銀髪の美女
城塞都市ブルーパレス裏通り。
本通りとは違ってここは静かな街路。
そこを1人で歩いている者がいた。
容姿端麗という言葉が相応しいそんな女性だが、服装も普通の者とは一線を画していて、軍服のようなものを着ている。
そんな彼女は苛立ちを抑えるように呟いた。
「西の魔術通りにあいつらの拠点は無しか。くっ……!」
そして左手に持っていた紙を握りつぶす。
彼女の名前はリエル・シルバー。
かつては
彼女がこんな通りを歩いていたのは、とある組織が絡んでいた。
その組織の名はデス・フォール。
この都市を裏で牛耳る犯罪集団の名だ。
1000人にも2000人にもなる構成員を抱え、麻薬の流通、奴隷売買、暗殺、貿易品の横領などを行っている。
かなりの凶悪組織だが街はあろうことかこれらを取り締まらず、それどころか黙認している有様だ。
その理由は簡単。デス・フォールはこの街の管理人や町長、その他上級役人に賄賂を贈っているからである。
最近では更に悪化の一途をたどり、組織に盾突いた者は無実の罪を着せられ、この街に罰せられることもあるというし、街ぐるみで奴隷売買を行っているという噂もあった。
本当にこの街、そして治安は腐敗している。
銀髪の彼女、リエルはそう思う。
しかしあろうことかこの巨大組織に彼女は一匹狼ながらも牙を剥いている。
当然これには理由があった。
発端はとある依頼で商人の馬車を護衛していたところ、デス・フォールの襲撃に遭ってしまい、四人メンバーのうち自分一人を残して全滅してしまった。
これをきっかけに彼女は復讐として、この組織と戦い続けているのだ。たとえ1人だとしても組織を壊滅に追いやるまで諦めない。彼女はそれを目標にささやかな抵抗を続けている。
ただ冷静に考えれば、この組織に勝てないことくらいリエルも分かっている。
なぜなら相手の数は数千人規模。そしてこの街の管理者やそれの
しかしリエルはその程度のことで屈服することなどあり得ない。例えこの都市と敵対しようとも、捕まって奴隷に成り下がろうとも、殺されようとも、死ぬまで戦い続けるだろう。
彼女たちの無念を晴らさずに自分だけ逃げることなど出来る訳が無いからだ。そして何より新たな被害者を生み出さないため。
彼女は腰に携えたレイピアを握りしめる。
今日はあいつらに復讐できなかったが、明日は必ず一矢報いる、と心にそう誓って。
「今日はこれでおしまいだな。
作戦を練って出直すしかないか…」
彼女は落胆した面持ちで歩いていた。
……その時。
背後に3人の怪しげなフードを被った者が近づいて来た。勘の良いリエルはすぐさまそれに気付き、レイピアを抜くと同時に牽制する。
後ろの連中は慌てて距離を取った。
「何者だっ!」
しかしフードの者達は何も言わない。
その代わりにマントの下に隠し持っていたナイフや杖を取り出す。
一応叫んでみたがリエルには敵の正体の大方見当が付いている。おそらく連中はデス・フォールの刺客。
それかこの街の役人の暗殺傭兵。
生き残った自分を殺すために尾行していたのだろう。
二者は一定の距離で向かい合う。
いつまでもそれが続くと思われたが、先に彼女が動いた。
「ハァッ!!」
神速の一撃を以って、ナイフの男に刺突を繰り出す。
あまりにも速い一撃。
彼女が冒険者時代に鍛えてきたレイピアの腕は至高の領域にまで達するほどだ。おそらくレイピアだけなら彼女に匹敵する者はこの街にいない。
しかし。
「……ふん」
男はその刺突を掻い潜って彼女の下へ接近する。そしてナイフで切り付けようとした。
しかし彼女も慌てて後ろに回避する。
ただ相手は3人。いつの間にか杖を持った男の接近を許してしまった。
その男は風魔法を発動させる。
烈風がすぐさまこちらの元へやって来るが、リエルはそれに合わせるようにレイピアで虚空に円を描く。すると円形の鉄が出現し、風魔法からリエルを守ってくれた。
しかし男たちの攻撃は終わりではない。
いつの間にかもう一人の暗殺者が小剣をリエルに投げつけていた。
「うっ!?」
それが太ももに刺さってしまう。
彼女はそのまま街路に倒れてしまった。
う…動けない。こ、これは毒…!?
男の小剣には即効性の毒がべったりと塗られてあった。それは神経毒。彼女の自由を奪う恐ろしい毒だ。
「わ、私はこんなところで…!」
右足を動かそうと試みるも痺れていて全く言う事を聞いてくれない。その間にも男達は近づいてくる。
「ふっふ、残念だったな女。
貴様はもうすでに裏の指名手配になっている。我が組織に歯向かうという事はこの街にも歯向かうということだ」
や、やはりそうだったか!!
街ぐるみで私を狙っていたのか!!
リエルは男たちを睨みつける。
悔しさのあまり泣き出したくなるが、それ以上に仲間達を殺された復讐心の方が強かった。
男がナイフを突き出してくる。
もはや誰も助けに来てくれない。
それどころかリエルに味方など初めからほとんどいなかった。
孤立無援なのだ。このまま誰の恨みも晴らせられずに、自分は死んでいくだろう。
……その時。
「すいませーん。ちょっと迷子になったみたいで、道を尋ねたいんですけど~」
細い街路から男が出てきた。
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