第4話 意味を知ってなお、その意味とならず
「終わったのですか?」
王室を後に外に出ると、【騎士姫】アマリリス・ルスベルティアがセルナを出迎えた。
その姿見は最速騎士風情の欠片もない女性らしいファッションで纏められており、編み込まれた金色の髪が揺れる。
膝上までの黒のスカートに緑色のブラウス、ローブが唯一の戦士風情を醸し出すが無理もいいところ。アマリリスはオシャレを自慢するようにくるりとその場で回った。
「どうですか?似合いますか?」
「ええ素敵よ。とても騎士には見えないわ」
「おっと、皮肉頂戴しました。本当の騎士様に言われては堪えますね」
「感情がまったく伝わってこないわ……」
「まーわたくしはとくに何も思っていませんので」
と言った風ないい性格をした騎士娘は「まーこんなことはどうでもよくて」と脱線させた本人が話しを切る。
「それで、セルナ様はどうするのですか?」
「どうするって……?」
何のことを問われているのかわからなかったが、扉の直ぐ側にアマリリスがいたことから盗み聞きしていたのだと把握する。
よくやるわ、と呆れるセルナは彼女が問う本質に思考を走らせ、けれどそんなもの答えは当の昔に決まっていた。
この身が【正義】を受け継いだその日から、セルラーナ・アストレアは【正義】であるのだ。
「――悪魔を倒す。それが私たち【正義】の『使命』よ」
古代より続く正義の血統。正義の女神アストレアから受け継がれし『正血』は時代を巡り『正義』と『願い』を受け継いで今の時代まで絶えずやって来た。
願いを『悲願』を果たすために、この身は戦地を駆けるのだ。
民を守り平和をもたらし悪を滅する。正義をもたらすのが『使命』。
故にセルラーナ・アストレアの身心は戦場へ駆ける。
「民を救い、平和をもたらし、悪を滅する。私たちが潰える時、それは世界が破滅するその時か、世界から悪が消滅したその時よ。だから――私は行くわ。アストレア様の血を受け継ぐ私は逃げるなんて無様は晒さない」
強い覚悟の灯った瞳だった。青金の美しい瞳は、その美しさよりも遥かな覚悟と誇りを宿しそれはまるで一降りの天に掲げる剣のようだった。
アマリリスは旧友として彼女に惚れこむ。いや、心配の念と感嘆の息と込み上げた誇らしさにその口元は僅かに緩むのだ。それを知るのは誰もいないだろうけど。
アマリリスはセルナの唇に人差し指を当てた。
「勝ってください。わたくしは願っています」
「……ええ、貴女のためにも私は負けないわ。……負けられないわ」
不敵な正義の娘に騎士娘は人差し指を唇から離しながら、やはり誇らしいと口元を歪めるのだ。
「では、セルナ様が負けましたら一日何でも奢ってもらうことにしましょう」
「縁起でもないこと言わないで。あと、負けたら私ここにいないからね⁉」
「冗談です」
「冗談に聞こえないわ!」
と、少女二人の甲高い笑い声(セルナのみ)が王宮の廊下に響き渡る。
その日の決意は正義の滾らせる炎として正義の使者たちの心に灯火を燃やす。それは大きく強く逞しく。
嗚呼、その覚悟こそが逃げることを許さない呪縛と知らないままに。
そして――月日は流れ呪縛の意味を知る時が来た。
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