第10話 退院

8月31日(水)

 妹1、妹3と、ライン電話で話をする。

 昨日の、車の中での口論や、ケアマネさんの事で、母と言い合いになった経緯や、内容を聞く。

 妹1が、「母と口喧嘩している時に、心臓がバクバクして、とても疲れた」と言っていた。今まで父母と同居していた妹2と妹3が、ずっと母のヒステリーや暴言に耐えていたんだと、改めて思ったらしい。これは、一種のDVだと。


9月1日(木)

 夕方5時頃、母から電話。

 午前中に、T総合病院に行き、内科と整形外科の紹介状をもらい、S総合病院に持っていった。すると、泌尿器科は受け取ってくれたが、整形外科は受け取ってくれなかった。通常は、T総合病院の整形外科からS総合病院の整形外科にFAXでお伺いを立ててから、紹介状を受け取るらしい。それで、母は、T総合病院整形外科の紹介状を持ってT総合病院に戻り、そこからS総合病院にFAXしてもらう様に頼んだとの事。

 大変だっただろうなあ。T総合病院の方も、こんな風に、二度手間にならない様に、説明して対応してくれたら良いのに。それとも、母が話を理解できず、一人で暴走してしまったのだろうか? 妹1と喧嘩して「もうほおっておいて!!」と言ってしまったらしいので、後にはひけず自分でやっている様だ。

 そして、以前、妹1と見に行って決めた樹木葬のお墓もキャンセルして、自分で市役所へ行き、市のお墓を申し込んだと言っていた。何が気に入らなかったんだろう。お墓の事では、母は、何年も前から何処にするか決めかねていた。母と言う人は、資料や説明書を取り寄せて熟読して決める、と言う事が苦手みたいで、知り合いからの口込みで決めてしまう所が多々ある。以前、ある人の口込みで、お寺の合同墓地に申し込んだ。けれど、このお寺は、申し込んだ時から(つまり、生きている時から)年会費の様な物を支払うと言う事がわかり、「話が違う!」と言って断ったと言う事がある。こんな風に、知り合いの口込みを、自分の都合の良い所だけを鵜呑みにしてしまう所があるので、四人姉妹は、大抵「まただよ・・・・」と思って、遠くから見守っている。父は、買い物には興味がない様で、母が良いと言えば、それでOKみたいな人で、口出しはしない。今回の市のお墓も、知り合いからの口込みだ。また、気が変わるのではないだろうか? と思っている。


 夕方、妹3からラインが来た。明日の4時からオンライン面会の予約を入れましたとの事。


9月2日(金)

 4時。オンライン面会スタート。今日は、隣に看護師さんがついてくれている様で、耳が悪い父に、通訳をして下さり、会話がスムーズに流れた。

 開口一番。「もう、帰りたい」との事。前回よりも、顔色が良く見えたのは、ライトの加減? 髭もそってもらった様だ。心配していた顔面の引きつりも、今日は感じない。あれは、画質が悪かったのだろうか? 「寝だこができて赤くなっている、自力では立てないけれど立てば歩ける、吐き気はまだ少しあるが目眩はない、食欲はあまりない」と言う事を、言っていた。妹1からの情報では、お通じも尿も出ているとの事。10分くらいだったが、前回よりも、暗い気持ちにはならなかった。


 その後、妹1から電話が来た。「父を退院させるには、ケアマネと病院で、今後の事を話す必要があるらしく、母が、早くケアマネの交代作業をしないと、前に進めないが、母はそれを解っていないから、このままだといつまで経っても、父は退院できない。お姉ちゃんから母に言って。私は「もうほっといて」と言われてしまったから、口出し出来ない」との事だった。

 まずは、母から何か言われるまで、待とうと思う。月曜日に、S総合病院でT医師と今後の事をお話する様なので、それで母がケアマネの事に気が付くかもしれない。が、母の性格だと、あの妹1との口げんかを、なかった事の様にして、さらりと、今までのケアマネさんでいくかも知れない。


9月5日(月)

