特訓3

 そこから2人を自分なりに指導した。

かなりアバウトな指導だったが、彼女たちはセンスがあったようですぐに上達した。


 そして今ではエイラは指先の炎を自由自在に動かせるまでに成長、リザちゃんも強力な光だったり回復を扱えていた。


 それも一日だけでの話。

当然魔術の先生なんてここにはいないし、俺も管轄外の魔法を教えているわけだから、素人三人で独学しているようなものだ。それでも二人の成長は目を見張るのがある。


 途中であれ?これ俺いらないじゃね?

なんて思ったが、流石に初日二人に偉そうな顔をされたら困るので、「あ~~うん、そうっす(無知)」って感じで知ったかぶりだが教えた。


 今は二人で魔法を使ってはしゃいでいる。

俺はそれを座りながら遠目で観察していた。


 今の気分は、寂しい。ただそれだけだ。


 みんなが海ではしゃぎ合っているというのに、一人泳げないためにパラソルの下でビーチを眺めている光景にそれは似ていた。


 するとエイラが嬉しそうに走って来る。


「ほらジーク、ジーク、これ凄いでしょ?

えいっ!」


 やけに得意顔で指先の炎を操っていく。

それはまるで炎自身が意志を持っているように自由自在に姿や形を変えていき、エイラの思うままに動いていく。


 俺は体育座りしてただそれを眺めるだけ。


 正直、エイラのやっていることは俺ではできない。魔術を学びだして炎が使えないと言っていたが、悲しいことに今でも扱うことができなかった。


 どうやら俺には炎魔法の才能が無いようだ。


 深いため息を吐く。


 ショックではあるがどうしようもない。

出来ないものは出来ない、あるがままを受け入れるしか無いのだ。


 いや、やっぱり前言撤回。

ショックではない。俺には闇魔法が扱えるからそんなことはどうでもいいのだ。


 だからショック……ではない……。

……はぁ。


「どう凄い~~?」


 エイラは満面の笑みを作るが、俺に対する当てつけにしか見えない。


 そうですよ俺は炎が使えませんけど何か!?


 なんて思うものの顔には出さない。


「エイラはすごいな~~まだ一日だぞ?」


「ふふっ。でしょ~?」


 あー憎たらしい。あー腹が立つ。


 こんなんじゃ俺の威厳が消えてしまう。


 ……よしこうなったら奥の手を使うしかない。二人に俺特性のアンデッドと戦わせてやろう。それで俺の威厳を回復させるのだ。


 ふふっ、ハッハッハ!!


「どうしたのジーク?

なんか凄いゲスな顔になってるけど……」


「勉強においては二人は合格だ。もう教えることもないだろう。しかしインプットだけでは不十分、今度はアウトプットだ。だからお前たちにアンデッドを倒してもらう」


 俺は高らかに宣言する。

すると途端にアイラの顔つきが渋くなった。


「えぇ?アンデッド?

ジークが出すような化け物は流石に倒せないわよ」


 エイラは焦ったように手を振る。


「いや俺が召喚するのはゾンビとかスケルトンだから、今の2人だったら十分倒せると思う」


「本当に?」


「うん。リザちゃんはどうだ?」


「いいよー!」


「もしやばくなったら俺が止めるから心配無用。じゃあ召喚するぞ。死霊系召喚、ゾンビ、スケルトン」


 大地にヒビが入り4体のアンデッドが出てくる。2体がゾンビ、もう2体がスケルトンだ。そしてお互いに距離を取った。


 二人は魔法使いのため距離は必須。

とはいえ実戦だったらそんなことを相手が許さないので、これはあくまでも訓練である。


「準備はいいか?」


 2人はこくりと頭を下げる。

そしてあろうことかアンデッド達も頭を下げた。


 いや、おめーらじゃねぇよ……。


「よし…化け物たちよ、2人を襲え」


 途端にアンデッドたちは走り出す。


「は、速いわね!?

ゾンビたちって走るの!?」 


 だいぶ動揺しているが大丈夫だろう。

裏の組織のNO.2がこんな初歩的な敵に負けてはいけない。


「これでも喰らいなさい!」


 エイラは手のひらよりも大きい火の玉を創り出す。先程学んだばかりの魔法だ。

そして4体にぶつける。


 グギャア…!


 ゾンビ二体が早速倒れていった。


 え…?嘘でしょ?


 ゾンビは炎に弱い。

それでも今のはあまりにも呆気なかった。


 流石に弱く設定しすぎたか…?


 残るはスケルトン2体。ゾンビに対してこちらは火球の攻撃が効いたようには全く見えない。それもそう、相手はスケルトン。

すでに肉が無くなっている相手に炎など効かない。


「これは私に任せて!これでどう!?」


 巨大な光がリザちゃんの目の前に一瞬現れる。そして瞬く間にスケルトンたちは倒された。



 ……え?



 決着だ。自分が生み出したアンデッドは瞬殺されて、2人の勝利だ。


 ……あれ?この2人強くない…?


 今日は魔法を教えて何日目?

1日目だよね??ゾンビとスケルトンってこんなに弱かったっけ?それとも2人の成長が異常なのかな?


