復興とこれから
家に帰るとエイラはおじさんとおばさんの介抱を一生懸命していた。俺もそんな彼女を手伝いつつ状態が良くなるまで少し待った後、リザちゃんの話を元に、あそこで起きた事を伝えた。
みんな驚いていたし悲しんでいた。しかしあの問題は自分達だけの話では無い。
村全体の問題なのだ。
家族を知らぬ間に失った人もいる。だからこの事を村中に知らせるとそこから数日間、村全体で大規模な葬儀や追悼式が行われた。
幸い俺たちは誰も失ってはいないが、リザちゃんはあの宗教によって祖父母も両親も喪った。彼女の
そして何より彼女は行く当てを失った。
だからおじさんとおばさん、エイラと俺の満場一致の意見で、この家に住ませようという事になった。
これで彼女もスティン家の新しい一員だ。
今日から彼女の名はリザ・ルーンではなく、リザ・スティンだ。俺がジーク・フォルザードではなくなったように。別におじさんに我が家の姓を名乗れ、と強制された訳ではないが、俺も彼女も本当の家族になる為に名字を変えたのだ。
そんな彼女はとても嬉しそうに、これからよろしくお願いします!!
と、みんなに言っていた。
とても可愛いかった。そして何より、
よぉ~~し、これでリザちゃんのお風呂にお邪魔できるぞぉ~~!!
なんて邪な考えも頭によぎったがやめておいた。…いつかやりたい。
△△△△
それから3週間後。
時刻は10時。
俺の部屋に5人が集まっていた。
メンバーは俺とエイラとリザちゃん。
そして2体のスケルトンである。これから会議が始められようとしていた。
「ではこれから第2回ブラック・ヴァルキリーによる会議を始める。会議長は組織の創立者たるこの私、蒼翠のフェンリルが担当する」
俺は人ができる最高のカッコ良さの限界点に昇り詰めるような仕草と声を使って、開幕の宣言をする。他から見てカッコいいかはさておき、これはなかなかに裏の支配者としてのポイントが高い演技だ。
グリフィンドールに10点。
「開幕早々だがエイラ、お前に新顔を紹介する。リザ、自己紹介を」
「私の名前はリザ・ルーンと申します。
これからよろしくお願いします、フェンリル様、エイラさん」
リザは丁寧に頭を下げた。
しかしエイラは渋い顔をする。
「――いや…別によろしくも何も、さっき部屋に入る時リザとは一緒に入ってきたし、なんなら一緒に住んでるのよ…」
エイラは的確なツッコミを入れる。
なんでリザはそんな早く適応してるのよ…。
エイラはそう思う。むしろこの会に慣れていないのはエイラの方だった。
それは言わないお約束でしょ?
俺は心の中で呟く。闇の集会がお遊戯会みたいな事になってはいけないのである。
「それで今日の議題だが、まず初めに先日の謎の宗教との一件を話そう。あの時は諸君らのお陰で連中を殲滅することが出来た、非常によく働いてくれた、感謝する」
俺は頭を下げないでそう言う。
そう、これが闇の支配者の感謝の仕方だ。
たとえ自分が悪かった、もしくは味方の活躍があったとしても、簡単に頭を下げない。
頭を下げる回数が多いほど格式が高い者はその高貴さを失っていくのである。
特に王が頭を下げれば他の者に軽んじられる。国民から慕われる王様は必要だが、それでも舐められてはいけないのだ。
なぜ自分がこんな事を言えるのか、それはライトノベルでそのようなことが書かれていたからだ。ペコペコ頭を下げるのは日本人の悪い癖だ。
……とは言いつつも、前世での石田圭は何かにつけて頭を下げていた思い出がある。
それは多分気のせいだろう…。
そうであって欲しい……。
「それについてお前たちに褒美をやろう。
2人とも前に来い」
上座のジークから見て、左右の椅子に座っていた2人はこちらへと近寄って、ひざまづいた。
「まずはエイラだ。
お前にはこれを与えよう」
後ろのスケルトンが漆の盆を差し出してくるので、そこから目的のものを手に取る。
「お前に似合った真紅の宝石のネックレス。
受け取るがいい」
鮮血が固まって結晶になったようなそれは見る者の心を奪うように輝く。そんなネックレスをひざまずいている彼女の首に通した。赤髪のエイラには非常に似合っている。
「あ、ありがとう。
じゃなくて…ありがとうございます」
それから彼女は、"うそ、こんなものいいの…?"と、呟いていた。
これは一週間ほど前に自分だけで街へと赴いて買ってきた品だ。中々に高かったが、それでも安物を二人に渡す訳にはいかないので手持ちで奮発したものだ。
そんなお金どこにあったのかと言われると、実は畑仕事や農作業でおじさんからお駄賃という名の給料を貰っているだ。旅立ちの資金であり、あんまり多くは使えないが、それでも案外余裕があった。
「次にリザだ。よく頑張った、そしてこれからもよろしく頼むぞ」
ふたたびスケルトンから品物を受け取る。
「右手を出してくれ。…‥これで良しだ」
リザの人差し指に指輪をはめた。薄暗い部屋の中でも
「あ、ありがとうございます!
