼は『正しさ』を訊ねている。

 しかし、ノクスにはその答えを持ち合わせていなかった。ノクスでは正しいか否かなど答えることはできない。

 だから、代理に団長としてシルヴィアが馬車から降りてアルメリアを降ろしながら答える。


「行けばわかるわ。私たちが正しいということがね」

「…………」


 今、断定はしなかった。けれど、揺らぎはなく曖昧でもなく答えは確かに示された。自分たちが正しいことはわかっている。ただ、どう自分たちが正しいのか、それをその眼で直接見極めろと言っているのだ。


「……わぁーたよ。姉さんがそう言うなら俺は従うぜ」

「なら、物資が重くてスピードが出ないみたいだから持って走ってくれない?」

「前言撤回⁉鬼畜っすね姉さん⁉鬼!悪魔!魔女!」

「ハッ、私さ。さすがに今回の件とか悪魔に掌の上で弄ばれてたこととか、お偉いさんの考えてることそか、さすがにイライラしてるわけね。でさ、後輩にはさ教育が必要だと思わない?ほら、今の私は一応『団長』だからね。ふっ、グレン――殴っていい?」

「直接的で前振りが意味をなしてねぇー⁉いや、前振りも脈絡なかったけどよォ⁉てかやめろぉぉおおおお!」


 そんなグレンの叫びの傍ら、アルメリアの魔力供給の補助をしてもらいながら転移陣を起動させるノクスたちは、なんとも言えない顔となる。


「元気だね……」

「似た者同士よ」


 ハルバだけが馬車内にて腕を組んで瞑想していた。


(俺は関わりたくなどない!)


 瞑想ではなく空気となっていた。……うん。


「座標固定――魔力充填完了――用意できたわ」


 ノクスの合図と共に一斉に龍車に乗り込む。グレンが手綱を持ちシルヴィアの合図を見て、ノクスは起動させた。


「転移開始――」


 粒子が時の幅間を流れるように白金と青の粒が線をつくり、光学的な星の河を想像させノクスたち一同を乗せた龍車は雷鳴が瞬いたかのように消え去った。

 そして天と地の門を繋ぐ自然の狭間を抜け、同じ粒子の流れが空間を刺激し再生するように頭部から順に龍車が現れた。


「どわぁっ⁉」


 ノクスたちにすれば一瞬のできごと。言葉通り瞬きの瞬間。深緑の多かった森林から浅草の香りたつ花草の多い森の一角が視界を埋めた。


「?転移のとこと違う?ズレたかも」

「仕方ないわ。それよりもここは……アルメリアわかる?」

「あの花はアケボノフウロだね。エゾギクもある」

「はいはい!俺その花知ってるぜ。アカツメクサだろぉ!」

「そうよ!よく知ってたねグレンくん」

「まーな。ミミリーあいつが気に入ってたからな」


 通り抜ける風は今だに冷たい。グレンははっと気づいて「わ、わりぃー」と謝るがその痛みを抱え忘れられていないのはグレンだけじゃない。シルヴィアもアルメリアもハルバもノクスでさえも、ずっと今も忘れた振りをしても忙しさに奔走していても、それでもふと気づけば痛いのだ。


 ここが……虚空のような空いた穴が……胸のずっと奥が。


 ただそれでも彼女たちには生きる資格があり、【正義】の意義がある。

 立ち止まれない呪縛が胸にある。

 アルメリアは痛みを紛らわすように、話しを戻す。


「あ、赤系統の花が多いからジュナの森の足部だと思うよ。位置的にはアーテル王国から見て北東かな。赤い花たちが多いここはそんなに遠くないはずだよ。えっとどれくらいだっけ?」


 そう隣の無口な武人に首を傾げるアルメリアを一瞥したハルバは少し記憶を辿り。


「確か三十分もかからぬはずだ」

「結果オーライね」

「ここから東よりの直線に進めば亀の甲羅のような丘があり、その丘を登れば国は見えるはずだ」


「よく覚えてるね。さすがハルバ!」と抱き着く勢いのアルメリアに「この程度大したことはない」とぶっきらぼうに返答しているが、口元がにやけている。アルメリアに褒められてうれしいようだ。そんなハルバの心情をアルメリアはお見通しだ。むしろそこが可愛いまであるとアルメリアはご機嫌になる。


((いや、ナチュラルにイチャつくな!))


 シルヴィアとグレンの脳内ツッコミが見事に重なり合う。

 ノクスは屋根上へと上がり世界を見渡す。グレンがノクスの合図と見て馬の変わりとなって大地を走る地龍ソイル=ラケルタを走らせる。


「全速力だァ‼いっけぇえええええ!」

「キュゥゥゥッ!」


 倒木すら踏み潰さんが如く二足のソイル=ラケルタは全速力で走りだした。目にも止まらぬ速さで情景が風に巻かれる紙のようにパラパラと切り替わっていく。常人には瞬きよりなお早い変化に視界は風景を捉えきれないが、ノクスの特殊な眼は木々の奥、眠る兎型の魔物の詳細まではっきりと見止められた。

 警戒警備するノクスにシルヴィアが再度話しの続きをする。


「悪魔は間接的に民衆を操り私たちギルドを動かした。そして今、戦力が分散されて守りの薄い国は格好の獲物」

「なら、爆発したあの男たちは万が一のための備え。いや、ドラゴンを連れてくるための生贄なのね」

「はい。ドラゴンという危険な魔物の出現によって本来なら周辺の捜索やドラゴンの解屍かいしが始まる。ドラゴンも彼らも留置させるための罠だった」

「ならこの行動は正解ね。私たちはまだ完全に悪魔の魔の手に掴まったわけじゃないわ」


 魔族がアーテル王国周辺に一年前から急激に出没している傾向があるのはシルヴィアたちとてよく知る事実。近頃は出没の傾向が偏りながらも広まっていき、魔族の数量も増加しているのは戦場を駆ける彼女たちにはよく知るところ。魔族を討伐をしている第一人者の【アストレア・ディア】だ。

 四年前の『冥王の不在』及び八年前の『龍人族ドラグニュートの破滅』からアーテル王国周辺にはドラゴンそのものの目撃情報がほとんど上がっていない。いくつもの不自然を噛み合わせればノクスの不信感は同じように導き出せた。そしてその先に行きつくのはやはり一年前の悪魔ルシファーとの事件。


「ならあの惨劇そのものが奴のシナリオ通りだったと言うか。俺たちは……あいつらの死はただ弄ばれていただけと、言うかっ」


 ハルバの激怒。押さえつけようとする感情にそれでも踏み越えてくるどうしようもうもないやるせなさ。後悔は憤怒となり憎悪にように膨れ上がる。


「ハルバ……」


 アルメリアの小さな声にはっと我に返った。


「申し訳ない」

「ううん。わたしも、一緒だから」


 グレンもアルメリアに同調する。シルヴィアはただ何も言わず前だけを見据え、ノクスは屋根上から静観した。


 森が駆け抜け影が太陽に盗まれ心と真逆の温かみを全身で感じる草原の一帯。

 吐いた息はきっとまだ白く細い。

 腑に落ちない、わからないと言う点はいくつかあるけれどノクスの考察をシルヴィアはまとめ上げる。


「悪魔ルシファーは何等かの目的のために一年以上前から今日の日を計画していた、ということね」

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