 少し混乱してきた。


 これほど簡単に倒されるとは思ってなかった。相手があの2人だからって、どうやら手を抜きすぎたらしい。


「い、いや…お見事だよ」


「ふん。まぁ大した事ないわね」


 エイラは楽勝よ、という顔をコチラに見せつけてきては髪をかき上げる。


「お兄ちゃんが私たちに優しくしてくれたんだよ」


 エイラにリザちゃんはそう言った。


 リザちゃんが良い子なのは知っている。

だけど今回ばかりはお前が作ったアンデッドは弱い……という煽りにも聞こえてきた。


「ま、まぁそうだね」


「あの程度なら全然問題ないわよ」


 つまり俺が作り出したアンデッド程度なら、平気という事なのかもしれない。


 ……む、ムカつくな。

そうだ…ちょっと強い奴作ってやろ。


 悪戯な笑みを浮かべる。


「死霊系召喚、アンデッドベアー」


 俺の目の前に巨大なアンデッドの熊が現れる。これは以前作り出した事のあるアンデッド。確かエイラにも見せた事があるはずだ。


「う、うそ…。こんなのを相手するの?」


「そうだ。

でもエイラとリザちゃんなら大丈夫だろう」


 俺はにっこりと微笑む。

エイラは怖気付いたようだ。


 決していじめているわけではない。

これはあくまで2人のため。それ以外に他意はないのである。いや他意しかない。


 先ほどのようにエイラ達は距離を取っていく。恐怖が行動に現れているのか、先ほどよりも随分と離れていった。


「距離はそのくらいだな。それじゃあ行くよ?アンデッドベアー、2人を攻撃しろ!」


 命令を聞いたアンデッドが2人目掛けて猛突進する。流石は熊というべきかその速さはゾンビやスケルトンとは次元が違った。


 これなら先ほどのようにはいかないだろう。


 よし、いけ!!クマさん!!


「これを喰らいなさい!

ファイヤーボール!」


 エイラが先程と同じ火球を作り出し、熊にぶつける。


 ウォォォ!!


 効いた様子は無かった。

次にリザちゃんが強烈な光魔法を唱える。


閃光フラッシュ!」


 ……。


 しかし全く効かない。アンデッドは光に弱いはずである、それでもアンデッドベアーは全く怯まなかった。それどころか平気な様子で突進を続ける。


 うん…?

流石にちょっとこれは強すぎたかな…?


 しかし彼女たちなら大丈夫なはずだ。

次かその次の魔法で倒せるのではないだろうか。


 アンデッドベアーはリザに接近する。

しかしこれはエイラが許さない。自身を囮にするために火球を作り出して熊にぶつける。


「こっちよ!化け物」


 咄嗟にこんな判断ができるとは賢い。

だがやはり効かなかった。


「う、うそ…。

ファイヤーボール!!」


 諦めずに彼女は火球を作り続ける。

しかし何度やっても結果は同じだった。

アンデッドベアーに全く効いていないのだ。


「い、いやぁ!?」


 これはまずいな……。


 流石のジークもそう思った。

そして熊とエイラがぶつかる、その前に、


「えっ…!?」


 熊は直前で静止した。


「流石にこれは強すぎたか…?」


 しかし熊は自ら停止したのではない。させられたのだ。そしてそれを止めたのはジークである。


 なんと彼は自分の倍以上の厚さであるアンデッドベアーを、片手だけで待ったを掛けたのだ。当然勢いが乗った衝撃や重量がのし掛かるが、ジークの顔色に苦しみは無い。


 それどころか笑みを浮かべていた。


「う、うそ!?」


「……そーらよ!!」


 ジークは熊を蹴り飛ばす。するとそのまま物凄い勢いで飛んでいき、はるか先の草原に落下した。


 そして呆気なく消滅していく。

自分達の魔法ではいくら当てても効いた様子が無かったアンデッドを一撃で葬る。

これには思わずエイラの顎が外れそうになる。


「じ、ジーク…あなたは一体何者なの?」


「何者だって…?

ジーク・スティンという村の少年だよ。

それ以外の何者でもないさ」


 おっと、裏の支配者ポーズを忘れる自分ではない。俺はすぐさま右手を開き自分の顔を覆う。どうだ、だいぶ得点が高いだろ?


 しかしエイラはそんな事を微塵も気にしていない様子だった。ぴえん。


「……とにかくた、助けてくれてありがとう」


 転んだエイラの手を引っ張って起こす。

そこにリザちゃんがゆっくりやって来た。


「リザちゃんは大丈夫だった?」


「うん!倒せないとは思ったけど、お兄ちゃんが助けてくれるから平気だった!!」


「良い子だね~」


 リザちゃんの頭を撫でる。

サラサラの金髪が実に心地良い。


 そんな二人を見てエイラは呆気に取られた。


 な、なんなの…?一体リザちゃんはあの山でどんな戦いを見たの?


 自分は見ることはできなかったが、山頂で戦っていた時のジークはどれほどの強さだったのだろうか。


 少し気になったエイラであった。



ーーーー


 これで村編は終わりです。

この物語が面白かった、続きが気になる、という方は是非とも評価、ブックマーク等お願いします。次回からは犯罪組織編です。

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