犯罪組織編

新たなる旅路

「ジーク起きてる?」


「大丈夫だ。起きてる起きてる」


「失礼するわよ」


 エイラが部屋に入って来た。


 いつもの服装に見慣れたポニーテールの彼女。一つ違う点をあげるとすれば前より顔つきが大人びたところだろうか。


「……なんだ起きてるの。

またいつかみたいに寝てるのかと思ったわ」


 いつか……それはどれほど前の話か。


 俺は不思議に思う。


 少なくともここしばらくは起きるべき時間にしっかりと起きているし、むしろ俺の方が早く起きることもある。


 だから彼女に尋ねる。


「それっていつの話だよ?」


「ふふっ、分からない。

でもなんか前にこう言うやり取りがあったから思い出しちゃって」


「へぇ~~」


 よくそんな事覚えているものだ。

俺は忘れ症なのでそんな記憶は微塵もない。


「そんなにペンダントを磨いて何してるの?」


「この村を出る前に心を一新しようと思って。ほら、見てくれ。だいぶ綺麗になっただろ?」


 俺の手にある宝石は黄色とオレンジの中間のような色を放っている。エイラはそれをじっくりと眺めて相槌を打った。


「うーーん確かに。

綺麗な色はしてるわね」


 俺は丁寧に宝石を拭いていく。

思えばこの宝石も年月を掛けて随分と色が濃くなったものだ。少し前までは黄色だったが、それがいよいよオレンジへと色を変えつつある。


 そしてオレンジになったら俺は彼女と再会することになるだろう。


「今日は最後の朝食なんだから早く来なさいよ?」


「分かった分かった」


 エイラが部屋から出ていった。


「これで完璧だな」


 宝石を朝日に照らし合わせる。

傷一つない宝石はどこまで輝いて、俺に安らぎと冒険心を与えるのだった。


△△△△


 ……あれから2年の月日が流れていた。

俺とエイラは17歳、リザは14歳になった。


 なんだかあっという間な2年だったが、それと同時に特に忙しい期間でもあった。朝から農作業、夜に組織の準備、空いた時間には鍛錬と、自分の時間や休憩が中々無かった。


 それでも意外と悪いものではなかったと今の自分は思っている。


 なぜならその全ては今日の日のため。

世界に羽ばたく記念すべき1日のためだ。


 この時をどれほど待ったことだろう。


 肉体的にも精神的にも鍛えられた俺は以前よりも格段にパワーアップを遂げた。そして今日この日をもって世界を裏で牛耳るために躍進することになるだろう。


 俺はそんな期待感に胸を躍らせつつ、自分の部屋で最後の朝を味わった後、リビングへと向かって行った。


△△△△


 リビングへ向かうと4人が食事をしていた。

そこにもちろんリザの姿もある。彼女もまたこの2年間で成長した一人だ。


 幼女のような面影は消え去り、今では金髪の海外美女のような見た目をしている。背丈も大人へと急成長した。性格も前より落ち着いてお淑やかになっただろうか。


 小さくて元気一杯な彼女はとても好きだった自分からすると少しショックだが、今は今で素晴らしい。というか今はこの村一番の美人と言って過言はないだろう。


 そんな美人と向かい合うように定位置であるエイラの隣の席に俺は座った。


 おぉ…!

 

 今朝のメニューは豪華だった。

いろいろな種類の焼きたてのパン、スープ、干し肉にサラダ。


 おばさんの料理はいつも美味しそうだ。

そして何より色合いが良い。


 きっとおばさんが今日の日のために精一杯頑張って作ってくれたのだろう。それに感謝だ。


 今日は村を出る日、それはつまりこの料理ともしばらく見納め。しっかりと心の中に残しておかなくてはならない。


 そんなことを思いながら食べ始める。

するとジャックおじさんが口を開いた。


「エイラ、リザ、ジーク。

今日はお前たちと食べる最後の朝食になるな。お前たちならどこへ行ったとしても必ず上手くやっていけると信じている。もし寂しくなったり困った時はいつでも帰ってきなさい」


「そうよ。私たちはいつまでも待ってるからね……」


 おじさんやおばさんは少し泣きそうになっていた。


 2人には4年間本当にお世話になった。

実の子供ではない俺とリザにもしっかり心配りをしてくれる、優しくて頼りになる最高の第二の両親だ。


「大丈夫だよお父さんお母さん。

私たちはいつでも帰ってくるから!」


 エイラの言う通りだ。

ここへはいつでも帰って来られるし、帰ってきたいとも思っている。


「…そうだよ!

またすぐに元気な顔を見せにくるから!」


 リザはそう言う。だから俺も二人を見て、


「エイラとリザはしっかり面倒見るよ。

だから安心しておじさん、おばさん」


「ジークがそう言ってくれると安心できるな。お前も凛々しく勇ましい顔になったな」


「ありがとう」


 この村での最後の朝食を俺たち三人は精一杯楽しむ。


 そして食事を終えた三人は、馬車が来るまでの時間を自由行動とした。村でやり残したこと、気になることをやるためだ。


 俺の場合は13歳まで住んだ実家に別れをつげたり、両親の墓に挨拶をした。そして最後に訪れたのは村全体を見渡たせる小高い丘。


「ここは良いな……」


 そこにはいつものように青空と草原、眼下には村が広がっている。


 いつも自分が見ていたごく普通の光景。

それでも今日の景色はどこか違く見えた。


 ここを離れるのは正直言って少し寂しい。

しかし出会いがあれば別れもある、別れがあれば出会いもある。


 自分達の夢を掴むために旅立つのだ。

せめて最後くらいは笑顔で旅立ちたい。


 そして迎えの馬車が来た。


 見送りは様々な村の人が来てくれて別れの挨拶を交わした。苦楽を共にした幼馴染、近所のおじさん、おばさんなど実に様々だが、なんと言っても最後に別れを告げたのはジャックおじさんとカスティアおばさんだ。


 二人と抱き合って必ず戻ってくると約束した。 


 馬車が出発する。


 段々と遠くなっていく村を見るのは少し不思議な気分だった。しかしこれから俺たちの冒険が始まるのだ。いつまでも名残惜しんでなどいられない。


「初めて行く大きな街は楽しみ?」


 隣に座るエイラが景色を見ていた俺にそう尋ねる。


「楽しみだな」


 俺は移りゆく草原を見ながらそう言った。


 自分達がこれから目指す場所は王国の大きな街。この国の街とは桁違いに規模が大きく、人口も多いので様々な体験ができるだろう。


 そしてここ2年の間、着実に付けた自分達の能力を宣伝できる良い機会。新しい街では自分達の名が知れ渡ることに間違いないだろう。それは良くも悪くもだ。

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