 今日は、3時から、母と妹1と妹3が、S総合病院へ行き、T医師と今後の事を話す予定。

 2時半くらいに、居場所確認アプリを見ると、母のアイコンが、S総合病院にあったので、予定通りなんだなと思う。

 終わった頃に、また居場所確認アプリを見ると、今度は、T総合病院に向かっている様子。また、何か書類に不備とか、食い違いとか、疑問があって、T総合病院に行ったのかな。転院や退院の話が順調に進む事を祈る。

 夜、妹1、妹3から電話が来た。

<今日の話し合いの内容>

 まず、私達は、大きな勘違いをしていた。父は、前立腺癌に関しては、引き続きS総合病院で診てもらえる。肝臓に関しては、一度、S総合病院の外科の外来に予約をとって診てもらう。肝臓に関しては、そういう経由でないと、話がスタートしないらしい。そして、骨折に関しては、もう、自然治癒を待つだけなので、基本的には、Y整形外科で診てもらえば良いらしい。

 (そう聞くと、とても単純な事の様で、何だか空回りしていた感じだ)

 結論としては、前立腺癌と肝臓に関しては、今後は、S総合病院で診てもらえそうだ。

 そして、S総合病院の後、T総合病院に行き、「退院するにはどうしたら良いのか」と言う事を退院相談係の方に教えて頂いたらしい。まず、ケアマネと病院が連絡を取り合って、その後、本人と家族を含めて、話をして、退院日を決めるらしい。母は、退院相談係さんに、「介護事務所に変更はありませんか?」と聞かれ、「はい」と言ったらしい。妹1も、妹3も、黙っていたそうだ。心の中では、何を思っていたんだろう。私は、この話を聞き「やっぱりね」と思ったけど。


9月6日(火)

 午前中に、母から電話。明日、父の自宅でのリハビリ方法を教えてもらう為に、またT総合病院に行くとの事。ケアマネさんも一緒らしい。

 妹1が断ったと言うケアマネさんの話だが、実際には、契約者である母が断らないと「解約」にはならない。そういう事を知ってか知らずか、母は、ケアマネさんの家まで行き(知り合いなので、家も知っている)、今後も父のケアマネをお願いしたいと言ったらしい。「じゃあ、もう、文句は言えないね」と言うと「うん。解ったよ」と言っていた。

 

9月7日(水)

 夕方、姉妹グループラインに、父の写真が送信された。リハビリ室の平行棒の前で車椅子に座っている姿だった。運動用の服を着て、運動靴も履いていた。そして、とても痩せていた。約3週間の入院だったけれど、これほど痩せてしまうんだ。きっと、あまり食事を摂れていなかったんだろうなあ。病院は、少しでも、自分で食事を摂る事が出来る人には、積極的に点滴や経管栄養は与えてくれないのが普通なんだろう。妹1と、妹3のコメントには、「痩せていたけど、元気だった」「平行棒を伝ってスイスイ歩いていた」「明日、退院が決まりました」とあった。

 明日、介護ベッドと、簡易トイレのレンタルが手配出来たので、退院出来る事になったらしい。そして、父は、一人で歩けるので、車椅子は借りず、歩行器を借りる事にしたそうだ。

 父の退院が決まり、関西に住んでいる妹2も、実家に帰省する日程を立てるとの事。私も、16日か17日辺りに、帰省しようと思う。


9月9日(金)

 朝のニュースで、イギリスのエリザベス女王が逝去されたと言っていた。96才だった。6日には英保守党の新党首になったリズ・トラス氏をバルモラル城で首相に任命されたそうで、本当に、日本でいう所の、大往生だったなあと思う。父も、こんな風に、最後の最後まで、父らしく過ごして欲しいと思う。

 午前中に、介護ベッドとポータブルトイレと歩行器が届いたらしく、ラインに写真が送られて来た。

 夕方6時。父が家の中を歩行器で歩いている動画が送られて来た。やや前屈みなのは、コルセットのせいだろうか? 今にも嘔吐するかの様な前屈みの姿勢が気になる。妹3の説明だと、元気で、皆、父が思ったより歩けるので安堵しているとの事だった。

 病院の食事は、薄味で、お口に合わなかったらしいが、それにしても、痩せている。体重は55.2キロ。家に帰って、母の美味しい手料理をたくさん食べて、栄養をつけて、ぐんぐん元気になって欲しい。

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