おにい、じーく…フェンリル様!!」
何度も言い間違えていたが、聞かなかった事にしよう。裏の支配者は寛容なのだ。
何事にも動じずあるがままを受け入れる。
それでこそ真の支配者。
だから彼女が左手の薬指に指輪をはめ変えていたのも見なかったことにしよう……。
………。
で、できるぁ!!
なんでそこに指輪嵌め直してんだよ。
おじさんとかに見つかったらどう言い訳すんの、俺たち結婚しましたとか言うの!?
おじさんドン引きするよ!?
てか結婚したらおせっせもいいよねぇ?
今日の夜襲いに行っちゃうからね??
カルト宗教の神よりも恐ろしい性欲宗教の神が襲いに行っちゃうよ!?
なんて興奮混じりに淫らな妄想をしていたジークは咳払いを一つして気分転換を図る。
やばいやばい、こんな事を考えては闇の支配者としては失格だ、うん。
「と、とにかく良く頑張った。
お前たちには非常に期待している。
今後ともよろしく頼むぞ」
「「はいフェンリル様!!」」
エイラの野郎、こんな時だけフェンリル様って言いやがって、全く都合の良い奴だ。そんな事を思ったりもした。
△△△△
なんだかんだでその後も話が続き、やっと会議が終わった。今この部屋にいるのは主たる自分だけだ。
「お前らも下がれ」
両手を叩く事でスケルトン2体を消滅させる。暗闇の中、ペンダントを付けた自分は輝きを放ちながら、脚を組み、肘掛けに腕を置き、妙にカッコつけて今度の展望を一人考える。
はてさてどうするか?組織は成り立ったものの戦力不足は否定できない。この村を出る前に出来るだけ準備した方がいいことは間違い無いんだが…。
組織としての大きな課題は現在二つある。
一つ目は組織員の少なさ。リーダーである俺を除けば二人しか組員がいない。これはかなり少ない、いや少なすぎる。
これからいよいよ世界を裏で牛耳ろうとする時に、組織数がこんな有様では世界を掌握することなど到底不可能。
しかしこれには少なからず解決策がある。
自分がアンデッドを召喚できる以上、その役割分担をアンデッドに任せる事が出来るのだ。それにこの問題は村を飛び出したら考えればいい。なんたって新天地で組員をスカウトすればいい話である。
それよりも問題は二つ目だ。それは個としての弱さ。正直、この組織は九割型俺の力で成り立っている。俺がこの組織から抜けたり、やむ終えず組織から離れた場合、組織が崩壊してしまう。
こんなのは組織とはいえない、個人だ。
だからそうならないためにも、あの二人を鍛えるのは必須事項である。
しかしいつからあの二人を鍛えるか…。
思い立ったら吉日って言うし、明日とか丁度いいかもな。
それでは結局、吉日ではないことを忘れているジークであった。
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