城塞都市ブルーパレス

 馬車で1日とちょっと経っただろうか、目の前に巨大な壁が見えてくる。


 城塞都市ブルーパレス。


 数多の異種族や人間との戦いに備えて造られた城塞であり、流通の要衝としても栄えている街の名だ。


 しかし元は魔物や外敵を防ぐための単なる砦だった。それが交易などの多目的機能を含めた結果、次第に巨大化し、様々な人が移り住んで城塞都市が完成された。


 とはいえここ1世紀ほどは要塞としての役目を果たしていないのが現状である。理由としてはいくつもあるが、その最たるものは何と言っても魔物の数の減少だろう。


 ここ1世紀、街の冒険者の数が急増しており、彼らが魔物を討伐することで被害が抑えられているのだ。


 もはや名ばかりとなった城塞都市ではあるものの、街の至る所にはその名残があり、敵を妨害するための壁や防衛設備が多数見受けられる。


 そして現在では魔法に関する研究や育成を積極的に行っているようで、この都市から多くの大魔法使いが排出されているそうだ。


 俺たちはそんな都市の門に足を踏み入れる。門と言ってもさながらトンネルのように長く、横幅も数十メートルあり、行き交う人の数も多い。


 彼らのほとんどは興味深く建築を眺めている。エイラもそのうちの一人だった。


「見てこの天井、一体どれくらいの高さなのかしら?」


 そんな言葉に誘われて俺も何気なく上を見る。


 彼女の言う通り天井は高い、いや高すぎた。30メートルは軽くあるだろうか。学校の体育館よりも遥かに高い。


 そして同時に気になる。

当時は何を塞ぐためにこれほど高くしていたのだろうと。


 巨人とかそういう亜人がいたのか?

それともドラゴンとか?


 周囲は草原ばかりで亜人が住んでいるとは思えないが、昔は違かったのかもしれない。

それこそ大巨人や大きな魔物が襲来して、これでも防ぎきれずに侵入する敵もいたのだろう。


 この手の話は送迎の人や関門の兵士さん達に、もう少し話を聞いていればよかったと今更ながらに思う。


 そんなことを考えていると、ようやく巨大な門を渡り切る。そして思わず立ち止まった。


「うわ…すごい」


「これがブルーパレス?」


 三人の視界に雄大な街並みが広がった。

どこもかしこも建物が並び建っていて、10メートル以上ある建築物も珍しくない。


 それどころか地平線の彼方まで建築物で埋め尽くされている。一面草原の村とは訳が違った光景。


 あまりにも大きいスケールに思わずエイラとリザは圧倒される。


 そんな中でも、


「ふん、中々だな……」


 俺はあえて冷静に呟く。


 これも支配者としての態度だ。

心の中は圧倒されても、態度だけは冷静に立ち振る舞うのである。


 ただジークの場合は前世で大都市を見ていた経験が大きかった。


「ねぇ、早く街並みを散策しましょ!」


「そうだね姉さんっ」


 大勢の人々が行き交う中、二人ははしゃぐように小走りで先に向かう。これには思わず呆れる他ない。


 はぐれたらどうするんだ?

俺はゆっくり歩かせてもらうからな。


 ジークは腕を組んで歩いていく。

そして二人の背中を見て思った。


 ……やれやれ。

あの振る舞いは30点だな。

まだまだあいつらも俺の領域には程遠い。


 裏の支配者である者、いついかなる時にもクールにだ。あれでは闇の組織の組員どころか、上京したての田舎者にしか見えない。

何から何まで配慮不足である。


 しかしそんな自分が一番ワクワクしていたのは秘密だ。実際、俺はここでやりたい事が数えきれないほどにある。


 まず組織のコスチュームを作りたいと思っている。組織で活動するのに普通の服ではカッコ悪い。


 では何を着るのか考え抜いた結果、貴族風の紳士なタキシードを作ることに決めた。

理由としては印象に残りやすく、得体の知れない高貴さが漂うからである。


 ちなみに他の案として出たのはフード付きの黒いマント。禁術師で死霊系使いだから、丁度いいかとも思ったが今回は却下した。


 理由としてはありきたりだから。

自分達はアイデンティティが欲しい。

どこにでもいるような怪しい格好をしていても印象不足なのである。


 敵や周囲に与える印象は恐ろしくも掴み所の無い飄々とした印象が良い。それこそ貴族の服が適しているだろう。


 あ~~楽しみだな、うへへへ……。


 そんな妄想を捗らせながら、ジークは2人とは別の道に行ったのだった。

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