彼女を担いで歩き出してから5分ほど経っただろう。未だ追手の姿は確認されず、このまま順調に宿屋に辿り着けるというところ。


 しかしそんなことよりも気になる事がある。


 ……はて?全くもって不可思議だ。

俺はなぜ見ず知らずの女性を宿屋まで運ぼうとしているのか。


 別に人助けは嫌いでは無い。ただなぜこんな状況に巻き込まれてしまったのか、ちょっと前の自分を問い詰めたい。


 元々エイラとリザと俺の3人で、この街を探検する予定だったはずだ。それがなぜかよく分からない殺伐とした現場に巻き込まれて、よく分からない女性を助けて、よく分からない宿屋に向かっている。


 一体どういう事なのかさっぱり分からない。少し前の俺は何を考えていたのだろうか。


 ちょっと思い返すことにしよう。


 まず俺たち3人は大通りを歩いていた。

ここは普通だ、何もおかしいところはない。

そしてこれからどこかへ行くという場面だったはずだ。


 そしたらエイラとリザがはしゃぐように先に行ってしまった。流石にこの都市ではぐれたらまずいと思いつつ、俺はなぜか二人を追いかけずに小道に入ってしまった。


 ……ここからもうおかしい。


 それで裏通りをどんどんと進んでいった結果、あの殺し合いの現場を見てしまい、俺は巻き込まれてしまった。というところだろうか。


 そう考えるとこんな状況に巻き込まれた要因はあいつらのせいだけでなく、俺の責任もある。


 人のせいにしようとしてすみませんでした。


 思わずジークは頭を下げる。すると背中から彼女の「どうした?」という声が聞こえた。だからジークは気にしないでという風に手を振った。


 それでも悪いことばかりでは無い。

あの現場に出くわしていなかったら彼女は暗殺者どもに葬られていただろう。それを防げただけでお釣りが帰ってくるほどの成果である。何より彼女を助けられてよかった。


 それに謎の連中にも喧嘩を売ることができた。これにより連中はすぐさま俺を殺そうと動き出す。そしてそれを返り討ちにすることで裏社会での名を上げる。


 成り行きでここまできてしまったが、よく考えればむしろ大成功。


 ……なのか?


 あとは彼女を宿屋まで送り届ければ完璧だ。そしてすぐにあいつらを探そう。


 ……うん。


 黙々と歩を進めていると彼女の吐息が耳に当たってむず痒くなった。


 一体何を考えているんだこの人は?


「君はこの街を1人で来たのか?」


 ……喋ろうとしてたんですね。

勘違いしてすみませんでした。


「3人で来ました。しばらくこの街に滞在する予定なんです」


「そ、そうか。こ、この街の事をあまり悪くは言いたくないが物騒なことも多い街だ。

き、気をつけるといい」


「はい」


 と、返事を返しつつジークは異常を察知する。もちろんそれは町のことではない。治安どうのこうのはとうに覚悟できている。

 

 そもそも都市になればなるほど治安なんてものは悪くなるものだし、さっきの現場に巻き込まれた時点で治安が良いと思う人は誰1人として存在しないだろう。


 それよりも気になったのは彼女の様子。

顔を見る事が出来ないので正確には分からないが、彼女は少し緊張した声色をしていた。

それに鼓動がこちらまで伝わってきている。


 もしかして毒が完全に治っておらず、心肺にまで影響を及ぼしているのか。自分の解毒魔法は初歩的なものだ。強い毒は残る。


 そうも思ったが苦しそうにはしていない。

では一体なんだというのだ。


 彼女の様子に気を傾けながら歩き続ける。


「と、ところで……。

き、君は3人で来たと言ったな。

その人たちはどんな人たちなのだろうか?」


 彼女の鼓動が少し早くなった気がした。


「どっちも女性ですよ」


「そ、そうなのか。

君の同伴の人たちは女性なんだな……」


 明らかに彼女のテンションが下がった。

 

 え……?その反応は何?俺のお供が女だったら、なんか悪い事でもあるの……?


 よくわからないがとりあえず返事をする。


「そいつらは幼馴染であり家族です。

1人はいっつも明るい奴で、もう1人は少し内気なところもあるけど、親しい人には元気いっぱいに返してくれる年下の奴です」


「幼馴染で家族なのか?」


「はい。元々別の家で生まれたんですけど、俺ともう1人の幼馴染が両親を亡くしまして、その結果明るい奴の家に引き取られました」


「そうなのかなるほど。複雑な家庭ではあるが、なんだが運命的なものを感じるな」


「そうですかね?」


「そんな君の家族、つまり君の幼馴染たちはきっと良い子なんだろう。見たことがなくてもよくわかる」


「今度あったら紹介してあげますよ」


「ありがとう。

……あぁそれと、宿屋だが見えてきた」


 彼女は俺の背中越しに指を刺す。

確かにそこには宿屋があった。裏の路地にある落ち着いた雰囲気の宿屋。


 外れにあるからといってボロいとか安っぽそうとかそういうわけでなくて、立派な木で造られた大きなログハウスのような宿屋であった。


「良い雰囲気の宿ですね」


「そうだな、君ももしよければ泊まると良い。お金は私が払おう」

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